それからすぐに学校祭の準備期間に入って、授業もそこそこに皆で手分けして準備を始める。
僕の期待とは裏腹に、総悟君は本当に真面目に準備に参加した。
練習は勿論の事、大道具や小道具作りにまでキッチリと…それも誰に言われる事も無く、自分から…
やれば出来るんじゃん…それも、なんか上手ぇよ…
僕でさえちょっと見なおしたんだから、クラスの女子は大変で。
総悟君を見る目がハートになってるよ…うん、本当の王子様みたいだしね…

そんな中、学校祭も迫ってきたのに背景や小道具の完成が間に合わなくて、今日は皆でそっちを手伝っていた。
僕も小道具の方を手伝っていたら、小道具係の女子が材料が足りない事に気付いてオロオロと慌てだす。

「誰か買い出し行って来てーっ!!」

「あ、じゃぁ僕行って来るよ。」

「有難う志村君!」

買い出しメモとお財布を渡されて、それに目を通すと…結構な大荷物になるな…一人じゃ辛いかも…
誰かに声を掛けようと顔を上げると、目の前に総悟君が立っていた。

「姫、お出かけで?んじゃ俺もお供しますぜ。」

にっこりと微笑んで、買い物メモをスッと取って歩きだす。
…僕が困ってたの…気付いてくれたのかな…?

「有難う…一人じゃちょっと辛いかな、って思ってたんだ…」

「気にすんねィ。姫のナイトは王子って相場が決まってらァ。」

そう言ってスタスタと歩いて行ってしまうんで、小走りで追いかける。
学校を出て何処に行こうかと悩んでいると、グイッと僕の手を引いて又総悟君がスタスタと歩きだす。

「あのっ…総悟君、何処に…」

「買い物に決まってまさァ。面倒くせェんで一気に終わらせやすぜ。」

そのまま引っ張られて着いた所はちょっと遠いショッピングモールで。
迷う事無くスタスタと歩いて行く総悟君は、次々と買い物を済ませていって、おつかいはすぐに終わってしまった。
凄いなこの人、やる気にさえなれば完璧だな…

「総悟君ってなんでも出来るんだね、僕見なおしたよ!」

僕が尊敬のまなざしで総悟君を見ると、やっぱりいつもとは違って優しげな表情でにこりと微笑みかけられる。
なんでだろう…凄く…ドキドキする…顔の良い人は得だよね…男の僕でさえこんなになるんだから、女の子なんかみんなメロメロだよね…

「見なおして惚れてくれやしたかィ?新八くん…」

「へっ!?何言ってんの!からかわないでよもう…そんな手には乗りませんからねっ!!」

僕が顔を赤くして怒ると、総悟君が又にこりと笑う。
そんな…顔で笑われたって…騙されないからな…っ…どうせからかわれてるんだ…

「へいへい、今はそれで良いや…」

今は、って何だよ…僕が乗らないとこのネタずっと続けるつもりなのか…?
気付くと総悟君は全部荷物を持って来た時と同じくスタスタと歩いて行ってしまう…

「ちょっ!総悟君荷物荷物っ!!僕も持つよ!!」

「姫に箸より重いモンなんて持たせられやせん。それよりそこの公園で一休みしていきやしょうぜ。俺、コーヒー。」

ぽい、と財布を投げられて、総悟君はそのままスタスタと公園に入って行ってしまう。
…良いのかな…ま、ちょっとぐらい休憩しても良いか。予定より全然早く買い物終わったし…

僕が自動販売機でコーヒーを買って公園に入っていくと、木陰のベンチに総悟君が座って待っていた。

「はい、コーヒー。」

はい、と缶コーヒーを渡すと、総悟君がきょとん、とした顔で僕を見る。

「…新八くんの分は…?」

「…えっ…?」

「何でィ、1本を分けて飲む気ですかィ…間接きっすしたいんで?」

「なんでだよ!?僕お財布持ってきて無かったし…それ、総悟君のお財布でしょ…?」

「そんなん奢りまさァ。何が良い?」

僕からお財布を奪って出口の方にスタスタと歩きだす。

「えっ…?あの…お茶で…」

僕も着いて行こうとすると、荷物見てて下せェ、と止められる。
…さりげなく優しいと…心臓がドキドキと煩くてしゃーないよ…

「ほい。」

大人しく座って待っていると、すぐに戻ってきた総悟君が僕にお茶のペットボトルを渡してくれる。
…蓋ぐらい…自分で開けられるのに…
なんかもう、本当にお姫様になったみたいで…変な気分だ…
お茶とコーヒーを飲みながら、涼しいベンチで学校祭の準備の話とかをする。
そういう話をしてると、普通なんだよな…総悟君も…
それに…自分の分はもうとっくに飲み終わってるのに…僕が飲み終わるまでちゃんと待っててくれる…
いつもは自分勝手なのにさ…こんな時だけ優しくされたら…僕は…

「うぇー、やっぱコーヒー止めときゃ良かったぜィ…口ん中甘ったりィ…口直し。」

うぇっ、って顔をした総悟君が、いきなり僕の持っていたぺットボトルを取ってゴクゴクと飲んで又僕の手に戻す。
えっ…?ちょっ…さっき変な事言ってたから…意識するじゃん…っ!
もう飲めないじゃん…

「そろそろ戻りやしょうぜ。新八くんもさっさと飲んじゃって下せェ、ちゃんと残しときやしたから。」

普通の顔でそう言われたら…一人で意識してる僕が恥ずかしいじゃないか…
気にしてないふりで頑張って残ったお茶を飲んでしまうと、スッとペットボトルを取ってゴミ箱に捨ててくれた総悟君が、ニヤリと笑う。え…?

「間接きっすー」

「なっ…バカですかっ!?男同士はそんなん無いんですっ!!」

「顔赤ェよ?」

「バッ…バカじゃないっ!?あっついからですよ!あー、今日はあっついなー!!」

僕が叫ぶと今度はニコニコ笑いながら、へいへい、とか言ってるよ…
悔しいんで荷物を1つ無理矢理奪って歩き出すと、空いた手でぎゅっと僕の手を握る。

「なっ!?ちょっと…学校に帰る道ぐらい僕だって…」

「俺らは姫と王子ですぜ?役作り役作り。仲良くしやしょうぜ?」

そんな事言いつつグイグイと引っ張られて足早に学校に戻っていく…
仕方ないんでそのまま学校まで帰るけど…やっぱり緊張する…心臓煩い…繋がれてる手が…熱すぎる…
ちらちらと総悟君の顔を見ても全くの無表情で…こんなドキドキしてるのは僕だけなのかと思うと、なんだか寂しい…
すぐに学校に着いて、そのまま教室まで入ろうとするんで繋いでいた手をグイッと引っ張って止まると、きょとん、とした後にっこり笑って手を離してくれる。
嬉しい筈なのに…それが寂しいなんて…
って何だ!?この気持ち…

「おーい、下僕共。王子と姫のお帰りでィ。」

総悟君がムカつく台詞をはいても皆はそんなのに突っ込んでる暇も無く、さっき買い物を頼んだ娘が走ってきて買い物袋を確認する。

「うん、間違いなく。志村君沖田君有難う。早速で悪いんだけど、あっちとこっちと手伝って!」

にっこり笑ってせわしなく駆け去っていく後姿を眺めつつ、僕は凄くおかしな気分になる。
今の笑顔…物凄く可愛い筈なのに…全然ドキドキしない…
さっきの総悟君の笑顔には…ドキドキしたのに…

「新八くんはどっち行きやす?俺ァさっきあっちだったんであっちの方が良いんですがねィ…」

僕が考え事をしていたのを見かねて、総悟君が話しかけてくる。
その距離が予想外に近くって…又ドキドキが凄くなる。

「そっ…そえでいいにょ…っ…」

「…なんでィソレ…かーわい。んじゃ、姫の為に頑張ってきまさァ。」

にこりと笑ってさっさと手伝いに行ってしまう…
…駄目だ…心臓壊れる…
僕って案外なりきるタイプだったんだ。
さっき総悟君に役作り、って言われたから…きっと姫になりきってるんだ!

それじゃなきゃ…こんなのおかしいから…

男の人相手にこんなのおかしいから…

劇が終わったら…元に戻るんだ…絶対…!