更に翌日、そぼ降る雨の中、沖田さんが万事屋にやってきた。
報酬持ってきてくれたのかな?
そんな僕の期待を裏切って、沖田さんの言った言葉は残酷なものだった…
「鬼道丸が、殺されやした。」
「えっ…?だって僕ら…逃げてもらって…」
「殺されやした。」
「そんな…」
確かに逃げきるのを確認はしなかった…刺客の数も、確かめなかった…
「僕等が…最後まで見とどけていれば…」
僕の言葉で皆がしん、となる。
僕は…やっぱり駄眼鏡だ…僕なんかじゃ何も守れない…あそこに居たのが銀さんや沖田さんだったなら…
僕がぐるぐると考えていると、万事屋にお寺の子供達がやってきて、銀さんに依頼をする。
宝物だからと、おもちゃを数点持ってきて…お父さんの仇を討ってくれと。
悪い事をしていた人でも、僕らにとっては立派なお父さんだったと…
いつの間にか土方さんも万事屋に来ていた。
依頼を受けて出て行こうとする銀さんを、土方さんが止める。
でも…
「ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ。魂が折れちまうんだよ。」
いつもはマダオなくせに…カッコつけてさ…
僕も…同じだ…僕も、仇討ちしたい…
子供たちの宝物を漁って、ゾウのジョウロを見付ける。
これなら…花を育てるのには、丁度良い…
僕と神楽ちゃんも、銀さんを追って万事屋を出ようとすると、土方さんが僕の手を掴んで止める。でも…
「ごめんなさい、土方さん。これは、僕個人がやりたい事なんです。」
僕が真っ直ぐ土方さんを見て言うと、ゆっくり腕を離してくれた。
そのまま万事屋を出ると、神楽ちゃんがぴたり、と止まる。
「新八、こっから先は戦場ネ。やめるなら今のうちヨ。」
「神楽ちゃん…僕は足手まといになるかもしれないけど…でも…僕も鬼道丸さんの仇をとりたいんだ…殺し合いを見せ物にするなんて…おかしいよ…」
僕が真っ直ぐ神楽ちゃんの目を見て言うと、真っ直ぐ目を見返してくれた神楽ちゃんがにこり、と笑う。
「…ソウネ…新八もそろってヨロズヤネ。」
「神楽ちゃん…」
僕がにこりと笑うと、神楽ちゃんが頬を染める。
「それでこそ、ワタシが好きになった男ネ。」
「かっ…神楽ちゃん…!」
僕も頬を染めて、2人でもじもじしていると、後ろからポカリと頭を叩かれる。
なっ…誰…?
「何青春してんでィ。浮気は許さねェぜ?新八ィ。」
声のした方に振り向くと、沖田さんがムスっ、として立っていた。
…何で鼻メガネ…?
「沖田さん、ソレ…」
「俺もバカだった、って事でさァ。行きやすぜ?どうせオメェら、道、判かんねェだろ?」
沖田さんが僕の手を掴んでずんずんと歩き始める。
なっ…んで…鼻メガネなのにカッコ良く見えるの!?僕ってメガネフェチ…?
何でこんなに…ドキドキしてるの…?
「新八ィ…オメェは俺が守るから…死なせねぇから…」
どくん…
「しっ…死にませんよっ!死ぬわけないじゃないですかっ!…沖田さんこそ…無茶しないで下さいよ…?」
…駄目だ…このままだと僕…
なんとか繋がれた手を解こうとするけど、離してくれない…
やめてよ…もう…
「新八離すネ、ドSヤロウ!」
それを見ていたからか、神楽ちゃんが沖田さんの手を引っ張って、僕の手から外そうとする…
や…イヤだ…神楽ちゃん…沖田さんに触れないで…
そう考えて、我に返る。
…あぁ…駄目だ…もう逃げられない…
僕は、沖田さんが、好きだ…
神楽ちゃんがグイっ、と引っ張ると、その分沖田さんに力を入れて手を握られる…ちょっ…痛っ…
「痛い痛い痛い痛いっ!いい加減にしろ、オマエらぁっ!!!」
僕が思いっきり腕を振りほどくと、2人が気まずそうに僕を見る。
「神楽ちゃん、無理矢理引っ張らない!沖田さんも、腕掴まなくてもちゃんとついて行きますからっ!」
僕が怒ると、2人ともしゅんとして、ごめん…とか言ってる。
そんなにしゅんとされると僕が悪いみたいじゃん…
沖田さんの案内で煉獄関の前まで着くと、いつの間にか沖田さんはいなくなっていた。
…沖田さんの分も、お面買ったのに…
神楽ちゃんと2人でこっそり中に入ると、銀さんが多分鬼道丸さんの仇と闘っていた。
あ、銀さん囲まれた!!
素早く鬼の面をかぶった神楽ちゃんが、傘マシンガンを撃つ。
僕も鬼の面をかぶって、口上を述べる。
続きを銀さんに振ると、あわあわした後何か変な事言いやがったよ、あのマダオっ!
ツッコミを入れつつ下に降りて、そこからは乱闘になる。
僕はこんなトコで死ぬ訳無い。
だって気付いちゃったから。
この気持ち伝えて、ずっと沖田さんとラブラブするんだっ!
僕等が闘っていると、そこに真撰組の皆さんもやってきて、乱闘は更に酷くなる。
その上何故か、銀さんが真選組に捕まった…
「沖田さんっ!アンタの依頼でしょうがっ!」
いつの間にか僕の隣に来ていた沖田さんに抗議してもどこ吹く風。
土方さんが、
「そいつは違う…」
って言ってくれなかったら、銀さんそのまま捕まってたよ!
「チッ…旦那は邪魔なんで丁度良かったのに…」
邪魔って何だ!邪魔って!!
僕らが帰ろうと外に出ると、騒ぎから抜け出して、沖田さんと土方さんが僕らの所にやってくる。
「今回の件で真選組に火の粉がふりかかったら、全員切腹だから。」
土方さんんんん!?
え!?
この人僕の事好きだって言って無かったっけ!?
ソレはソレコレはコレなのォォォ!?
切腹なんかするもんかっ!僕にはこれから大事な事が控えてるんだからっ!
「沖田さんっ!」
僕が呼びとめるとくるりと振り返る。
わ…カッコいい…
「何でィ、新八ィ…?」
どくんっ…
どっ…どうしよう…イザとなったら何も言えないどころか顔もまともに見れないィィィィィィィ!
やっ…ちょっ…
「何でィ?俺に何か用かィ?」
そう言って不審げに僕の顔を覗き込む…カッコいい…
あ…駄目だ…近い…
「いっ…依頼料はちゃんと振り込みか万事屋に持ってくるかして下さいねっ!僕等それなりに仕事したんですからねっ!」
あー!違う違う違うっ!僕が言いたいのはそんな事じゃなくってっ!
「あー…明日にでも持っていきまさァ…そんだけかィ?」
沖田さんが僕の頬に手を添えて、前を向かせる。
「…どうしたんでィ、顔赤いぜ?具合でも悪いのかィ…?」
凄く心配そうな顔…あぁ…『新八ィ』って呼び方、すっごく好き…
この顔もカッコ良い…
って!そんな事思ったら余計赤くなっちゃうよ…
でも、今…?今がその時…?
僕が意気込んで大きく息を吸い込むと、沖田さんの言葉で僕を心配した銀さんと神楽ちゃんと土方さんが僕等の方に駆け寄ってくる…駄目だ…こんな中じゃ言えないよ…
「だっ…大丈夫ですよっ!手、離して下さいよ!気色悪いっ!」
あ――――っ!!違う違う違うっ!!こんな事思ってないのにっ!!
本当は、この優しい手にすり寄りたいのにっ…って!何考えてんだ、僕ぅ――――――っ!!
「あー、すいやせんねェ。可愛い新八には触りたいもんでねェ…まァ、こんだけ元気ならなんでもねェか。」
沖田さんの手がするりと僕の頬を撫でて離れていく。
ちょっ…なっ…何か気持ち良いんですけど…っ…!
僕が、これ以上無いぐらい赤くなって立ちつくしていると、皆が怒って、沖田さんがへへん、と笑いながら走り去っていく。
…きょっ…今日は止めとこっ…うん…明日…明日にしよう!依頼料持ってくるって言ってたしね!
早く僕の気持ち、伝えよう…そしたらきっと、すっごい笑顔で受け止めてくれるよね…?
つづく
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