動き出すらいよん
こんにちわ、志村新八です。
4人もの人に告白されてそれからどうなったかと言うと、なんだかもうてんやわんやです。
買い物に行くと、大江戸ストア前には必ず黒服が2人立って待っていて、荷物を奪い合って万事屋や家まで送ってくれたりするし…
その事を話したら、買い物には絶対神楽ちゃんと定春が付いてくる様になって大江戸ストア前に居る2人と睨み合いを始めたり…
まぁ、真選組の2人は大人だから喧嘩が始まる事は無いけど…でも、一触即発な空気はいたたまれない。
まぁ、お1人様2個までとかの特売品は皆に手伝ってもらって沢山買えるからラッキーだし、荷物は奪い合う勢いで持ってくれるし、神楽ちゃんに至っては買い物以外にも、掃除や洗濯を手伝ってくれるようになったんで、ちょっとラッキーかな?って気もしないでもないけど…
皆のあの期待に満ちた眼差しとか…3人がかち合うと流れてくる、何とも言えないピリピリした空気はキツイです。
はっきり言ってキツイです。
この上、姉上にバレたらと思うと…生きた心地がしないです。
体力的には楽になったけど、精神的には疲れ果てました、僕は…
それに、もうひとつひっかかる事が有るんです。
大江戸ストアに居る真選組の方々は、2人なんです。
土方さんと、山崎さん…
沖田さんは居ないんです。
市中の見廻りをしてる時に偶然会ったり、買い物帰りに通る公園のベンチや駄菓子屋のベンチで昼寝している所を見かける事は有るのですが、買い物帰りに迎えに来たり、万事屋にお茶を飲みに来るのはいつも他の2人で、沖田さんは来ないんです…
『俺はしつこいですぜ?』
とか言ってたくせに…全然しつこくないじゃん…
…って、イヤイヤ、何考えてんだ僕は!しつこくなくて良いじゃん。
今まで毎日会ってたから…寂しいって言うか…物足りないって言うか…
…って、ハッ!?僕、何考えてんだ!?
…でも…友達としては…好き…だと思う…一緒にバカな事やったり、お茶飲んでお話したりしてたのは楽しかった…すっごく楽しかった。
…沖田さんは違ったのかな……楽しくなかったのかな………
僕がお茶をすすりながら、ぼ―――っとそんな事を考えていると
「うィ―――っす。」
と、懐かしい声がした。
沖田さん!
慌てて入り口を見ると、ニヤリと笑った沖田さんが、白い箱をひょいっと持ち上げる。
「テメ―サド丸っ!何しに来たアルか!!」
僕の向かいに座っていた神楽ちゃんが、飛び掛りそうな勢いで沖田さんにくってかかる。
「おやァ?チャイナはいらないんで?今日の茶菓子は、今大人気のちいずけえき、ってヤツですぜ?」
沖田さんが白い箱を後ろ手に持ち替えると、神楽ちゃんが、グッ、と詰まる。
「…茶ぐらい飲ませてヤルヨ…新八!お茶!お茶!!」
どさり、とソファに座って神楽ちゃんがむぅ、と膨れる。
あはは…神楽ちゃんってば…
僕が沖田さんからケーキの箱を受け取って、お茶の用意をする。
お茶とケーキをテーブルに出すと、神楽ちゃんはすぐさまケーキに飛びつく。
「ウメーっ!ドSのクセに、いい仕事してるヨ!」
「もぉ、神楽ちゃん!ゆっくり食べなよ!!」
僕が注意すると、はっ!となった神楽ちゃんが、ゆっくりと食べ始めた。僕の言う事も聞いてくれるようになったんだよな…
沖田さんはもくもくと大人しくケーキを食べながら、お茶をすする。
あぁ、何か落ち着く…今までと一緒だ…凄く…安心するよ…
「沖田さん…沖田さんは何で変わらないんですか…?」
「なんでィ、変わって欲しかったのかィ?」
沖田さんが、珍しく真面目な顔で聞いてくる。
「いえ!今までのまんまでほっとしてます。アレからずっと僕の周りがバタバタしてたもんで…又こうして皆でのんびりお茶が飲めるなんて、思ってもいなかったんで…」
神楽ちゃんがちらり、と僕の方を見て小さくなる。
「まぁ、神楽ちゃんは良くお手伝いしてくれるようになったんで、助かってますけど。」
僕がそう言うと、ニコリと笑って得意気に胸を張って又ケーキを食べ始める。
「へぇ…そういうもんなんですかねェ。しっかし、近藤さんが何で姐御にあんなに嫌われてるのか判んなくなってきやしたねェ。」
不思議そうな顔で沖田さんが言う。
「何で近藤さん?」
「俺ァ本当は押して押して押しまくろうと思ってたんでィ。土方さんや山崎なんかに負けてらんないですからねェ。スーパーにも迎えに行きたいし、一緒に買い物して荷物も持って、飯も一緒に食って、たまには甘味屋で寄り道でえとしたり…でも、近藤さんがそれじゃぁ駄目だって言いやしてねェ。それで控えてたんでさァ。」
沖田さんが寂しそうに言う。ってか、それって今までと一緒じゃ…?その上毎日お茶飲みに来てたんだよね…沖田さん…しかし、近藤さんもそうやった方が良い、って分かってるんなら姉上にもそうすれば良いのに…
「俺も、今しつこく動いたら嫌われるたァ思いやしたけどね。中庭で新八、すんげェヤな顔してやしたし。」
「えっ!?僕そんな顔してました!?」
「してやした―」
気付かなかった…まぁホントに困ってたけどさ…
「今日も追い出されんの覚悟で来やした。チャイナや旦那が何言おうと知ったこっちゃありやせんがね?新八に追い出されたら、ちょっと挫ける所でした。」
沖田さんが笑いながらそう言う。
…なんて顔してんだよ…そんな不安そうな笑顔…あんたらしくないよ…
「…別に追い出したりしませんよ…普通にお茶飲んで行くだけだったら…」
僕が目を逸らしながら言うと、沖田さんがじっと僕の方を見る。
「…どうしても、ダメですかィ…?」
ひどく真剣な目が、僕を映す。そんな目で見られると…落ち着かない…
「ダメ、って…何が…」
「判ってるだろィ。俺ァ新八に告白した。恋人になりたいと思ってまさァ。新八の1番になりたいんでィ。」
「何で恋人なんですかっ!?友達じゃダメなんですかっ?僕は…楽しかった…沖田さんとバカな事したり、お話したりするのっ!!」
僕が叫んでも、沖田さんの真剣な目は外れない。
いつもなら張り合ってくる筈の神楽ちゃんも、真剣な雰囲気に呑まれて、会話に入って来れないで居る。
「俺も楽しかったですぜ?でも、それだけじゃダメなんでィ。抱き締めたりキスしたりセックスしたくなっちまったんだから。新八くんがそういう対象に見えるようになっちまったんだから、仕方ねェんでさァ。オメェに惚れちまったんでィ。」
真っ直ぐな目が僕を射抜く。
でも僕は…
「何言ってんですか!恥ずかしいなぁもぅ!!僕は男の人をそういう対象に見る事はできません!確かに、沖田さんをそういう目で見てた事はありますよ?でも、アレは女の人だと思ってたから…そうじゃなきゃ、そんな気持ちにはなりませんっ!!」
「そうですかィ?じゃぁ何かっちゃァ赤くなってたのは何ででィ。友達に触れたからって赤くなんのかィ?新八くんは。」
「スキンシップに弱いんですよっ!僕は!!」
「今も、そんな気が無いんなら、何で真っ赤なんでィ。キモチワルイんだろ?」
気持ち悪くなんか無い…本当はドキドキいってる…でも…
「ダメです…僕は…僕は沖田さんと居ると…沖田さんに関わってるとダメになるんです!沖田さんが危ないと思うと…平気で人殺しすら出来るようになるんです…だから、ダメなんです。これ以上沖田さんの存在が大きくなったら…僕は酷い人間になってしまう!」
僕が言い終えると、沖田さんの顔が赤くなる。
「…熱烈な告白だねェ…なんでィ、新八も俺に惚れてんじゃねェか。」
「違いますっ!何でそうなるんですかっ!?」
僕が叫ぶと、沖田さんが真剣な顔のまま近付いて来る。
「…新八ィ、オメェの気持ちは判った。俺ァもう遠慮しねェよ。オメェがそんな我慢なんざ出来なくなるまで、俺に惚れさせてみせまさァ。覚悟しなせェ。」
ニヤリ、と笑って僕の頬にキスをして、立ち上がった沖田さんはそのまま玄関に向かう。
「新八ナメんなサド!オマエになんか惚れないアル!新八はワタシのものネ!」
いつの間にか台所から塩を持ってきた神楽ちゃんが、沖田さんの背中に向かってバシバシと塩を投げつける。
あぁぁぁぁ…大切な調味料が…
沖田さんは、そんな塩なんか全く気にしないで、すたすたと歩いてゆく。
僕は…僕は負けませんからっ…絶対負けませんからっ!!
涼しげな背中に向かって、心の中で呟く。そんな事、有るわけない。
沖田さんになんか…惚れてない………
つづく
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