朝目覚めるとそれはいつもと変わらない光景で、王子様と出逢えた事は夢の出来事のようでした。
しかし、シンデレラの元には片方だけになったガラスの靴が残されていました。
魔法は全部解けてしまったのに、何故かそれだけは想い出が本当の事だったと教えてくれるように手元に残ったのです。

なので、シンデレラはその靴を窓際に飾って、そっと撫でました。
そうしていつもと同じように、一生懸命働きました。

お昼近くになって、外に遊びに行っていた妹が、1枚のチラシを持って大慌てで家に駆け込んできました。

「大変アル!ドSが嫁を見付けてしまったネ!!」

「え…?王子様が…?」

シンデレラの胸は潰れてしまいそうに痛みましたが、せめてどんな女の子か見てみたくて妹の持つチラシを覗き込みました。
すると、何も見えないままに、物凄い早さでチラシを隠されてしまいました。

「神楽ちゃん…僕も見たいんだけど…」

「ダメアル!こんなの見たら、新八なんかショックで死んじゃうネ!」

妹の剣幕に本気を見たシンデレラは、チラシを見るのを諦めました。
そんな事を言われて見れるほど、今のシンデレラのハートは強くは無いのです。

「…そっか…そんなに可愛い女性なんだね…」

「そうアル!メチャクチャ可愛いネ!」

「……そっか…うん…じゃぁやめとくね…」

シンデレラはしょんぼりと項垂れて昼食の支度に戻って行きました。
それを見て妹の胸は痛みますが、そんな事を言っている場合では無いのです。
大急ぎで父と姉の元に走った妹は、すぐに2人にチラシを見せました。

「銀ちゃん!姐御!大変アル!!ドSが新八見付けちゃったネ!!」

「「何だと!?」」

慌てて妹が持ち帰ったチラシを見てみると、可愛らしく着飾ったシンデレラの写真入りで、訪ね人と大きく書かれておりました。

『 訪ね人 嫁探してます

名前 新八(ちょう可愛い名前でィ!)
特徴 黒髪・眼鏡・可愛いちょう可愛いその上エロい

※ガラスの靴預かってます
返して欲しかったら早く城まで戻ってきやがれ
普段着のまんまでもお前さんは可愛いから気にすんな
又しっぽりイチャイチャしやしょう

総悟 』

最後まで目を通した3人の至る所には、血管が浮き出ておりました。

「…何だよコレは…ちょ!何がエロいんだよ!?イチャイチャって何だよ!?許しませ〜ん、お父さんは絶対許しませ〜ん!」

「…いつの間に目ぇ付けたんだ?バカ王子…まさか…私達を舞踏会におびき寄せておいてその間に家に侵入して、嫌がる新ちゃんを無理矢理…?そう言えば、2日目アイツ居なかったわよね…?」

「そんなの関係無いアル!このままじゃ新八持ってかれるネ!!」

3人が物騒な気を撒き散らしながらゴソゴソやっていると、黒い頭がひょいっとチラシを覗き込みました。

「3人ともご飯出来ましたよ?何やって…って…これ…?」

そっとチラシを手にしたシンデレラは震えていました。
信じられなくて…嬉しくて…

「新ちゃん何見てんの!?」

「誰の事かしらね?よく有る名前じゃ無い?」

「新八の事じゃないアル!眼鏡なんてそこらじゅうに掃いて捨てるほど居るヨ!!」

「あの…でも…僕…ガラスの靴って…」

「無いアル!そんなの家には無いアル!!」

「有んのかィ、無いのかィ、どっちでィ。」

その時坂田家で聞こえる筈の無い甘い声が響き、シンデレラは泣きそうになりながら振り向きました。
そこにはメイドのたまを引き摺ったまま、颯爽とシンデレラに向かって歩いてくる王子様がおりました。

「総悟さま…?」

「探しやしたぜ?新八ィ…ぷろぽーずする前に居なくなるなんてヒデェや。」

一瞬でシンデレラに近付いた王子は、逃げられないように腕で囲みました。
坂田家一同は一瞬で戦闘態勢に入りましたが、シンデレラを人質にとられているので攻撃など出来ません。
その上、戸惑いながらもシンデレラが王子の背中に手を回して抱きついてしまったので、引き剥がす事も出来ません。

「総悟さま…だって僕…」

「あん時はあんなに好きだ好きだって言ってくれたじゃねェですか…居なくなるなんてヒデェよ…」

「そうですよ…僕は総悟さまの事が大好きです!…でも僕は…」

2人はすっかり甘い空気に包まれて、もう30cm先も見えません。
今にも口付けを交わしそうですが、それでも坂田家は諦めません。
諦めたらそこで試合終了なのです。

「オイドS、新八から離れるネ!ソイツはウチの眼鏡アル。」

「そうよ?いくら王子様だからってこんな好き放題許されないわ。」

「そーそー、大体お前が探してた娘がウチの新ちゃんだって証拠はあんのかよ。」

「そうです、確固たる証拠が無ければ新八様とは言い切れません。」

ブーブーと文句を言い始めた坂田家に、王子は冷たい視線を送ります。

「往生際悪ィな旦那…新八が認めてんだから間違いな訳有るかィ。でもまぁ、どーしても、ってんなら証拠叩きつけてやらァ。山崎ィ!」

スッと、降って湧いたように黒髪の男がその場に現れました。
その手には、昨日シンデレラが落としていったガラスの靴が恭しく掲げられていたのです。

「この靴ァ特別製らしくってねィ、ピッタリ履けるのはこの世に1人しか居ねェんだそうだ。今までで昨日城に来てた女全員に履かせてみた。あぁ、アンタらを除いて。当然その女達の中にこの靴をちゃんと履けたヤツは居ねェ。中には指斬ったり足膨らましたヤツもいたけど、全部無駄な努力でしたぜ?」

王子の言葉にシンデレラは青ざめて泣きだしてしまいました。

「泣くんじゃねェや。ちゃんと森の魔法使いが治してやってるから安心しなせェ…」

「…長谷川さんが…?」

「おう、新八の事心配してやしたぜ?ちっと嫉妬しちまった…」

「そんな…」

すぐにラブ空間に入りそうになる2人にむしろ坂田家がギリギリと嫉妬していました。
そして、父は聞いた名前が出た事に八つ当たりしようとしていました。

「って事で、コイツを新八に履いてもらやァハッキリしやすが?」

「その前にまだ私達が居るじゃない。」

「そうアル、ワタシにピッタリかもしれないネ。」

「ワタシかもしれませんね。」

「…俺がアンタらに手を出すなんざ死んでも有りやせんけどねィ…気が済むなら履いてみな。」

山崎に差し出されたガラスの靴に3人とも足を差しいれてみますが、誰もがブカブカで全く合いません。
そして、遂にシンデレラがガラスの靴に足を差しいれると、それはピッタリと嵌り、疑いようも有りませんでした。

「ほらな?コイツは新八にピッタリだろ?」

勝ち誇ったような顔で坂田家を見下ろす王子に、4人の血管はブチ切れそうです。

「はぁ?何勝手に決めてんですかぁ〜?銀さんは新ちゃんがお嫁に行くなんて許しません〜」

「そうよ、大体新ちゃんは『嫁』になんか…」

「義姉さん、俺ァ次男でィ。国の事ァ全部マヨ兄貴がひっかぶるんで『嫁』は誰でもなれるんでさァ。」

いつもの人を馬鹿にしたような顔では無く、本当に真剣にそう言う王子の迫力に、姉は黙るしかありませんでした。

「…ウチのご飯、誰が作るアルか…?新八ぃ…」

最終兵器『妹の涙目』を発動し、甘えるように擦り寄られるとシンデレラは必ず言う事を聞いてくれるのです。
だから、妹は今回も又シンデレラが折れてくれると信じていました。

しかし…

「神楽ちゃん…でも僕…総悟さまが好きなんだ…どうしても好きなんだ…諦めようとしたけど…どうしても無理なんだ…お願い…お願い…お願い…」

シンデレラがポロリと涙を落とすと、そこに居た全員が慌てふためきました。
中でもシンデレラの涙に免疫が少ない王子はテンパりました。
おっそろしくあたふたしました。

「泣くな!泣かないで下せェ…俺が絶対なんとかするから…だから…」

「…はい…」

「俺が絶対ェ新八を幸せにしやすから…これからは一生俺の傍に居て下せェ。」

だから、間違えて変な所でプロポーズしてしまいました。
驚いて一瞬目を見開いたシンデレラですが、すぐに幸せそうに笑ってコクリと頷きました。

「はい…一生…傍に置いて下さい…」

そんな2人を見ていた坂田家一同は、シンデレラの笑顔を見て気付きました。
舞踏会の話しをしてから数日、シンデレラのあんな笑顔は見て居なかった事に。

「皆さん、新八様幸せそうですが?お祝いしてあげないんですか?」

メイドがそう言うと、3人は無言で各々の部屋に引きこもってしまいました。

「新八様、後の事は、不肖ワタシがなんとか致します。だから、新八様は一杯幸せになって下さいまし。」

表情など無かった筈のメイドアンドロイドは、にっこりと微笑んでシンデレラを見送りました。



そして数日後、王子とシンデレラの結婚式が盛大に執り行われました。
そこには綺麗に着飾った森の魔法使いも、武蔵っぽい人も居ましたが、坂田家の皆の姿は有りませんでした。
悲しくなったシンデレラは俯きますが、これから常に隣に在るであろう愛しい人の笑顔を見て、涙は留めました。

「おーおー、タッパーにどんだけ詰め込むんでィ、アイツら…」

「え…?」

からかうような王子の声でシンデレラが顔をあげると、そこには大量のタッパーを持ちこんだ坂田家一同。
シンデレラを見上げてニヤリと悪そうに笑うのです。

「たまの飯じゃ満足出来ないからね〜」

「玉子焼きだけじゃ、栄養偏っちゃうでしょ?」

「量が足りないアル!」

その姿を見て、シンデレラは泣いてしまいました。
でも、王子はそっとハンカチを差し出すだけで泣くなとは言いません。
嬉しい時の涙は、止める必要は無いのだから。



それからは度々坂田家はシンデレラに会う為にお城に侵入したり、困ったシンデレラが実家に帰ったり。
シンデレラが妙に苦労人の兄王子と気が合ったり。
こっそり王子様と2人で街に降りる度に大騒ぎになって新たな友人が増えていったり。
シンデレラの周りには、大好きな人達がどんどん増えていきました。

そうしてなんやかんやで、皆幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし



END


フリリクにご参加有難う御座いました!
特に童話の指定が有りませんでしたので、シンデレラにさせて頂きました
お題:沖新のパロディ話