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王子様のお出ましで、お姫様は別の世界へ逝ってしまいました、ってか…?

新八の目が、おかしくなっちまった。
もう、誰も写してねぇ。
俺も、沖田君さえも、誰も。

「そうですぜ?俺もずっと新八くんの事が好きでしたからねィ…アンタから奪ってやりたかった…俺のモンにしたかった…だから、アンタとヤる前に、俺が犯ってやったんでさァ。」

長ゼリフを喋りながら、沖田君がじわじわと玄関に向かって新八を下げていく。
隙をついて逃げるつもりか…?逃がさねぇよ…?

「へぇー、良い度胸だねぇ、沖田君。人のモン盗っちゃ駄目だってゴリとマヨに教わんなかったか?」

「あいにくウチは弱肉強食なんでさァ、ダンナ。」

そう言った沖田君の眼は、どこかおかしかった。
強いモンになろうとする眼じゃない…これから喰われるヤツの眼だ…
それは多分、己の仔を護ろうとする親の眼…
自分を喰わせて時間を稼ごうとするヤツの眼…

そんな眼をするヤツに、新八盗られんのか…?
そんな眼をするヤツから、新八盗んのか…?

「なァ、だから旦那…諦めておくんなせェ…」

ニヤリ、と笑う悪そうな顔は、もう全てを振っ切ってんのか。

「そんなの、出来る訳ねぇじゃん…沖田君さぁ、死んでくんない?」

ニッコリと笑い返してやると、眼を逸らさずに俺を見てくる。
あぁ、教えてやりてぇよ。
お前の後ろで新八が蕩けそうに幸せな目をしてる事を。
お前の思惑なんか、なんにも分からないで無駄死にさせようとしている事を。

…何でこんな事になっちまったのかなぁ…
皆誰かを好きだっただけなのになぁ…

あ…俺のせいか。
俺が大人のやり方で、無理矢理矢印の方向を変えたからか…
じゃぁ、俺が全部の責任取らなきゃだめか…大人として…
仕方ないからさ、付き合ってよ、2人とも…地獄まで…


××××


にっこりと笑った旦那が、瞬時に駆け寄ってきて木刀を振り上げる。
あぁ…俺ァ死ぬのか…
せめて新八くんは無事に逃げてくれと、玄関に向かって押し出…そうと思った俺の手は空振りして、反動で一歩下がっちまった。
その間に俺と旦那の間に滑り込んだ新八くんに木刀が振り降ろされるさまが、ゆっくりと俺の眼に映り込んでくる…

「新ぱ…!?」

俺が止める間も無く木刀が新八を襲い、すぐに俺の頭にも木刀が………



って、痛ェェェェ!!たんこぶ出来る………たんこぶ…?俺ァ…生きてる…?
慌てて新八くんを見ると、新八くんも頭を押さえて蹲っていた…あ、たんこぶ出来てる。

「…ったく、何なのオマエら?銀さんメチャクチャ傷付いたから!この傷心の銀さんを慰めるには、向こう1年パフェ食べ放題とかしてもらわないと無理だからね?」

あまりの事に、呆然と旦那の顔を見ていると、眉を潜めて俺を見返してきた。
…いつもの旦那…だよな…

「何?沖田君そんぐらいの稼ぎも無いの?そんなんじゃ、ウチの子はやんないよ?」

そう言って旦那が新八くんを抱き寄せようとするんで、慌てて俺の腕で囲んで抱きしめると新八くんも抱き返してくれた。
一瞬だけで、すぐに暴れて逃げちまったけど。

「…食べ過ぎたら糖尿悪化しやすぜ?」

「違いますぅー銀さんはまだ糖尿じゃないですぅー予備軍ですぅー」

俺と旦那がいつもみたいな遣り取りを始めると、新八が泣きそうな笑顔を浮かべた。

「…そうですよ…銀さんなんかもう糖尿みたいなもんなんですから、3日に1杯ぐらいしかダメですからね!」

「新ちゃん厳しいよ!銀さん傷付けたくせに!せめて1日1杯!」

小言を言う新八に食い下がる旦那。
まるでいつもの万事屋でさァ…

『イザという時は煌めく』か…
あのままいってたら、間違い無く全員死なないと納まりはつかなかった。
それを、旦那が引いてくれて、おどけていつものように戻してくれた。

デケェなァ…俺もそれぐらいデケェ男にならねェと、申し訳たたねェや…

「良いですぜ、旦那。毎日好きなだけパフェ喰って寿命縮めなせェ。大丈夫。新八くんの事はどーんと俺に任せて下せェ。」

「沖田君…傷口抉るの止めてくんない…?」

「団子も付けまさァ。」

「マジでか。」

ニヤリと笑った旦那が、足早に万事屋を出ていく。
さて、俺達ァちゃんと話をしなきゃいけねェな…

「…新八くん。」

「はっ…はいっ…!」

緊張した声の新八くんが、俺の眼をじっと見てくれた。

「改めて言いやす。俺ァ、ずっとアンタが…新八くんが好きだ。恋人になりたい。」

「…はい…」

「本当は、旦那との事聞くの、スゲェ辛かった。ずっと傷付いてた。」

「…はい…」

「それでも、傷口が広がっても、俺ァ新八くんと居たかった。新八くんが俺の帰る場所だった。」

「…はい…」

「それなのに、俺ァ新八くんを無理矢理犯した。許してくれなんて、言えねェ。」

「……はい…」

「でもやっぱり、俺ァ新八くんと一緒に居てェ。新八くんに逢えなかった日は生きてんだか死んでんだか判んなかった。今日逢えて、やっと呼吸が出来たんでさァ。」

「…はい……」

「だから…これからずっと俺と一緒に居てくれねェか?俺の帰る場所に…生きて帰る証になってくれねェか?」

クセェ台詞だけど、全部俺の本気の言葉だから。
だから、全部吐き出した。

ジッと見つめながら反応を待っていると、新八くんの眼から涙が零れる。

…泣く程…嫌なのか…
そりゃそうだろ。自業自得だ仕方ねェ。

俺が万事屋を立ち去ろうと玄関に向かうと、背中に衝撃が走る。
刺された…か…?
イヤ違う、この暖かさは…

「…新八くん…?」

「僕…僕っ…本当は沖田さんの事が好きなんです!犯されたの…嬉しかった…赤い痕が消えて欲しく無くて…逢えないと寂しくて…でも僕は沖田さんも銀さんも傷付けて…そんな僕が幸せになるなんて良い筈無いのに…でも…でも沖田さんともう逢えなくなるのは耐えられなくて…だから…行かないで…」

俺の背中にぎゅうぎゅうとしがみついてくる新八くんが愛しくて愛しくて。
振り向いて新八くんを抱きしめた。

「そんなん俺ァ気にしてやせん。旦那だって。本当なら俺ァ旦那に殺されたって文句は言え無かったんですぜ?俺も文句言うつもりも無かったし。それなのに、旦那は新八くんの気持ちを想ってあんな風にしてくれたんでさァ。それなのに、新八くんが幸せにならなくてどうすんでィ。全部、無駄にするつもりですかィ?」

俺が笑うと、ぽろぽろと涙を流しながら新八くんも笑う。

「良いんですか…?僕…貴方と一緒に居ても…」

「あったり前でィ!駄目な訳ねェだろ。そういやぁチャイナが新八くんを助けろ、って俺んトコに来たんだぜィ?アイツも新八くんの幸せ願ってんだ。」

「神楽ちゃんが…?」

更に泣きだした新八くんを、もっと強く抱きしめる。

「なぁ…だから…はい、って言ってくれよ…」

そう囁いた俺の眼に飛び込んできたのは、久し振りに見た俺の好きな新八くんの笑顔。

「沖田さん、僕は貴方が大好きです。僕を貴方の隣に居させて下さい!ずっと…ずっと!」

「勿論、俺の隣は新八くんだけでさァ。ずっと、ずっと。」

そうして俺達はやっと全部ヒトツになれた。
何よりも大切な、ココロがヒトツに。



END



トマトさま、フリリクにご参加有難う御座いました!
お待たせしまして申し訳ありませんでした!その上長く…
お題:銀新←沖で最終的に沖新。銀さんが新八に依存してて束縛しまくりで、新八は沖田さんに惹かれているんだけど、銀さんから離れられなくて…新八をめぐっての激しい三角関係で途中沖が新の幸せを想って身を引こうとしたりする

色々混ぜてみましたが…如何なものでしょう…?
なんとか纏まっていれば…成功かなぁ…と…