ゴソゴソと何かが動く気配に新八が目を覚ますと、いつの間にか辺りは真っ暗だった。

うっかり眠ってしまったらしいと慌てて跳び起きた新八に、窓の外から山崎が声をかけた。

「あ、新八くん起きた?」

もうこれで荷物終わりだから、沖田隊長起こしてくれる?と言う山崎に慌てて頭を下げて、新八はシートベルトを外してから、後部座席でまだ寝息を立てている沖田を揺り起こした。

どうやらうっかり眠り込んでるうちに、目的地に着いてしまったらしい。

「沖田さん、沖田さん起きて下さい!
着いたみたいですよ!!」
「……………と、……」

新八に揺すられ、煩わしそうに身体を捻った沖田が口を動かす。

「え?なんですか?聞き取れませんって」
「………あと、5時間寝かせてくれィ………」
「うるせー!いいからさっさと起きろ!!」

沖田のアイマスクを無理矢理引っぺがし、まだ眠そうに大きな欠伸をする背中を押すように車外へ押しやると、新八は自分も車から外へ出た。
その二人と入れ違いで、荷物を下ろし終えた山崎が車へと乗り込み、エンジンをかける。

「じゃあ、俺もうこのまま先に帰るから」

車をUターンさせ、顔だけを覗かせてそう告げる山崎に、ホントにありがとうございましたと頭を下げた新八の後ろで、まだぼんやりとした寝ぼけ声で沖田が呟く。

「こりゃ、いったい何処なんでィ」

沖田の声に顔を上げ、夜の暗さに慣れた新八の目に映ったのは、鬱蒼とした木が繁る森、もとい…………。

「…………山?」

思わず呆然と辺りを見渡す二人の後ろで、ブルルンッとエンジン音が響き、山崎が車を走らせ始めた。

「ちょっ…!!何コレ!?山崎さんここ何処ォォォォォォッッ!!?」

何処ォォォォォォッッ!!?何処ォォォォォォッッ!!?と空しく自分の声がこだまする中、呆然と去って行く車を見送る新八のすぐ後ろで、沖田がゴソゴソと懐から携帯を取り出す。

暗闇の中、メール着信を知らせるライトがチカチカと緑色に光る。
沖田は眉間にシワを寄せたまま携帯を開くと、舌打ち交じりに「圏外か」と呟きながら、受信ボックスを開いた。

そこには、どうやら電波が届くうちに送信したらしい、山崎からの新着メールが届いている。

ますます眉間のシワを深くしながら沖田がメールを開くと、そこには『怨むなら副長を怨んで下さい。詳しくは手紙を見てください』という簡潔なメッセージが残されている。

「………手紙?」

訝しげな顔で辺りを見回した二人の目に、荷物の上に置かれた白い封筒が暗闇にぼんやりと浮かんで見えた。

携帯のバックライトを頼りに、ほぼ手探りで封筒を開けると、味も素っ気もない白い便箋が二枚出て来る。
沖田と新八は目を見合わせて、ガサリと便箋を開くと、まず一枚目の便箋に目を通した。

「……これ、もしかして銀さん?」

その便箋に綴られた少し癖のある雑な文字に、思わず新八が呟く。
そこには見慣れた銀時の文字で、短い文章が書かれていた。

『真選組マヨネーズ狂いへ

うちの童貞眼鏡がお宅のドS王子にそそのかされて、仕事ほっぽらかして真夏の海で不純異性交遊にいそしもうとしてるんですけど、これどうしてくれるんですかコノヤロー』

「って元々仕事なんて一個も入ってないだろーがあの腐れ白髪ァァァァァッッ!!!」

思わず便箋を破かん勢いで叫ぶ新八を尻目に、沖田は引き続き、二枚目の便箋に目をやる。

そこには、沖田には見慣れた几帳面な土方の文字が列んで、文章を綴っていた。

『総悟へ

頓所で大人しく出来ねぇようだから、お前は反省して精神修業のため、山に篭ったという事にしておく。
つか、自力で山を下りながら普段の行いを反省しろクソガキ。』

ビリ、ビリビリビリビリ!!

暗い山中に便箋を引き裂く音がこだました。

銀時への怒りを思いつくままに叫んでいた新八が振り返ると、細かく引き裂いた便箋を散らしながら、顔を俯け、どす黒いオーラを発した沖田がそこに立ち尽くしている。

「…………沖田さん?」

嫌な予感に苛まれながら、恐る恐る沖田を呼ぶ新八の耳に、小さく笑う沖田の声が聞こえる。

「お、沖田さん?どうかした………」

不安が募り、もう一度沖田を呼びながら、新八がその肩へ手をやろうとすると、ガバッと突然顔を上げた沖田が怒鳴り声を上げた。

「上等でさァ!!土方あのクソマヨ狂いが!!
意地でも自力で帰ってやるから、後で覚えてやがれィッッ!!」

ガッと荷物を掴み、勢いよく歩き始めた沖田が振り返る。

「ってことでさァ、ぱっつぁん。
こうなりゃ意地でもこのサバイバル生き抜いて、あのマヨ馬鹿の息の根止めてやろーぜィ」

まあ、夏の山は熊ぐらいいるかもだけど、食料には困らねーはずだぜィ、と事もなげに言う沖田の後ろで、新八の悲痛な叫び声が暗い山にこだました。




end.


25000hitキリリク、
ミズサワ様へ



御礼

『徒然』様で上手くキリ番25000を踏ませていただいて、素敵文を頂いてしまいました…
ひどく恐れ多かったのですが、チャンスは活かします、ワタシ。
いえマジで、朝方ケータイを呆然と見てしまいましたからね。
夢かと思いましたからね。4時頃だったし。

バカで中2で悪友な新八沖田が大好きです!
ワタシは、なんやかんやでらぶ持ち込んじゃいますからね…

山から下りる頃には、I AM SHOCK !! になってればいいと思いました。


鉄三郎様、有難う御座いました!!!