暫くして万事屋の掃除が終わった頃、神楽ちゃんがソロリと帰ってくる。
あはっ、どうしたんだろ…?
「おかえり神楽ちゃん。沖田さん見付かった?」
僕が声を掛けると、神楽ちゃんの肩がビクリと揺れる。
「…新八…」
「どうしたの?派手に喧嘩して何か壊してきちゃった?大丈夫、請求書は真選組に行くから…」
「ちっ…違うネ…ゴメンヨ新八〜!」
僕が笑うと、神楽ちゃんがボロボロと涙を流して抱きついてくる。
えっ!?何…?
「どうしたの!?神楽ちゃん?」
「ワタシが殴ったから、ドSが記憶喪失になったヨー!」
「…は…?沖田さんが…?」
それを聞いてすぐに、足が勝手に動き出す。
お…きたさんっ…まさか…僕の事…忘れ…?
万事屋の階段を駆け降りるとすぐに、階段の下に呆然と立ちすくむ沖田さんを見付けた。
「沖田さんっ!僕っ…僕の事…覚えてますかっ!?」
沖田さんの腕を掴んでぶんぶんと揺すると、ハッとした沖田さんが、ぎゅうと僕を抱き締める。
「沖田さん…?」
「新八ィ…」
沖田さんの声を聞くと、今までの緊張が一気に解ける。
良かった…沖田さん、ちゃんと僕の事覚えていてくれた…
じゃぁ…何で神楽ちゃん、記憶喪失って…?何を忘れたの…?
「チャイナが変な事言うんでさァ…新八と俺が…恋人同士になったって…」
「………えっ………?沖田さん…?」
「すっ…すまねェ!でもそれァチャイナが言ったんですぜ?俺が言いふらしたんじゃ…」
何を勘違いしたのか、慌てた沖田さんが僕に言い訳する。
「違いますっ!沖田さん…大晦日の事…覚えてないんですか…?」
「大晦日…?」
沖田さんが考え込む。
そこだけ…忘れちゃったの…?
まさか、神楽ちゃんが悲しそうだったから…?
本当は沖田さん、神楽ちゃんの事が…そう言えば、酢昆布Gの時…可愛い、って言ってたし…僕よりも…本気で喧嘩してるし…
「…忘れたい…事だったんですか…?」
「は?大晦日は…屯所で酒盛りしてて…夢…見たんでさァ…新八が…俺の事好きだって言ってくれて…えっちしようとしてたらチャイナに邪魔されて…」
「………夢………?」
「ゆっ…夢ぐらい許して下せェ!本当にはヤらねェようにして…」
あれ…?これ、記憶喪失…?
神楽ちゃんが殴ったからじゃ…ないよね・・・?
「…夢…ですか…沖田さん、あの時そんなにお酒、飲んでたんですか…?」
「へい、途中から記憶無いんで…って、え…?」
「…僕…言いましたよね…?忘れたら許さないって…」
「…へっ…?」
僕が背後から真っ黒な気を立ち昇らせると、沖田さんがびくりと震える。
「それ…夢じゃないですよ…?僕、あなたに告白しました。えっちな事もしたのに…夢だなんて…許しません。夢だって思ってるなら、ずっとそう思ってて下さい。」
ムカついた。
酔って忘れるなんて有り得ない。
絶対忘れないって言ったのにっ…嘘つきっ…!
どおりで電話もしてこないし、逢いにも来ない訳だよね。
そうだよ、沖田さんに限って忙しいからってサボらない訳無いんだ!逢いに来る気が無かったから来なかったんだ!!
くるりと踵を返して、ダンダンと階段を昇り始めると、沖田さんが僕の袖を掴む。
「ちょっ…新八ィ!」
全部無視して、袖を振り払って万事屋の戸をバシン、と閉める。
もう知らない…沖田さんなんて、知らないっ!!
つづく
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