ぼぉいみぃつがぁる
それは高校の入学試験の日。
よりによってその日は江戸では珍しい、朝から大雪が降るという最悪な日だった。
それでも入試が延期になる訳でもなく…
僕、志村新八は傘に長靴にコートにマフラーに手袋と、完全防備で入試会場である銀魂高校に向かっていた。
ちくしょう!今日入試するヤツで普段の行いが最悪なヤツ居るんだ絶対っ!
落ちろ!!ソイツ入試落ちろっ!!
見も知らぬ人に毒づきつつ、ザクザクと雪をかき分け進んで行くと、一際強い雪と風が僕を襲う。
うわっ!傘持ってかれるっ!!
飛んで行きそうな傘を必死で押さえていると、僕の前から雪まみれになった女の子が飛んでくる。
えぇぇぇぇぇっ!?危ないっ!!
がしり、と受け止めると、そのコが不思議そうな顔で僕を見る。
う…わぁ…綺麗なコ…
ぱっちりと大きな瞳は深い碧で…サラサラのショートカットは亜麻色だ。
透き通るような肌はきめ細かくて…桜色に染まった頬は、甘そうだ…
「あっ…あの…大丈夫?」
ドキドキしながら話しかけると、僕の腕の中から見上げてくるそのコは、コクリと頷く。
「うん…」
「こんな天気の悪い日に外に出るなんて危ないだろ?」
「…でも…入試だし…」
「えっ!?もしかして…銀魂高校…?」
「うん…」
そう言うとそのコはぐっ、と体勢を立て直して、僕の腕の中から出て行ってしまう…
…ちょっと淋しい…
なんて思ってたら、風に飛ばされてすぐに又戻ってきた。
嬉しいけど…嬉しいけど何時までもこんな事してらんないよね!
「僕も銀魂高校の入試なんだ!じゃぁさ、僕の陰に入って行きなよ。」
「…いいんで…?」
「勿論!遅刻するとアレだから…」
そう言って歩き出すと、そのコがぎゅっと僕の手を握る。
なっ…!ちょっ…!
それだけでもアレなのに、僕のコートにもきゅうっと掴まってくる…
そっ…そんな事されたら、好きになっちゃうじゃないかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
俄然頑張る気になってズンズンと歩いて行くと、なんとか遅刻しないで学校に着く事が出来た。
「なんとか間に合ったね!」
「…有難う…」
僕が振り返ると、そのコはにっこりと微笑んで…走って行ってしまった…
うわ…駄目だ…心臓…撃ち抜かれた…何だあの笑顔っ!!
僕がぼーっと彼女を見送ってると、教職員らしき白髪の男性がのたのたと歩きながら教室に僕を急かす。
「あ――――っ!!名前聞くの忘れたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
やっちゃったよ…
もうこうなったら銀魂高校に受かるしかないよね!だってコレはきっと運命の出逢いだもの!!
僕が叫んだせいで廊下の隅に張り付いてた白髪の先生に
「頑張ります!」
と宣言して、僕も教室に走った。
彼女に逢いたい、って気持ちのおかげか、僕の入試の出来は目茶苦茶良くって。
見事銀魂高校に受かる事が出来ました!
結果発表もちゃんと学校に見に行ったのに…僕は彼女に逢う事は出来なかった。
なんか、やたらとお祈りしながら番号2枚持って発表見てる地味な人は居たけど…なんで銀魂高校の制服着た人が合格発表見てるんだ…?何かそういうサービス有ったのかな…?でもすっごくガッカリしてたから、落ちたんだろうな…
彼女は…受かってるのかな…?受かってると良いな…
又逢う事が出来たら…一生分の勇気を振り絞って話しかけるんだ!
そして…
キミの事が好きになりました、って言うんだ…
絶対…!
バタバタしてる間にすぐに入学式の日はやってきて。
僕はいつも以上に緊張しながら学校に向かった。
勿論、学校に向かう途中はまるでヒットマンに命でも狙われているが如くキョロキョロしながら歩いた。
学校に着いてからも、学校中をウロウロして彼女を探した。
教室に入ってからも、窓際に陣取って登校してくる生徒をチェックした。
でも…どこにもあの目立つ亜麻色の髪は見当たらなかった…
…あのコ…受からなかったのかな…
イヤイヤ、入試の日もギリギリだったし!まだ学校に着いていないだけかもしれない!!
ソワソワしながらも、予鈴が鳴ったんで自分の席に座る。
うん、休み時間になったら全クラス回るだけ回ってみようっ!
そう心に決めて担任の先生が来るのを待っていると、ガラリと教室の戸が開いて、あの亜麻色が見えた!
あっ!あのコ…やっぱり僕ら運命…
って学ランんんんんんんんん!?
イヤイヤイヤ落ち着け新八。
間違えるな新八。
あの人は髪の色や髪形や顔立ちが似てるだけの他人だから。
いや待てよ?もしかしたら双子のお兄さんとか…
僕がその人から目が離せないでじぃ―――――っと凝視していると、僕の視線に気づいたのか、目線を僕に向けたその人がにっこりと微笑んで僕の方に寄ってくる。
…その笑顔は…あの時に見たあのコの笑顔にそっくりで…
イヤイヤまさか!!だってあの人男だしっ!!!
「よぉ!入試ん時は世話になりやした。」
「…はぁ…」
「おんや?覚えてねェか?吹雪の中ここまで連れて来てくれたじゃねェか。アレ、スゲェ助かった。ありがとな。」
…そんな…まさか…だって…でも…声も一緒だ…
「…あの…失礼ですけど…男の方…ですよね…?」
「流石眼鏡だけあるな。俺が女に見えやすかィ?」
「よっく見えるように眼鏡かけてんだろっ!!僕が助けたのは女の子ですっ!だって女の子用のコート着てたしっ!!」
僕が突っ込みを入れつつそう叫ぶと、その人は少し考えるように首を傾げてぽん、と手を叩く。
「あぁ、アレな。あの日は突然雪が降ったから姉ちゃんのコート借りたんでィ。何だよ女と間違えたから助けてくれたのかよ、エロいなァ…」
ニヤニヤ笑われると一気に恥ずかしくなって顔に血がのぼってくる。
「そっ…そんなんじゃねーしゅ!」
「真っ赤になって動揺してんじゃねェか。エロ助ー」
「違うって言ってんでゃろっ!!」
「又噛んだ。かーわい。」
ぐんっと近付かれて、深い碧の瞳が僕を覗き込む…
…やっぱり…この人があの時のあのコ…?
そんな…そんな……
「僕の初恋返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―っ!!!!!」
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