きらきらの王子様
夏も近いある日のHR。
いつもやる気の無い死んだ魚の目をした担任が、いつにも増してやる気の無い声でダラダラと喋り出す。
「は〜い、今日は学校祭の出し物を決めま〜す。」
あぁ、もうそんな季節か…
今年は何をやらされるんだろう…又女装とかやらされるのかな…?
まぁ…何をやるにしても僕は総悟君と組まされるんだろうな…僕、沖田係だし…
はぁっ、と諦めの溜息を吐いて隣の総悟君を見ると、いつものムカツクアイマスクを着けてぐうぐうと気持ち良さそうに御就寝中だ…ぶん殴って良いかな…?
「今年は、Z組は劇やらされる事になりました。お前ら去年稼ぎ過ぎたんだよ…」
…担任は全くやる気無さそうなのに、静かに怒ってた…
お金には汚いよな…銀八先生…
「ったくお前らよ〜、もうちっとバレないように稼げよな〜…バカ校長や理事長のババァに説教されんの俺なんだよ…」
ブツブツと愚痴が始まる…
HRでする話じゃないよね!?そんな事っ!!
「劇なんてオメェ…写真ぐらいでしか稼げね〜じゃねぇか…」
そして、まだ懲りずに稼ごうとしてるよ…
「…って訳で、金になるシナリオと配役を考えて下さ〜い。なんかアイデアの有る人〜」
は〜い、と銀八先生が手を上げるけど、誰も手を上げない。
そりゃそうだよね。そんな、先生の良い様になんかしないよね!!
「先生ー、学祭は金儲けの為に有るのとは違うと思いまーす。」
風紀委員の土方君が、やっぱり突っ込む。
そうそう、ちゃんと言ってやらなきゃね。
「誰か良い案ね〜か〜?」
「人の話聞けよ!」
土方君の意見をするっと無視した先生に土方君が突っ込みを入れるけど、先生は土方君をチラッと見ただけで又すぐ前を向く。
「んじゃ、多串君はマヨネーズ役な〜」
「そんな劇ねーよ!!」
土方君が立ち上がって先生を睨むと、先生も土方君を睨みつける。
…駄目だ…又この2人喧嘩始めたよ…誰かなんとかして…
「はい!お姫様役は新ちゃんが良いと思います!」
ピリピリした雰囲気をものともせず、はい!と手を上げて立ち上がった姉上が、とんでもねー事言いやがった…!
「なんで僕っ!?ウチのクラス可愛い女の子沢山居るでしょうがっ!!大体、お姫様なら姉上の方が…」
「何を言ってるの新ちゃん。私は駄目よ、新ちゃんの可愛い姿をカメラにおさめなくちゃいけないもの。」
…駄目だ…なんか変なスイッチ入ってる…
まぁ、お金になる配役、とか言ってたし…先生がそんなの認める訳無い…
「んじゃ、志村弟がお姫様役で志村姉がカメラ担当な〜」
「決定かよっ!?」
そんな馬鹿なっ!?なんで先生反対しねえんだよ!?
僕が叫んで立ち上がっても、いつの間にか黒板の前にスタンバってた桂君がカツカツと僕と姉上と土方君の名前を書き込んでいく…マヨネーズ役も決定なんだ…
「お姫様と言えば王子様も要るよな〜、先生やっちゃおうかな〜?」
ニヤニヤしながら僕を見るけど、なんでだよっ!?
担任が参加する劇なんて聞いた事ねぇよっ!!
「銀ちゃんには無理ネ。新八がお姫様なら王子はワタシアル!」
ズバン、と手を上げて神楽ちゃんが立ち上がる。
成程、逆転劇か…それはそれで面白いかも…
「姫より小さい王子はいかがなものかな?僕ならば申し分ないと思うが?」
スッと伊東君が立ち上がる。
珍しい…こんな馬鹿騒ぎには興味無さそうなのに…でも、王子様っぽいよね…
「そんな堅物王子はいかがなものか。俺ならば、カツラは要らないが?」
黒板の前の桂君が一歩前に出る。
確かに、王子様ってロンゲなイメージだよね…
「お前なら王子より姫だろ。俺は納得してねぇぞ!マヨ役じゃなくて王子ならやらんでもない…」
土方君が立ち上がる。
確かにカッコ良いよね…写真売れそう…
「そんな目つきの悪い王子など女子供は泣いてしまう。ぼっ…僕がやっても良いだろうか…?」
九兵衛さんっ!?
うわぁ…王子様似合いそう…
「柳生さん、君ラブシーン出来るの?俺ならそれぐらい…」
「そんなシーン学祭の演劇でやらねーよっ!!」
なんでか上から目線で九兵衛さんを見下ろして、とんでもない事を言い放った山崎君に椅子を投げ付ける。
あーあ…九兵衛さん真っ赤になって固まってるよ…
「いやいやいや、チューくらいやんないと客は呼べないね。」
「先生何言ってんですかっ!そんな事したらまた説教どころか減俸ですよっ!!」
「本当にはやらせねぇよ。やってるフリだけだって。それぐらい幼稚園でもやるだろ。」
「…うっ…」
確かにそうだけど…
それなら相手役は男は嫌だ!!
「九兵衛さ…」
「そっ…そんな破廉恥な!!新八君とそんな事…そんな…そん…」
真っ赤な顔のままばったりと倒れた九兵衛さんが、東城さんに背負われて保健室に連れて行かれた…
いやぁぁぁっ!九兵衛さんが居なくなったら誰がっ…
「そろそろ真打ち登場といきやすか…新八くんが姫なら王子と名高い俺が相手役やらせて貰いやしょう。」
げーっ!!ドS王子来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
ちょっ…誰かっ!早く却下…
「無理ネ!お前じゃサボるヨ!!」
「新八くんが姫なら真面目にやってやらァ。女子共が失神するぐれェの王子、演じてやらァ。」
にっこり笑ってピースする姿は…確かにこの人黙ってれば王子様だよな…
って待て待て!このままいったら僕この人相手にキスシーン…
「じゃぁ問題無いわね。ねぇ?皆?」
怖いくらいの笑顔で姉上が皆を見回す…
え…?なんでそんなノリノリ…?
なんでそんな有無を言わせない感じ…?
「あの…姉上…僕は…」
「良かったわね、新ちゃん。仲良しの沖田君が相手役で安心したでしょ?」
「いえ、全然安心は…」
「良かったわよね?新ちゃん?」
「…はい…」
姉上が何でこんなに乗り気なのかは分からないけど、逆らったら酷い目に合うのははっきり分かる…
誰も逆らえないまま、桂君が黒板の王子様の欄に総悟君の名前を書き込む…
あぁぁぁぁ…決まっちゃったよ…どうすんだこれ…
その後はさくさくと色んな事が決まっていった。
僕らがやる内容は、シンデレラで…
初めのうちのみすぼらしい感じが僕に合ってるとかなんとか…なんかちょっとイラッとする…
「そう!汚い格好の乙女が華麗に美しいお姫様に変身するのよ?新ちゃんにピッタリじゃない!あまりの可愛らしさに皆驚くわよー!!」
目をキラキラと輝かせながら語り出した姉上を誰も止められない…
やっぱりこのクラスで最強なのは、うちの姉上だよな…逆らえる人なんて誰も居ない…ってか、皆ノリノリだよ…
こうなったら総悟君がサボってくれるのを期待するしかない。
そうしたら、誰か代わりの…女の子!…が王子様役になってくれるかもしれない…
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