暫く走って行くと、見廻り中なのかのんびりと通りを歩いてくる沖田さんを発見した!
近くのショーウィンドウで身だしなみを整えて、大きく深呼吸して沖田さんの前に立つ。

「あのっ!」

「おー、新…!?」

え!?
今沖田さん『新』って言った!?
まさか僕だって…バレた…?

そーっと沖田さんを見ると、僕に目を合わせたまま、大きく目を見開いて固まっている。

「沖田さん…?」

首を傾げて目の前で手を振ると、ハッと正気に戻った沖田さんが僕の手を掴んだ。

「スゲェ似合ってる!スゲェ可愛い!!スゲェ…嬉しい…」

「何が…?」

「デートしやしょうぜ!デート!行きやすぜィ!」

掴まれた手をぎゅう、と恋人繋ぎに繋ぎ直して沖田さんが歩き出す。
繋がれた手が熱くって、僕の体も熱くなってくる。
でも、嬉しくて幸せで…僕もぎゅうと握り返すと沖田さんの横顔が赤くなるのが見えた。

それから僕らは甘味屋に行って、河原でお昼寝して、沢山散歩した。
夢のような時間はあっという間に過ぎて…僕は現実に戻る。

「…沖田さん、お仕事だったのに…すみませんでした、サボらせてしまって…」

「別に…お前さんの為なら仕事なんて…今日ぐれェ良いんでさァ。そんな恰好してくれてんのに、一緒に居ねェなんて勿体無ェよ。」

「…やっぱりバレてたんですね…笑ってくれて良いですよ…」

やっぱり沖田さんは優しい…僕に恥をかかせないように、何も言わないで付き合ってくれてたんだ。
僕が志村新八だって分かってたのに…

諦めたように笑って、そっと沖田さんを仰ぎ見る。

…何で…何で沖田さん、こんな真剣な顔で僕を見てるんだよ…
絶対悪そうに笑ってると思ったのに…

「…沖田さん…?」

「何で俺が新八君を笑うんでィ。こんな嬉しい事…こんなチャンス、俺が見逃す訳無ェだろ。なぁ、新八くん、アンタこのまま女に…」

「僕は男ですっ!女の子になんかなれる訳無いっ!女の子だったら…女の子だったらどれだけ嬉しかったか…そうしたら沖田さんに好きだって…貴方の事が好きだって堂々と言えたのに…っ!」

そこまで言ってハッとした。
言えるのに、って…今言っちゃったじゃん、僕!

一気に顔に血がのぼって、一気に青ざめた。
男に好きだなんて言われて、沖田さんが良い気持ちする訳無いよ!

「…新八くん、俺の事…」

驚いて僕を見る沖田さんの瞳孔が開いてる…そんなの確実にドン引いてるよ。
僕はもう普通に沖田さんと話をする事すら出来ない。
顔を合わせる事すら、出来ない。

頭が真っ白になって、僕はその場から駆け出した。
沖田さんが何か言っていたような気がするけど、何も聞こえない。
ボロボロと涙が零れて止まらない。



家に逃げ帰って部屋に駆け込むと、驚いた姉上が声を掛けてくれる。

「新ちゃん、どうしたの…?誰かに苛められた…?」

怖い声になった姉上が、バキボキと指を鳴らす。

「違います!僕は…僕は何で女の子じゃないんですかっ!?」

そんな事姉上に言ったって仕方無いのに、僕は叫ばずにはいれなかった。
ごめんなさい姉上。
でも…僕は…僕は…


「何言ってるの新ちゃん?アナタ女の子よ?」


「へぇっ!?」


姉上の言葉にビックリして涙が止まる。
お…んなのこ…?僕が!?

「嘘ですっ!だって父上が…父上が…!」

「父上は男の子が欲しかったのよ。だから、新ちゃんを男の子として育てようって。母上は新ちゃんが大きくなったら自然と分かる事だから、って好きなようにさせてたけど…え…?新ちゃんまだ自分が男だって本気で思っていたの…?」

がらりと襖を開けた姉上が、呆れ返ったような顔で僕を見ていた…

「え…あのだって…父上が…」

「だって新ちゃん股の玉無いじゃない。おっぱいだって膨らんできたし、生理だって始まってるでしょ?」

「えっと…股の玉は極小サイズなんだと…おっぱいは脂肪だと思ってたし…ソレは、痔だって…」

「………新ちゃん………」

姉上が大きく溜息を吐く。
なんか…ものっ凄く恥ずかしい…僕は…女の子だったのか…そう言われてみれば、おかしな事だらけだった…なんで気付かなかったんだろ、恥ずかしい…

「やっと恋をしたから、いつ女の子に戻るのかしら、って楽しみにしてたのに…そんな事考えてたなんて…」

「こっ…恋っ!?姉上気付いて…」

「勿論。あ、銀さんも気付いてるわよ?それに、沖田さんも新ちゃんが女の子、って分かってるから安心して?」

「お…っ…!?おき…おき…沖田さん…っ…?」

ぼっ…僕が沖田さんの事を好きだって…姉上知って…

「いつだったかしら…近藤さんがストーカーになった頃にね、沖田さんが私を訪ねてきたの。『お宅の弟さん、妹さんですかィ?』って。」

「えぇぇぇぇぇっ!?」

近藤さんがストーカーになった頃…って…
まだ知り合ってすぐの頃だ…掴み合いの喧嘩とかした頃…そんな頃から…沖田さん知ってたのかよ、僕が女だって…
それなのに、ずっと黙っていてくれたんだ…
あ!だから親衛隊の隊服着た時あんなに怒ってたんだ…僕が女の子なのにあんな格好してたから!
って、今考えると物凄く恥ずかしい格好してたんじゃない…?僕…

僕がどんどん赤くなっていくと、姉上がクスクスと笑う。
笑い事じゃ無いし!

「姉上っ…なんでもっと早くに教えてくれなかったんですかぁっ…」

「あら良いじゃない。沖田さんが護ってくれていたんだから。」

「え…?護…?」

「えぇ。私が妹よ、って答えたら暫く何か考えて、それじゃぁ俺が護りやす、って言ったんだもの。」

沖田さんが…僕を護って…?
だから一緒に買い物に行ってくれたり荷物を持ってくれたり…友達になってくれたのか…
でも、何で…?

「新八ィ!」

「あら、来たみたいよ?新ちゃんの王子様。」

「なっ…姉上っ!」

姉上が窓を指差して、僕の部屋から出て行ってしまった。
そーっと窓の方を見ると、ハァハァと息を切らして綺麗な髪をかきあげる沖田さん…格好良い…
僕の事追いかけてきてくれただなんて…期待…して良いのかな…?

「おきたさん…僕の事知って…」

「新八くん、好きでさァ!俺も…俺も新八くんの事がずっと好きだ!まさか新八くんが告ってくれるなんて思わなかったから…すぐに抱きしめられなくてすまねェ!」

僕が駆け寄ると、窓の外からぎゅうっと抱きしめられて心臓がドキドキと騒ぎ出す。
それでも、暖かくて凄く幸せで…そこは凄く落ち着く場所で。

「沖田さん、大好きです…僕を彼女にしてくれますか?」

そっと見上げると、初めて見るような意地悪な笑顔。

「それは駄目でさァ。新八くんは俺の嫁さんになるんですからねィ。」

「いきなりですか!?」

「おう。彼女なんて言ってて誰かに盗られたら大変でィ。」

そう言って笑った顔はいつもの優しい笑顔で。
極限まで近付いてきたソレは、柔らかかった。

「…折角なんで、ツバ付けやした。マーキングもして良いですかィ?」

「…まー…?」

ソレが何か分からなかったんで首を傾げていると、沖田さんの手があちこちを撫でる。
…まさか…マーキングって…

「全身に痕付けてやっから、覚悟しろィ。」

ニヤリと笑う顔も格好良い…
そんな風に思えてしまうなんて、僕はもう駄目かもしれない。

「お手柔らかにお願いします。」

そう囁くと、一瞬目を見開いた沖田さんがとても嬉しそうに微笑んだ。
僕はその顔が愛おしくて、そっと柔らかい唇に口付けた。



END


フリリクにご参加有難う御座いました!
お題:沖パチで、故・父上に男として育てられたパチ恵(本気で男だと思ってる)と、そんなパチ恵を傷つけないようどう接していくか悩みながらのじりじり沖田さん