新しい未来



それはいつものように僕が買い物に行った帰り道。
やたらと上機嫌な山崎さんに声を掛けられた事から始まる。

「新八くぅーん、ジュース飲まなーい?」

はい、と差し出されたソレは冷たくひえていて、買い物で疲れた僕にはとても魅力的だったんだ…
有難く頂いてゴクリと飲んだソレはさっぱりしていてとっても美味しかった。
…けど…
なんか…頭がクラクラして…足がフラフラする…

「新八君大丈夫?どこかで休もうか…?」

クラリと倒れそうになった僕を山崎さんがグッと支えてくれるけど、僕は気持ち悪さがピークまで達してその場に座り込んでしまう…
何だろう…心臓がバクバクと激しく打って…全身が壊れそうに熱い…
両手で強く自分を抱きしめていると、身体がゴキゴキと鳴って、内側からウネウネと波打つ…
何…!?何なんだ…!?僕の身体…おかしくなったよ…
暫くソレに耐えていると、バキリ、と大きな音がして、身体の熱がスゥッと冷めていく。
ドキドキと脈打っていた心臓も落ち着いて、さっきまでの苦しさが嘘みたいだ。
ぎゅっと瞑っていた目を開けて、腕も広げようとすると、胸の辺りに何か違和感が………って………

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!?」

僕の胸は、ぽよん、と盛り上がっていて、叫んだ声はいつもより高くなっていて、すっかり細くなってしまった腰から袴がずり落ちる…
股の間にぶら下がっている筈のモノは…その存在が感じられない…
まさか…まさか…

「わー、やっぱり可愛い!男の子のままでも可愛いけど、やっぱり女の子の方がヤり易いよね、色々。」

「何を!?」

「ナニを。」

山崎さんがにこにこ笑いながら一歩一歩僕に近付いてくる。
…笑ってるけど…なにか怖い…
きょろりと辺りを見回すと、そこはいつの間にか路地裏で…後ろはつき当たりで逃げ場がない…

「あの…山崎さん…?僕…どうなったんですか…?」

「今更何言ってるんだよ。女の子にしてあげたんだよ?俺の子供、ちゃんと産んでね?」

にっこりと優しげに笑いながら、何かとんでもない事言ったよ!?
何で僕!?
僕は男なのに!!…今は女の子だけど…

「や…っ…嫌ですっ!何で僕がそんな事…っ…!」

「だって好きなんだ。新八君なら俺の気持ち判ってくれるだろ…?」

「そんなの分かる訳無いじゃないですかっ!!」

じりじりと後ろに下がるけど、その分じりじりと山崎さんが近寄ってくる。
こっ…このままじゃヤバいよ…誰か…誰か…

「誰か…っ…!」

大声で叫ぼうとすると、口を塞がれてしまった。
そしてそのまま追い詰められて、壁に押し付けられる。

やっ…このままじゃ…僕…っ…

なんとか振りほどこうとしても、力が全然出なくって…
女の子の身体って、こんなに頼りないの…?
あまりの情けなさに、ボロボロと涙が零れ落ちる。
こんなの…嫌だ…誰か…誰か助けて…っ…!



「ザキィ、何やってんでィ。」

「げっ…」

そこに現れたのは、光を背負ったドS王子で…光を反射してキラキラと輝く髪がとても綺麗で…不覚にもドキドキしてしまった。
でも土方さんとかならまだしも、沖田さんだなんて…助けてなんてくれないよきっと…

「何やってんだ、って聞いてんでィ。とりあえず、ソイツから手ェ離しやがれ。」

一瞬で、腰が抜けそうな程の殺気を叩きつけられる。
怯んだ山崎さんが僕の口から手を離して一歩下がると、スッと手を伸ばした沖田さんが僕の手を掴んで引き寄せた。
僕はぐらりと揺らいだ勢いのまま沖田さんの胸に飛び込むみたいになって…
とんっ、と受け止められて抱きついてしまった…
沖田さんは、見た目より全然逞しくて…どっ…どうしたんだ僕っ…しっ…心臓が壊れそうだよ…

「大丈夫ですかィ?新八くん…ザキィ…とりあえずこの事は土方さんに報告しときやすんで、寝て待っときな。」

僕の横をひゅん、と刀が通り過ぎて山崎さんを打ち据えると、山崎さんがすぅっと倒れこむ。
にこりと笑いかけた沖田さんがそっと僕をその場に座らせて、山崎さんを縛り上げながら同時に何処かに電話をすると、真選組の隊士の方達が数人やってきて、山崎さんをどこかに連れて行ってしまった。その間も何処かに電話していた沖田さんが、ピッと携帯を切って僕の前まで来てしゃがみ込む。

「…立てるかィ…?」

「はい…」

た…助かった…?
まさか沖田さんが僕を助けてくれるなんて…
ぼぅっとしたまま僕が立ち上がると、又、袴がずり落ちる。
沖田さんがそれを持ち上げてぎゅっと紐を締め直してくれて、僕の肩を抱いて路地裏から連れ出してくれる。
そのままスタスタと歩き続けて、暫く行った所ですとんと座らされるとそこは団子屋さんのベンチで…沖田さんはさっさとお団子を注文していた。
何で…?何か優しい…本当は良い人…?

「何でィ新八くん、いっつもちっせェけど今日はやけにちっせェじゃねェか…それにほっそくなって…どうしたィ?飯喰えねェのかィ?」

僕の前に立って怪訝な顔で僕を見る沖田さんに、ついさっき起こった不思議な出来事を話して聞かせると、沖田さんがゲラゲラと笑いだす。

「ちょっ…笑い事じゃ無いですからっ!!」

僕が怒っても、沖田さんは涙を流して笑い続けてる…ちょっと良い人かと思ったのに…やっぱりドSだ!!

「悪ィ悪ィ…何でも素直に貰ってんじゃねェよ、あっぶねぇなァ。んで、どうする?このまま万事屋に戻るかィ?それとも家に帰るかィ?送ってやらァ。」

にこり、と笑われると…なんでだろ…ひどく安心する…
すぐにお姉さんがお茶とお団子を持ってきてくれて、僕らの前にそれを置いていく。

「お、とりあえず団子喰いなせェ。」

勧められるままにお団子をぱくりと頂くと、沖田さんがニヤリと笑う。

「だから、簡単に信じんなって。俺ァドSなんですぜ?」

「えっ!?」

今食べたお団子をまじまじと見ると、沖田さんがぶはっ、と笑いだす。

「ソレはなんでもねェよ…本当に素直だねェ、新八くんは…かぁーわいいねェ。」

くつくつと笑いながらそんな事言われてるのに…からかわれてるのに…なんで赤くなるかなぁ、僕…

「とりあえず出先なんで…万事屋に戻ります…」

折角なんで、ぱくぱくとお団子を食べながらそう言うと、沖田さんがジッと僕を見つめる。
…何だろ…

「んじゃぁ…気を付けなせェ。」

「何がですか?」

凄く真面目な顔でそんな事言われても…何に気を付けるのかが皆目見当がつかない。

「…旦那にでさァ…」

「…銀さん…ですか…?」

僕がお団子食べて帰ったなんてバレない…事無いか…アノ人甘味に関しては定春並みに鼻が利くもんな…
何時までも何時までもぐだぐだ厭味言われるかもしれない…

「はい、分かりました。」

僕がそう言ってコクリと頷くと、いつの間にかお団子を食べきってた沖田さんが万事屋まで送ってくれた。
そして、頭を撫でられて、もう1回…

「旦那には気を付けるんですぜ。イザとなったらチャイナに頼りなせェ。」

と、釘を刺された。
意外と良い人なのかもしれない、沖田さんって…
それに…頭を撫でる手が凄く優しくて…ひどく気持ち良くなってしまった。