沖田さんはお見舞いにやってきた後、本当にお茶を飲みに来た。
ぐらすはーと
えぇ、本当に毎日。
万事屋だろうが僕の家だろうがお構い無しに。
1杯だけお茶を飲んで、僕をイジメて、飄々と帰っていく。
…アノ人は一体どういうつもりなんだろう…グラスハートな思春期を何だと思ってるんだっ!最悪な形で失恋した僕の傷口に塩を擦り込んで何が楽しいんだっ!!ドSか!?ドSなのかアノ人はっ!?…1番嫌なのは、男の人だって分かったのに、まだたまに…えぇ、もうホント――――――――――にたま――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――にドキッ、とする僕だ…憧れてたもん…本当に………
「ちィ―――っス。」
どきいっ
「アンタ又来たんですかっ?ウチは喫茶店じゃないんですよっ!」
今日は突然万事屋でなく家に居るようにしたのに…あぁ、もぅ又来たよ、この人はっ!
…アンタの事考えてたから、ちょっとビックリしたじゃないですかっ!そんな事絶対言わないけどな!
「イエね、新八くんの淹れてくれるお茶が美味いんでつい、来ちまうんでさァ。」
子供みたいにニコニコ笑いながら、そんな事をぶちかます。
…いつもは『ニヤリ』としか笑わないくせに…
あ―――もぅ、その笑顔は反則ですってっ!なんでこんな時だけそんな笑顔見せんだよっ!
「もうっ、お茶一杯だけですよ?お茶菓子なんか無いですからねっ?ウチは貧乏なんですからっ!」
沖田さんはキョトン、とこっちを見た後ニヤ―ッ、と笑う。
…又ろくでもない事考えてやがるな、コノ人………
「心配すんねィ、茶菓子持参でさァ。」
ひょいっ、と手に下げていたビニール袋を持ち上げて、僕の方に放り投げる。
慌てて受け取ると、ビニール袋の中から甘い匂いが広がる。
…なんだかんだ言って、いっつもお土産持参なんだよなぁ…
「今日は『かすていら』ってェのを持って来たぜィ。馴染みのオネーちゃん達が美味いって言ってたんで食ってみたかったんでィ。」
…ズキッ…
…何だ…?
別に関係ないよ。沖田さんが誰と何してようが、僕には何の関係も無いよ。何で僕が『ズキッ』とか感じる必要が有るんだ!気のせい、気のせいだ!!
そんな事より『かすていら』だっ!
悔しいけど、沖田さんの持ってくるお菓子は美味しいんだよなぁ…普段サボってばっかりいるくせに高給取りだから、普段の僕じゃァ食べられないようなお菓子、持って来たりするし。
………何か理不尽なモノを感じる………
かすていらをザクザク切って、お茶と一緒に沖田さんの前に置く。
「おゥ、待ってました!新八くん、一緒に食いなせェ。」
「…いただきます。」
沖田さんが、又アノ反則な笑顔を僕に向ける。僕の心臓はドクドクと踊りだし、顔に血が上ってくるのが分かる。きっと今僕の顔は真っ赤になってるに違いない。イヤ、コレは断じて沖田さんを見てなってる現象じゃぁない!かすていらだ!かすていらのせいだ!未知なる甘い食べ物に胸躍って高揚しているからに違いないんだ!!!!!
僕はかすていらを掴み、勢い良く口に運ぶ。
……………うまぁ―――――――――――いっ!!!
何だこれ!柔かくてふわふわでしっとりしてて、甘くてほろ苦い。何だコレはっ!
あぁ、神楽ちゃんや銀さんにも食べさせてあげたいよっ!
僕の動向を見ていた沖田さんが俯く。
…?どうしたんだろう?
「美味い菓子ですねィ、コレァ。」
「はい!美味しいです!!ご馳走様です。」
お互い顔を見合わせて、ほにゃっ、と笑う。
…沖田さんがビックリしたような顔でこっちを見る。あ―もう、バカヅラでィ、とか思われてるんだろうなぁ、僕は。
でも、良いや。かすていらは美味しいし、天気は良いし、のんびりしてるし、沖田さんは可愛いし…
今だけは、そう思ってあげますよ。
なんか幸せですから。
つづく
→