「安心したまえ新八君。可愛らしい君に危害を加えるつもりは無いぞ。」

こっ…この声は…って事は、僕を抱きかかえてるのはエリザベスさん…?

「桂さんっ!?何するんですかっ!僕、これから花火大会にっ…」

「すまんな。君に会いたいというヤツラが居てな?当然俺もだ。真選組と一緒じゃまずいんで、ちょっと君に来て貰おうかと…」

「なら、言葉で言って下さいよっ!なんで拉致されなきゃいけないんですかっ!!」

「いや、ほら、ごっさ真選組居たし。リーダーや銀時も居たから…邪魔されると思って。」

『ごめんね?』と書かれたプラカードも出て来る。

「分かりました。で?何処に行くんですか?」

「ここだ。」

それはでっかい戦艦で…アレ…?コレは…
戦艦の中に入っていくと、やっぱり見知った人達がいた。

「おー、良く来たのー!待ってたぜよー!」

「へっ…エライ可愛らしい格好じゃねぇか。」

「坂本さん!高杉さん!?」

2人の前に、ストンと降ろされる。
戦艦の甲板には酒宴の用意がしてあり、そこからは江戸の町が一望できる凄い眺めだった。

「さ、こっち来て座るぜよ。可愛いのー!惚れ直すのー!新八君、嫁に来るぜよ!!」

「イエ、僕嫁は無理なんで。」

坂本さんの冗談は、ほんと分かんないや…

「俺の膝の上に来い。可愛がってやる。」

「イエ、座る所有りますんで。セクハラですか?」

高杉さん恐いよ…なんか、ニヤ―――って笑ってる…

「桂さん、こんな場所が用意してあるんなら、神楽ちゃんと銀さんも一緒に連れてくれば良かったのに!」

「あの2人は…色々邪魔をしてくれるからな…」

「えー?そうなんですか?」

…そうかも…食べ物とかお酒とかも…あの2人は遠慮ないからなぁ…
エリザベスさんが取り分けてくれた料理を食べつつ、始まった花火大会を観る。

そういえば、さっき沖田さんに会わなかったなぁ…やっぱり今日もサボってたのかな?
…まぁ、こんなカッコ見たら笑われるよな…それとも…可愛いって言ってくれるかなぁ…

僕がぼんやりそんな事を考えていると、ひょいっと体が浮き上がる。
なっ…何…!?
振り向くと、ニヤリと笑った高杉さんの顔…ちっ…近いよっ…!!

「なぁ、新八。俺と遊んでくれねぇか?気持ち良くしてやるぜ?」

僕の頬に、ちゅっ、と唇が当たる…ちょっ!?何!?

「なっ…何するんですかっ!?」

「こんな可愛い格好しやがって…誘ってんだろ…?」

「何がですかっ!ちょっ…止めて下さいよっ!」

高杉さんの手が、僕のお尻を撫でる…なっ…何すんだこの人っ!!…って、酒くさっ!!酔っぱらいかっ!?

「さっ…坂本さんっ!桂さんっ!エリザベス先輩ぃ――――っ!!」

だっ…だめだ――っ!皆酔っぱらい―――っ!?
坂本さんはゲロ吐いてるし、桂さんはすやすやと眠ってるし、エリザベス先輩に至っては、中身の人居ない――――!?

「だっ…誰かぁ――っ!助けて下さい―――っ!!」

なんか、部下の人がいっぱい居るよねっ!?この人達っ!なんで今誰も居ないんだっ!?
僕がじたばた暴れて逃げようとしても、ガッチリ抱き込まれて逃げ出せない。
そのうち、後頭部を押さえ込まれて高杉さんの顔が近付いて来る。
って、ちょっと!!キス魔か!?この人っ!?

「うわ―――っ!!!やっ…沖田さん!沖田さん―――――っ!!!!!」

「たぁ――かすぎィ――――!」

どぉぉぉぉ―――――ん…………

僕らのすぐ横が爆発する。
なっ…何がっ…!?
爆発の衝撃で僕は空中に飛ばされる。
うわっ…受身取らなきゃ…
体を縮めて受身を取ろうとした僕を、誰かが抱きとめてくれた。

「新八ィ!大丈夫ですかぃ!?エロ親父に何もされてやせんかぃ!?」

息を切らした沖田さんが、僕をぎゅうと抱き締める。
無理矢理いつものニヤリ、とした笑顔を向けてくれるけど…その笑顔を見た瞬間、凄く安心する。
僕が首に手を回してぎゅう、と抱きつくと、一瞬びくっ、として強く抱き返してくれる。

「沖田さん――――っ…」

「さ、逃げやすぜぃ。」

「おっ…沖田さん、高杉さんを捕まえに来たんじゃないんですか!?僕は自分で逃げますから、お仕事…」

「奴らを捕まえんのは後でも出来まさぁ。俺ァ新八を助けに来たんですぜ?」

たまにしか見せてくれない綺麗な笑顔で僕を覗き込む。
…なんだよっ…ドキドキするじゃないかっ…

「有難うございます…助かりました…」

「オヤ?礼は言葉だけですかぃ?助けてくれた王子に姫がする礼といやぁ相場が決まってらぁ。」

沖田さんが、今度はニヤリ、と笑う。

もぅ…この人はっ…
僕が素早くちゅっ、と唇を塞ぐと沖田さんが固まった。
…アレ…?僕間違った…?

「新八ィ…オメェ時々大胆ですねぃ…そんな事されちゃァ俺ァ止まりやせんぜ?安心しなせぇ、俺ァ着付けも出来まさぁ!」

「アンタ僕を助けに来たんじゃないのかよっ!?」

僕が腕の中でじたばた暴れると、更にぎゅっと抱きこんで、耳元でそっと囁く。

「俺の、新八だから、助けに来たんでさぁ。浴衣もヘアピンも似合ってる。可愛いぜ?惚れなおしまさぁ。」

そっ…そんな事囁かれたら…拒めないじゃん………

「…今日中には家に帰りますからねっ!それと…姉上には無事を報告しますからっ!!………僕も大好きです…総悟さん…」

ぎゅうと首に抱きついて、耳元で言うと、沖田さんの走るスピードが上がる。
そして、懐からケータイを出して僕に渡す。

「姐御には今連絡しなせぇ。ついでに泊まりの連絡もしとけ。んな可愛い事言われて帰せる訳ねぇだろ!」

「や、帰りますから!!ぜってー帰るっ!!」

そう叫んでみたけど、結局帰る事は出来なかった…
浴衣姿が色っぽいんでぃ!とか言って無茶しやがって…
どんなに頼まれたって、もう絶対浴衣なんか着ない!と心に決めた夏でした。


END