僕らが更にスピードを上げると、後ろで悲鳴が上がった。

「銀ちゃん!死んじゃったアルカ――ッ!?」

「アイツラはもうダメだ。こっちでィ!」

沖田さんが僕の手を引いてどこかへ走り出す。僕は神楽ちゃんの手を引いて、沖田さんに引きずられて走る。そのまま、物置のような所に3人で潜り込む。

「ふぅ―、ココなら一安心でィ。」

沖田さんが座り込み、僕も隣に座る。神楽ちゃんも、物珍しそうにキョロキョロしつつ、僕の隣に座った。それを見計らって、沖田さんが僕の側に寄って、ボソボソと話し出す。

「新八すまねェ。組の不始末に巻き込んじまって迷惑かけちまったなァ…お前ら2人は俺が命かけて護るから、安心しろィ。」

んなっ…!?いつになく真剣な声の沖田さんに不意をつかれる。
ちょっとぉ―!そんな事言われたらドキドキするじゃないですかっ!僕の顔はきっと今真っ赤だよっ、絶対!ココ暗くて良かった…なんか沖田さんが物凄くカッコ良く見える…

はっ!?

マズイ、これはかなりマズイ…イヤ、しっかりしろ新八っ!これはそう!吊り橋効果だ!吊り橋効果だ!!吊り橋効果だっ!!!間違えるな、僕っ!この人は男の人、男の人、男の人…!!

あ…なんか…ぎゅっ、てして頼りたい…イヤイヤイヤイヤ!違うから!違うからっ!!

僕が自分脳内で大変な事になっていると、いつの間にか沖田さんと神楽ちゃんが掴み合いの喧嘩を始めていた。あ―、まったくもぅ…又僕が止めるのかよ…げんなりしながら、ふと、入り口の方を見ると、アノ女の幽霊がコッチを見ていた。


ギャ―――――――――――っ!!!!


「スンマッセン、とりあえずスンマッセン、マジスンマッセンッ!」



ぼんやりと大人しかった新八が、イキナリ何かに謝り始めた。
…何でィ…?
チャイナとの掴み合いを止めてそっちを見ると、イキナリ新八に頭を鷲掴まれて、地面に叩きつけられた。やるなぁ、チクショウ…可愛いだけじゃねェぜ、コイツァ…あ―――、ダメだ。


………惚れた…………


遠くなる意識の中、俺はそれだけ自覚しちまった。
新八ィ…覚悟は良いかい…?俺ァしつこいぜ………



2人が気絶してしまったんで、僕1人で仮説を元に捜索してみる。やっぱりそうだ、倒れた人には蚊に刺されたような痕が有る。アレは幽霊なんかじゃない。別の何かだ…

僕が真相にたどり着いている頃、銀さんと土方さんが『赤い着物の女』の幽霊…もとい、蚊に似た天人の女性をのしていた。
分かってみれば、なんてことは無い事だったけど、夜に見たら…悪いけど怖いよ…

「おい、新八ィ。さっきはよくもやってくれたやしたねェ…」

音も無く沖田さんが僕の後ろに立つ。
うわっ、ヤベっ…そう言えばさっき、僕思わず沖田さんと神楽ちゃんを地面に叩きつけて気絶させちゃったっけ…!

「ごっ…ごめっ…!?なっ…何ですか…?」

僕が振り返って謝ろうとした時に、沖田さんが後ろから、ギシッ、と両腕で拘束した。
ギャ…ギャ―――!殺られるっ!!!!

「すっ…すいまっせんすいまっせんすいまっせんすいまっせんっ!決して悪気はなかったんですよっ!流れ、って言うか、恐かった、って言うかっ!!ほら、どんな事でも本気で謝れば何とかなるじゃないですかっ!それで…」

「黙りなせェ。そんな事、どうでも良いんでさァ…」

…まっ…まずいまずいまずいまずいっ!沖田さん本気で怒ってるっ!!!!!!!

「新八ィ…オメェ、とんでもない事してくれやしたねェ…」

「おっ…沖田さん落ちついて!ぼっ…僕ら友達ですよねっ?ねっ?」

「友達ィ…?そうだなァ、さっきまではそうだったかねェ…?」

「ギャ―――ッ!?過去形?過去形?」

「新八があんな事しなきゃァ、気付かなかったんですぜ?責任とりなせェ。」

沖田さんが更に腕の力を強めて、ギシリ、と絞めてくる。
…あぁぁ…姉上さようなら…僕は今日星になります………


「…好きでさァ。俺ァ新八の事、好きでィ。惚れちまったんでィ。俺と幸せな家庭を築きやしょう?」


「…うへっ?」

殺られるとばっかり思っていた僕は、何か変な声を出してしまった…ってか何!?えっ!?好き、って…?
冷静になってみれば、絞められていると思っていた腕は優しくて…
えっ!?何!?だっ…抱き締められてるっ!?

僕は一気に顔が赤くなった。

「新八…何も言わないって事ァ、おっけーと思って良いんですかィ…?」

沖田さんが後ろから僕の頬に擦り寄ってくる。その頬も熱くて…沖田さんの顔も赤くなってるんだ…あれ…ちょっ…なんかすごく愛しくなってきたぞ…?イヤイヤイヤイヤ!この人男の人だしっ!僕も男だしっ!!
ナイナイナイナイナイナイナイナイ……うん、無い!

「ちょっと沖田さん何言ってんですかっ!?僕は男ですよ?訳分かんない事言わないで下さいよっ!なんですか?さっきの仕返しで、からかってるんですかっ!?」

無理矢理、絡んでいた腕を解いて向き直ると、赤面した沖田さんと言う珍しいものが見れた。

…えっ…?ほっ…本気………?なの…かな…?

「…まぁ、大体そんな反応が返ってくると思ってやしたぜ。俺だってイマイチ信じらんねェや。でもな、新八ィ、俺は本気だぜ?オメェが男だってかまわねェ。惚れちまったモンはしょうがねェや。覚悟しなせェ?オメェが『うん』って言うまでしつけェぜ、俺ァ。オメェを俺に惚れさせてみせまさァ。」

いつもに無い爽やかな笑顔を僕に向け、手の甲にキスをくれる。
んなぁ―――っ!?何しやがるっ!!コノ人っ!!!

「とりあえず今日はこの辺にしといてやらァ。新八ィ、顔真っ赤ですぜ―――?」

「うっさい!アンタだって真っ赤だろっ!!」

ゲラゲラと笑いながら去っていく後姿を見送りつつ、僕は呆然と立ち尽くす。

…なに言ってんだよ、アノ人…バカじゃない?
ダメだ…絶対ダメだ…アノ人にはまったら僕…きっとあのお祭りの時のようになってしまう…自分で自分が分からなくなって…平気で人を傷つけられるような…むしろ望んで人を傷つけるような…

悪いけど、逃げますよ。
全力で逃げさせてもらいますからねっ…!

それから数日。僕は出来るだけ沖田さんに会わないように黒服を避けて避けて避けまくった。
…だって…多分スゴイからさっ…アノ人は…



つづく