「あ、すいやせん」

少し慌てて手を離すと、新八は掴まれていた腕を擦っている。
結構強く掴んでいた事を思い出し、大丈夫かと聞こうとした時

「話って、なんですか?」


不機嫌の塊のような声に冷ややかさを感じながらも、沖田は新八に問い返す。

「先に聞いてきたのは新八の方でさァ」

「…あれは」

「なんかしたかって…どうしてそう思ったんですかィ?」


沖田の問いに、新八は答えようと口を開きかけるが、直前で何かに気付いたらしく、真っ赤になってまたうつむいてしまった。


「…新八?」

「だってっ、なんか最近僕の事避けてたし、話しても上の空だし、手だって、つ、繋が、っ…あー、もうッ!」

一気にまくし立てると、恥ずかしさから沖田に背を向ける。

(あーもう、本当サイアクだ…!これじゃなんか…女の子みたい…

すぐにもからかうような口調が飛んで来ると思っていた。
が、何故か反応が消えた返って来ない。


(呆れたのかな…


そっと振り向いて、新八は沖田の様子を見てみる。
そしてその意外さに、思わず体ごと振り返ってしまった。


沖田が真っ赤になって、硬直しているなんて。

「えっ…沖田さん、どうかしたんですか?」


沖田の赤さに、熱でもあるのかとその額に手を当てようとする新八。

伸ばされた手を掴んで引き寄せ、沖田は新八をギュッと抱き締めた。

「ちょっ、何?沖田さん、熱…」

「そんなんありやせん」

「じゃあ、この状態は…?」

「嬉しくて、つい」

「ついって………前はさんざしてたくせに…」

「あれ、新八イヤがってませんでしたかィ?」

「イヤって言うか、あんたどこでも抱きついてくるから恥ずかしくて…
え、じゃあ僕が嫌がると思ってやめてくれたんですか?」

「それもちょっとありまさァ」

「?他にもなんかあるんですか?」


腕の中から見上げてくる新八と目が合う。
途端に、また頬に熱が集まってくるのを自覚してしまう。

「…新八ィ」

「はい…え?」

一気に沖田の顔が近付く。
息がかかる程の距離で一端止まってから、フワリと合わせるだけのキスをされた。


「な…?」

「もうちょっと我慢出来るかと思ってたんですがねィ」

「え…」

「だって、好きな奴の手、触ったら繋ぎてェし、繋いだらギュッとしてェし、抱き締めてチューしてェし…」

「…」

「でもって最近、そっから先も…とか思って」

「…は?」

(なんか、今凄いセリフを聞いたような…?

「好きならフツーでさァ。でもきっと新八凄く嫌がるし」

「…う」

「嫌がるのを無理矢理ってのも俺としてはめちゃめちゃアリ」
「離せ」
「冗談でさァ。で、我慢するつもりでしたがねィ。やっぱ新八に触っちまうと…」

「…僕に、嫌われたくなくて、だったんですか?」

「どうも俺は、新八を好き過ぎるみたいでさァ」


再び、自分の体を抱き締める沖田に身を任せながら、新八は沖田の言葉を反芻していた。


ドSのこの男が、こんなにも自分の事を想っていてくれる。
そう思うと、どうしようもなく嬉しさが込み上げて来て。


胸が熱くなるのを感じた。

「沖田さん」

「?」

沖田は腕の力を緩めた。

と、沖田の肩に新八の手が乗り、唇にはさっきのキスよりもハッキリとした感触。


ゆっくりと唇が離れ、沖田の耳に新八の小さな声が残る。



又もや硬直してしまった沖田に、新八はクスリと笑みをこぼし、沖田の手を引く。

「早く行かないと暗くなっちゃいますよ?」


その声に我に返った沖田は、新八に手を引かれるまま、歩き出す。

やがて、先程まで歩いていた大通りに出ると、新八は沖田の手をスッと離した。


今度は沖田が新八の少し後ろを歩く。
歩きながら、さっき囁かれた「大好きです」と言う言葉と、繋いでいた手のぬくもりを思う。



「俺ァ、いつまでガマン出来るんですかねィ…」


何となく、軽い足取りの新八を見ながら、沖田は溜息をついた。