僕に吹くのは突然の嵐



いつものように晩ご飯の買い物をした帰り、ふと通りがかったオープンカフェで、僕は信じられないモノを見た。

姉上が…アノ姉上が、真選組の沖田さんと、仲睦まじ気にお茶を飲んでいるのだ!

何でコノ2人っ!?何が有ったんだ!?
慌てて少し離れた茂みに身を隠して2人の様子を伺う。
だって、姉上と沖田さんだよ!?
接点なんて、近藤さんぐらいじゃないか…
姉上が近藤さんを邪険にしてるのは、皆が知ってる事だし。
沖田さんは、近藤さんを慕ってる。

そんな2人が仲良くお茶をしているなんて…
信じられなくて、メガネを外してゴシゴシと目を擦って見直してみるけど、2人はニコニコと笑い合って楽しそうに何かを話している。
2人の楽しそうな姿を見ていると、なんだかズキズキと胸が痛くなってくる。

…姉上のあんな無防備な笑顔…僕は最近見ていない…
ここ最近の姉上は、怒ってるか心配してるかで。
僕にはあんな笑顔は見せてくれない。

それに…沖田さんがあんなに楽しそうに笑うなんて、僕は知らない。
イヤ、それどころか笑った顔ですら、そうそう見た事が無い。
いっつも無表情で…怒ってるのかそうじゃないのか、全然分からなかった。
ここの所、近藤さんの決めた局中法度のせいなのか、僕の周りによく沖田さんが現れていた。
その度に、あんまり話す事は無くても、僕らは一緒に居る事が多くなった。
買い物の帰りだったら荷物を持ってくれたり、お団子を奢ってくれたり…
なにかと優しくしてくれて…ちょっと良い人なのかな…?とか思っていた。
全然全く何を考えているのかは分からないけれど、一緒に居る時の空気は穏やかで…凄く落ち着いた。嫌じゃなかった。


でも、あぁ…好きな人と居る時は、あんな顔するのか…
ふと思い浮かんだ言葉に、僕の胸は猛烈に痛む。

そうだよ、何で気付かなかったんだ!
年頃の男女があんな顔で楽しそうに笑い合ってるなんて、好き同士に違いないじゃないか!
ちょ!待って!!いつの間にっ!?
そんな馬鹿なっ!姉上と沖田さんが…恋び…
イヤイヤイヤ!そんな事有る訳が無い!!有る訳が無いって言うか、認めません!!
そんな…沖田さんだなんて…姉上がそんな事…

でも…2人とも綺麗だし…本当は優しいし…年だって近い筈だよね…?
…そんなの…好きになったって…全然おかしくないじゃないか…

って!待てよ僕!!
沖田さんってほんの短時間で女の子を調教しちゃうドSじゃないかっ!!
繁みの蔭から姉上の首を確認するけど、首輪はついて無い…良かった…姉上もドSだもんな…そう簡単には調教されないよね…
さりげなく沖田さんの首も確認するけど、首輪はついて無かった…

そのまま2人の姿をじっと見ると、相変わらずにこにこと笑い合って、凄く楽しそうに話をしている。
滅茶苦茶盛り上がってるよ…
なんか…2人が遠くに行ってしまったように見えて…又胸が苦しくなってくる…

自分がシスコンだ、って自覚は有ったけど…こんなに胸が痛くなるなんて初めてだ。
今迄姉上が誰かの事素敵、とか言ってるの聞いてもこんな気持ちにはならなかった。
誰かが姉上に言い寄ってきても、こんな気持ちにはならなかった。

…実感が湧かなかったから…だよな…きっと…
相手が沖田さんだから…急に現実味が出てきたのかな…?

ドSだけどイケメンだし。
ドSだけど優しいし。
ドSだけど意外としっかりしてるし。
ドSだけど剣の腕はたつし。
ドSだけどお金持ってるし。
ドSだけど仲間思いだし。

ドSだけど…ドSだけど…

僕にさえあんなに優しいんだから、姉上にはきっともっと優しいんだろうな…
そんな事されたら…きっと姉上が沖田さんの事を好きになるのなんて、あっと言う間だよ…
近藤さんの部下だ、っていうのもポイント高いよね。
そういう昼ドラっぽいの好きだもん、姉上。

茂みの隙間から、又、チラッと2人を覗き見る。

2人とも頬なんか染めてるよ…
何だよ…好きな人の前じゃ…あんな可愛い顔するんだ…
あんな顔見せられたら…コロッといっちゃうよな…
あんなの…性格なんか…どうでも良くなっちゃうよな…
自分にだけ、あんな顔されたら…好きにならない訳…無いよな…
僕にはあんな顔…してくれた事…無い…し…

あぁ!そうか…僕にも優しくしてくれたのは…全部…姉上の為なんだ…
少しでも優しい良い人だなんて思った僕は…まるで馬鹿じゃないか…

その事が…なんでだろ…凄く悲しい…

僕にだけ特別…とか…そんな事…有る訳無いのに…

それでもまだ信じられなくて、もう1回そっと茂みの隙間から2人を覗いてみる。

…とても幸せそうに…微笑み合って…手を握り合った…

…覚悟はしてた筈なのにな…凄く…胸が痛い…
姉上を…沖田さんに持っていかれるんだ…
でも…そうだよね…沖田さんなら…沖田さんなら…
道場も復興してくれそうだし…
姉上と2人…流行りの道場に…してくれるよね…
僕は…赤飯製造マッスィーンになるしかないんだよね…

2人を凄く遠くに感じながら、茂みの蔭から立ち上がる。
『おめでとう』はまだ言えないけど…幸せに…なって…

そこまで考えて、僕の頬を涙がポロリと流れる。
畜生!女々しいぞ僕っ!
誰かの物になったって、姉上は姉上なんだっ!!

…でも…今日だけは…今日だけは少しだけ泣いても良いよね…?

すぐに立ち去ろうと一歩後ろに下がると、それまで和やかに笑い合っていた2人が、ギンッ!と僕の方を見る。

え…っ!?
まさか、結構距離が有るのに僕に気付いた…?
そーっと立ち去ろうと横にずれると、物凄い勢いで2人が僕に向かって走ってくる!?
うわっ!ヤバっ!!何で気付かれた…
とっ…とにかく逃げないと…っ!!

僕が走り出すとすぐに、後ろから腕を掴まれる。
振り返ると、凄く真剣な顔の沖田さんで…捕まえられた腕が熱くて心臓がドキドキする…

「新八くん…なんで泣いてんで…?」

やっ…ヤバい…見られた…っ!
シスコンだって馬鹿にされる…

腕を振り切って逃げようとしたら、力の限り抱き込まれて…
痛い…っ…!
でも…なんで僕は安心して…

「新八くん、俺をナメないで下せェ。お前さんが泣いてんなら、どんな遠くたって判りまさァ!」

「…へ…?」

何を…言ってんだ…?コノ人…
沖田さんが気にするのは…姉上…だよな…?

「流石ね、沖田さん…『新ちゃん涙センサー』が付いているなんて…!」

「あったり前でさァ。」

遅れて僕らに追いついた姉上が、ニヤリと笑って沖田さんとハイタッチする。
…は…?
何言ってんだ…?この人達…