うわっ!

万事屋を出た僕の目に飛び込んできた光景は、そこかしこに酢昆布ゴキブリが溢れているというもので…ヤバイ…僕らが作り出したってバレたら袋叩きじゃ済まないかも…

「あの、沖田さん…このゴキブリ…」

「あ?何か地球侵略にきた人喰いゴキブリらしいですぜ?」

「ハァ?酢昆布ゴキブリじゃなくて!?」

「イヤ、酢昆布ゴキブリの意味が判んねェや。」

歩きながらも僕が銀さんの仮説を説明すると、ぶはっ、と笑われる。
なっ…なんだよっ…

「そんな訳あるかィ。酢昆布がそんな危険な喰いモンなら、チャイナは今頃巨人でィ。」

…確かに…銀さんの中2妄想に付き合うんじゃ無かった…

「さっきテレビでは背中に五郎、って書いてある女王ゴキブリを殺せばいい、って言ってやしたぜ?」

「…五郎…?」

「そう、五郎。又あの馬鹿皇子が持ち込んだらしいですぜ?」

ほんっとロクな事しないな!あのバカ皇子っ!


暫く歩くと、真選組御用達、っていう武器屋に着いた。
うわ…高そうな武器が色々有るな…

「オヤジ、対天人用の殺虫剤くれィ。」

沖田さんが声を掛けると、職人、って感じのおやじさんが奥に引っ込んで、巨大な殺虫剤を持って現れる。
それを確認した沖田さんが、さっさとお金を払って殺虫剤を受け取って店を後にする。

「凄いですね!僕、そんな大きい殺虫剤、初めて見ました!」

僕が感心して言うと、、ニヤリと笑った沖田さんが振り返る。

「俺がアイツを退治してやりまさァ。」

「なっ…!そんな…そこまでお世話になんてなれませんよっ!いくら僕だってゴキブリぐらい何とでもしますって!」

「喰われそうになって震えてたくせにィー」

今度はニヤニヤ笑いになって、僕を見る。

違うよ…アレは沖田さんに…

「違いますっ!アレは…アレは沖田さんに…あの…えっと…」

あー、もうっ!今がチャンスなのにっ!!
さらっと言えるだろっ!?

…沖田さんが好きだから…抱きついたんだって…

「強がんな強がんな。」

沖田さんが又、僕の頭をぽんぽんと撫でる。
あーもぅっ!そんな事されたらもっと緊張しちゃうよぅっ…
僕が顔を赤くして俯きそうになると、もっと誤解される。

「あー、はずかしくねェよ?あんなデカさじゃ普通ビビリまさァ!俺も驚いたしな。」

…フォローまでしてくれる…
あーあ…こんな優しい所まで見せてくれてさ…どこまで僕を好きにさせるんだろ…

「とにかくっ!殺虫剤下さいっ!僕がちゃんとアイツを倒しますからっ!!!」

いくらですかっ!?と、懐からガマ口を取り出すと、僕の財布にはちょっと入って無いような金額を言われる。

…この大きさだしな…それぐらいするか…

「…すみません、無理です…」

僕ががっくりと落ち込んで懐に財布をしまうと、ニヤリと笑った沖田さんが、僕に殺虫剤を背負わせてくれる。

「ほら、頑張りなせェ。チャイナに良いトコ見せてェんだろィ?」

…へっ…?

僕がキョトンと見上げると、悲しい顔の沖田さんが見えた。

「まァ、こんぐらいしかねェだろうからなァ、オメェがチャイナより強そうなトコなんざ…そのかしデート1回な。」

右の頬にちゅっと唇を落とされて、耳元で約束、と囁かれる。

なっ…何…を…

頭は混乱するけど…今度こそ…今度こそチャンス…掴むんだ…!

「…う…分かりました…やくそく…です…」

大人しく言うと、一瞬目を見開いて、すぐに全開の笑顔を見せてくれる。

…うわっ…ソレ反則っ…

「珍しいねェ、新八くんが大人しく言う事を聞いてくれるなんざ…今度から借金させといてからお願いすっかねェ…」

沖田さんがふむふむと頷いてる。
んな訳ないじゃんっ!借金なんかが理由じゃないよっ!!

「違いますっ!僕は…僕は沖田さんがっ…!」

僕が叫ぶと、ばっちり目が合ってしまう…
はうっ…心臓…ドキドキして治まらないよぅ…
顔も…真っ赤になってるよっ…あっついもん…

「…俺がどうしたィ…?」

静かに聞いてくる沖田さんがカッコよくって…もう泣きそうだよ…

「沖田さんに、貸しは作っても借りは作りたくないだけですっ!」

あぁっ!違うぅぅぅぅぅぅぅーっ…

「…何でィ、そんな事かィ…」

がっかりと肩を落とした沖田さんがそれでも顔を上げる。

「ま、でもデート1回は約束しやしたからね。今度又誘いに来まさァ。」

綺麗な笑顔でそう言ってくれる。


とりあえず万事屋に戻って、背中の殺虫剤を背負いなおして覚悟を決める。

「んじゃぁ又な。」

沖田さんが手を上げて帰っていく。

「…デート、楽しみにしてます…」

今はこれが精一杯だ…


ビックリ顔の沖田さんが振り向いて何か言いかけたけど…その後の言葉が続かないから、慌てて万事屋に入る。


でっ…でーとの時にこそ…言うんだ…今度こそ…

沖田さんが、好きですって…

部屋に入ると、何故かゴキブリが増殖していた…
僕が居ない間に何が…?


とりあえず、僕は殺虫剤の噴射口を人食いゴキブリに向けて、思いっきり噴きつけた。


つづく