歌舞伎町純情派



仕事が入るのは良い…良いんだよ…
今月も赤字を通り越して、今晩のご飯だって食べられるかどうか分からないぐらいなんだしさ。
そんな中で贅沢なんて言ってられない。
ましてやこれで帰りは焼肉な!なんて喜んでる銀さんや神楽ちゃんに、僕だけイヤだ、なんて言える訳がない…

でもさ…

何で…



「行くわよ〜、パチ恵〜」

「何でこうもかまっ娘のバイトの比率が多いんだよっ!?」

きっちりと着物を着こんだパー子さんが、すっかりヤル気で艶やかに微笑む…
もう何回も女装してるから、すっかり慣れちゃった銀さんが怖いよ…

「今更何言ってるネパチ恵。全ては焼肉のためヨ。」

いつもの如く、ものっそいメイクをしたグラ子がめっちゃ上から目線で僕を見下ろす…
神楽ちゃんはメイクしない方が可愛いのに…何であんなにメイクするんだろ…

「そおよ〜、仕事の選り好みなんかや・め・て(は〜と)」

「ウゼ―!何でアンタそんなにノリノリなんだよっ!おかしいじゃん!!もうアンタかまっ娘に就職しろよ!それで生計立ててくれよ!!」

うふん、とか笑いながらウィンクなんて決めてくるオッサンと、諦めるヨロシとか言いつつ人を小馬鹿にした目で見てくるバケモノにキレても、ヤツラの目の前にはもう焼肉しか見えてね―し!何言っても聞かね―し!!
何で僕がこの多感な時期に、こうも何回も女装なんかしなきゃいけないんだよっ!
それもっ…なんだよっ!このミニの着物っ!!せめて普通のさぁ!丈の長いのにしてくれよっ!!
大体、同じかまっ娘のバイトったって、皿洗いとかも有んだろっ!?

「さ〜、とっとと行くわよ〜、焼肉の為に!」

「焼肉―!」

ニヤリと笑った2人に両側を掴まれて、僕はズルズルと引き摺られてホールへと連れ出された…



嫌々ながらもカマザイルなんかをこなして、なんとかバイトは終わった。
一応銀さんも考えてくれているのか、接客はやらなくて済んだのは不幸中の幸いだった。
そのままの格好で焼肉屋(勿論食べ放題)に行って、レディースディにゴリ押しした…
どう考えても無理だろうと思ったけど、どんな手を使ったのか僕らは女性料金でお腹一杯食べる事が出来た。

「銀さん…これ僕ら後で訴えられたりしないでしょうね…?」

「あらやだ、そんな訳ないじゃな〜い!だって私達オンナノコだもん♪」

くねっ、とシナを作られると何か気持ち悪くなってくる…

「気持ち悪いんだよオッサン…」

「ひど〜い!パー子まだお姉さんだもん!ぷんぷん!パチ恵ももっとオンナノコらしくしないとモテないゾ!」

「あ―も―ムカツク!!」

どんだけなりきってんだよ!
ぷんぷんとかやめてくれ―!さぶいぼ出るよっ!!
僕らがギャーギャーと騒ぎながらも万事屋に向かって歩いていると、前から黒い集団がやってくる。
うわ―っ!!真選組だよっ!!こんな格好知り合いに見られたら最悪だ…
せめて僕だけでも見付からないように、銀さんに隠れるようにコソコソ歩いて行く。
気付きませんように…気付きませんように…

「おやぁ、万事屋の旦那じゃねェですかィ。」

ぎゃぁーっ!気付かれた!!よりによってドS王子に気付かれたぁーっ!!

「あ〜ら、税金泥棒の皆さん。お仕事サボって夜遊び〜?」

無視すりゃいいのに銀さんが土方さんに絡んでいく…
イヤ、沖田さんに絡めよ!ドS王子を野放しにするなぁぁぁぁぁっ!!!

「テメェ万事屋…何キモイ格好してやがんだ…猥褻物陳列罪でしょっぴくぞ、コラ。」

ゲンナリとしてるくせに、土方さんも喰いついてくる…
やめてよ…イヤなら絡むなよアンタも…
2人の睨み合いを遠い目で見ていると、反対側では神楽ちゃんが沖田さんに絡んでいく…
あーもー…この隙に僕だけ逃げようかな…

「ドSテメー何ナンパしてるアルカ!あんまり可愛いからつい、とか言うなヨ!」

「…言わねェよ…なんでィそのツラ…旦那の方が綺麗でィ。」

「何を―!?」

…駄目だ…本格的に喧嘩が始まる…
僕が諦めて遠い目で2人を見ていると、殴りかかった神楽ちゃんの頭を押さえて止めて沖田さんがキョロキョロと辺りを見回す。
何だろ…?

「おい、チャイナ…眼鏡はどうしたィ。」

「は?新八?」

え…?僕…?
なんで僕なんか探して…って!嘲笑うつもりだ!!きっと僕の女装姿を見て嘲笑うつもりだ!!

「おうよ、旦那にチャイナに…ソコのお嬢さんは依頼人かィ?何だよ、眼鏡が居ねェじゃねェか…病気か?」

なんでか心配そうに沖田さんがそんな事言うんで、皆動きを止める。
…まさか…この人気付いて無い…?

「…新八に何か用アルカ…?」

ものっ凄く悪そうな顔で、神楽ちゃんがニヤリと笑う。

「…別に…いつも居んのに今日は居ねェから…」

目を逸らした沖田さんが、ボソボソと言い訳をするけど…
なっ…なんだか…顔が赤いような…何で!?
それを見て更に笑みを深くした神楽ちゃんが、悪魔のような笑い方をする…

「どうしたアルカ―?なにか顔赤くないアルカ―?そんなに新八に逢いたいネ―?」

「…べっ…別に…」

更に顔を赤くした沖田さんが、俯いてボソボソと言い訳する…
何だソレ!?
どうした沖田さんっ!!ソコは喧嘩になるトコでしょうがっ!?

「あーあ、素直に言えば逢わせてやったのに残念アルネー」

「煩ェチャイナ!本当ですか!?」

何だ―っ!?
アノ、沖田さんが変な所に喰いついてきたぁぁぁぁぁぁぁっ!!
僕はどうして良いか分からなくてキョロキョロと辺りを見回すと、罵りあっていた筈の銀さんと土方さんが震えていた…
笑ってるよ!あの人達!!大人なんだから止めろよマダオっ!!!
銀さん達に文句を言おうとそっちに動きかけると、神楽ちゃんが僕の腕を掴んで引き留める。

「仕方ないアルネー『神楽様があんまり美しかったから、僕ナンパしちゃいました!』とか言ってみろヨ。」

「神楽様があんまり美しかったから、僕ナンパしちゃいました!」

うわっ、言ったよこの人…

「…思ったより気色悪いアル…ほらヨ。」

神楽ちゃんが掴んでいた腕を押しやって、沖田さんの前に僕を突き出す。
なっ…何すんだよっ!!笑われる…嘲笑われるよっ!!

「…どーも…」

「はい、こんちわ。新八くん居ねェじゃねェかよ!殺すぞチャイナ!!」

沖田さんが普通に僕に挨拶して神楽ちゃんに凄むと、皆が爆笑する。
…ここまで気付かれないと、いっそ清々しいよ…何で気付かないかな…