「なんでィ、ソッチが勝手に勘違いしたんじゃねェかよ…しっかし初恋って…」

ぶははっ、と笑われると物凄く恥ずかしい。
確かに女の子だと思ったのは僕の勘違いだけど…笑わなくったって…
あんまり惨めに思えてきて、じわりと涙が浮かんでくる…ちくしょう…こんな事で泣いて堪るかよっ…

「…悪いかよっ…」

「…悪かねェよ。お前さん面白ェな…俺は沖田、沖田総悟。宜しくな、志村新八くん。」

上機嫌な沖田君が、がばりと僕の肩を抱く。
あれ…?入試の時は僕より小さかったのに…ちょっと小さいけど、同じくらいになってる…こうして見ると、間違いなく男の人なのに…
ってか…なんで肩抱かれてんだ僕っ!?

「は―な―せ―よ―!」

「なんでィ、初恋実らせてやるぜ?」

「いらんわ!!」

僕が叫んでビシッ!と手を払いのけると、うるうると潤んだ瞳で僕を見る。

「新八くん酷い…」

ワザと高い声でんな事言いやがって…
でも…この顔はやっぱり好きかも…ってこの人男!男だからっ!!

「煩い、キモい。」

ワザと冷めた顔でジロリと睨むと、ぷ―っと膨れた沖田君がボソリと呟く。

「なんでィ…あん時の優しい新八くんは何処いったんでィ…」

は…?優しい僕って…

「え?なに?優しい僕の事好きになっちゃってたとか?」

お返しにそう言ってみると、思いっきり冷めた顔で僕を見て、ふはん、と馬鹿にしたように笑う。
うわ、ムカツク…

「んな訳あるかィ。だから童貞眼鏡は嫌なんでィ、何でもソッチに持って行こうとしやがる…怖ェ怖ェ助けてオソワレル―」

ムッカァァァァァ…
こんな奴絶対もう関わるもんかっ!!
ってか、この人何で僕の名前知ってるんだ…?
ってそんな事良いや。さっさとあっち行け!僕に関わるな!!





…そう思った筈なのに、夏休みの近い今も何故か沖田君は常に僕に付き纏って来る。
席は隣だし、何かといえばペアを組まされるし。
クラスの皆はすっかり僕らが親友だと思ってる。
白髪の担任も、もうすっかり僕らをセットとして見てるしさぁ!
アレ絶対面倒くさいからって僕に沖田君の面倒みさせようとしてるんだよ!!
その上沖田君は、勝手に僕の家に遊びに来て、姉さんにまで取り入って気に入られてしまった…
あの人ズルイんだよ!
姉さんの前ではあの時のあのコみたいに可愛く振る舞ってさぁ…ドキドキするんだよっ!

イヤイヤイヤ、ドキドキは無い。
沖田君、男の人だからね!!
でも…たまに色っぽい顔してたり可愛く微笑んだりしてる顔は…

って!わーっ!わーっ!!わーっ!!!

僕にそっちの気は無いからなっ!
大体、今や声変わりしてあんな可愛かった声は聞こえないし!
すくすく成長しやがって、僕よりちょっとだけ大きくなったし!
剣道部なんかに入って逞しくなっちゃったし!
ちょっとの間に僕より全然男の人になっちゃったし…
それがカッコイイなんて…全然思わないし!

一緒に馬鹿やったり…何かと助けてくれたりするのはそんなに嫌じゃ無いし…って言うかむしろ嬉しい。
僕には無い考えで引っ張って行ってくれるのは…正直視野が広がって楽しい。
うん、友達だ、とは思ってるんだ。本当は。
そう思うと何か胸がモゾモゾするけど…コレは喧嘩ばっかりしてるからだよね…?今更友達だなんて…くすぐったいだけだよね…?



「新八ィ、今日も姐さんは家にいるんですかィ?」

休み時間、沖田君がにっこりと微笑みながら僕に話しかけてくる。
一緒にお弁当を食べていた神楽ちゃんが沖田君を威嚇するけど、それは止める。
…うん…そろそろ友達だって認めてあげよう。

「え?放課後?居ると思うけど…又ウチ来るの…?」

「おう!一緒に帰りやしょうぜ!」

「…うん…」

「…どうしたんでィ、今日は来んな!って言わないんですねィ…?」

沖田君に不思議そうな顔で僕の顔を覗き込んでこられると、心臓がバクバクと動いて顔に血がのぼってくる。
ちっ…近すぎるんだよっ!!
やっぱり僕は、この手の顔に弱いんだ…黙ってれば綺麗な顔してるもんな、この人…

「認めてあげるよ!友達だって。友達なんだから家にぐらい遊びに来るだろっ!?」

ジトリと見ながら僕がそう言うと、沖田君が複雑な表情で笑う。
え…?
もしかして…沖田君は僕の事友達だなんて思って無かった…?

「友達…ね…」

「なんだよ…」

「ま、今はそれで我慢しといてやりまさァ…」

「ふざけんなドS!新八はワタシのマミーネ!!」

神楽ちゃんが沖田君に飛びかかったけど、片手で頭を押さえて止めてしまう。
イヤ、マミーって何だよ…ミイラ男とでも言いたいのか…?
神楽ちゃんに掴みかかられた沖田君が、新八ィ何とかしなせェ、とか言ってるけど僕が何とか出来る訳無いじゃん。

ってか今は、って…友達以上って何だよ…親友…とか…?
いや待てよ、そう言えば沖田君…姉さんが居る時しかウチに来ない…?
あれ…?まさか…沖田君も…?

僕の姉さんはすっごく美人で、でも結構ガードが固くって…今迄も何度か姉さんに近付く為に、僕に近付いてくる男が居た…
まずは僕の友達、って事にして…それから姉さんに近付いて…振られた瞬間に僕からも遠ざかっていく…それも、僕に八つ当たりして…

『お前なんかと友達な訳ないだろ!?妙さんの弟だから構ってやってたんだよ!』

何度聞いたか分からない台詞が、沖田君の声で脳内に響く…
あぁ、沖田君はそんな事言っていないのに…まだ…
頭が勝手に想像しただけで、何故か僕は酷く落ち着かない。
凄く心が…痛い…
今迄の誰よりも…痛い…

「…沖田君さぁ…もしかして姉さんの事、好きなの…?」

「は?姐さん?好きですぜ?だって…」

その後も沖田君が何か言ってるけど、全然頭に入ってこない。
そうか…そうだよな…

「…なんでさァ!」

それでも、赤い顔ではにかんだように笑った沖田君があんまり綺麗で可愛くて…大好きだな、って思ってしまった…