花は散るなり、我は咲くなり



総悟と新八が別れた。

くだらねぇ理由だと、俺ぐらいの年になれば思うんだろうが、アイツ等はまだ若い。その上同性だから、きっと今迄とも勝手が違うんだろう。

今が新八の隙をつけるチャンスだとは思うが…

妙に真面目になっちまった総悟見てると、そうも言ってらんねぇ。
俺達が真面目に仕事をしたら、新八に逢う事なんざ一切ねぇ。
それが判ってっから、総悟も真面目にやってんだろう。
あんだけ寝まくってたアイツが、夜もあんまり寝てねぇのか日に日に濃くなってく隈を目の下に付けて定時に見廻りに出かけて行く。
その上、書類仕事も溜める事無くちゃんと提出してきやがる。
俺の仕事は楽になったが…流石にあんな姿を見てると放っとけねぇ。

山崎やチャイナ娘はどう出るのか…

まぁ、山崎は今潜入任務中だからそれどころじゃねぇか。
高杉が動く、ってぇ噂が有るから、それにかかりっきりだ。
いくら山崎だってそれぐらい判ってんだろ。
そういう所はしっかりしてる…筈だ。

近藤さんも、当然心配しまくってる。
総悟の前ではいつも通りにしているが、俺の前ではオロオロしまくっててちょっとイラッとする。
そこまでアイツばっかり心配しなくても…そのうち何とか…なるのか…?

まぁ、俺だって何とかしてやりたいと思う。
早いうちにふっ切らせてやりたい。
さっさと次の恋でも探して幸せになれよ、と。

さて…どうしたものか…

適当に見繕ってきて総悟を見合いでもさせるかと考えていると、久し振りに志村家から近藤さん回収依頼の電話が来る。
いつものように威勢の良い啖呵を切られたが、電話の相手が俺だと分かると、急に相手は大人しくなる。

『…沖田さんは…居ないのかしら…?』

「総悟?最近はちゃんと仕事してっから見廻り中だな。」

『…そう…じゃぁ…お願いします…』

…姉なりに弟を想っての行為なのかもしれねぇが…
よしんばここに総悟が居たとしても、アイツは行かねぇだろうよ。


俺が志村家に行くと、今日は万事屋が休みなのか、そこにはぽつんと新八が居た。
ちょこん、と縁側に腰掛けて、ぼーっとしているが…
目を真っ赤に泣き腫らして…酷ぇ顔になってやがる…

「よぉ…近藤さん回収に来たぞ。」

俺が声を掛けるとビクリと立ち上がって、俺を見て無理矢理笑う。

「土方さん…ご苦労様です。」

その笑顔はあまりに痛々しい。
あれからずっと泣いて過ごしてんのか?コイツ…

「テメェ…なんてツラしてやがる…」

「…すみません…侍として駄目ですよね…」

あはは、と笑った新八が俯くと、ポロリと涙が落ちる。

なっ…!?

俺今変な事言ってねぇよな!?

「なっ…オイ!新八…?」

「あ…ごめんなさい…その制服を見たら…こんなの…男として駄目駄目ですよね…僕…」

上げられた顔は、やっぱり無理矢理笑ってて…
そんなツラ…お前らしくないだろ…全然…
でも、頼りないその姿が儚くて…抱きしめてぇ…

思わず腕が出ちまうと、スルリとかわされて距離を置かれる。

…まだ新八の頭ん中は、総悟で一杯って事か…

「オマエ…大丈夫か?フラフラしてるぞ?」

腕が出ちまった言い訳になっちまうけど…
今ここで警戒されるのは、得策じゃねぇ。

「あ…すみません…」

俺の言い訳に巧く騙されたのか、それとも注意力が散漫になっているのか。
頬を染めて恥入った新八がペコリと頭を下げる。

「皆そんな事言いますけど、僕は大丈夫ですよ?ホラ!」

…無理に笑って力瘤なんか作ってみせんな…!
又…抱きしめたくなっちまうだろ…
つけ込みたくなっちまうだろ…
動きそうになる腕を無理矢理精神力で押さえつけて俺が笑うと、新八があからさまにホッとする。

今が…チャンスだ…
今押したら、コイツは俺のモノになる…

「新八…」

新八の目を見つめて、じわりと近付いて行く。
潤んだ瞳が俺を見つめて…泣きそうに歪む…


「おー!今日の迎えはトシか!…総悟じゃないのか…?」

突然の大声にビクリと顔を上げると、険しい顔の近藤さんが俺に向かって歩いてくる。

…元気そうじゃないかよ…

「総悟は見廻りだ。判ってるだろが…」

邪魔されて俺がはぁと溜息を吐くと、ホッとしたように新八が近藤さんに駆け寄る。

「近藤さん!今日は回復早いですね!」

「お妙さんは優しい女性だからね。」

「…はぁ…?」

新八ににこりと笑いかける近藤さんの後ろには、複雑な顔をしたお妙が居る。
悔しそうな…恨めしそうな顔で俺を睨んでやがる。
今と良いさっきの電話といい…ワザと近藤さんをダシに総悟を呼ぼうとしやがったのか…

「土方さん、余計な事してないでさっさとこのゴリラ回収していって下さいな。」

強気な言葉とは裏腹に、何て顔して新八の事見てんだ…
そんな不安そうな顔、アンタにゃ似合わねぇよ。

「近藤さん、歩けるんならさっさと行くぜ…又な、新八。」

「…ご苦労様でした。」

さっきまでよりは大分マシなツラで笑う新八は、敢えて『でした』と言った。
もう、つけ込ませないと。

だがな…俺だってそう甘くは無ぇんだ。
隙が有ればいつだって…


「トシよ、俺は何とかしてやりたいんだ、総悟も…新八君も…」

「新八だけなら、俺でも何とかしてやれる。」

ぽつりと俺が言うと、近藤さんが立ち止まる。

「それじゃぁ駄目だろう。それはトシも判っているよな…?」

じっと俺の眼を見て諭すように言われるが…近藤さんは…総悟が可愛いから…
イヤ、俺だって総悟が今のままで良いなんて思わねぇ。

でも…俺も…俺もまだ諦めきれねぇ。


俺が黙り込むと、近藤さんが悲しそうな顔になる。
この人にこんな顔させたい訳じゃねぇ。
きっとこの人は全部判ってる。
総悟の気持ちも、新八の気持ちも…俺の気持ちも…

「まぁ…こればっかりは俺にはどうにも出来ん事だしな。トシの好きにすると良い。但し…後悔だけはせんようにな。」


にかり、と笑って歩き出す背中はやっぱり頼もしくて…
俺はどうしたら良いのか本気で考える事にした。


つづく