すぐに執事さんに連れられて、私の部屋に案内される。
慣れるまで暫くは泊まり込みで働く事になる、と説明されて、慌てて姉上に電話をさせてもらうと、

『頑張ってね!』

と応援してくれた。
うん、頑張らなくっちゃ!

「じゃぁ俺は外に居るから、制服に着替えたら声を掛けてくれな。」

執事さんがそう言って部屋を出ていくんで、タンスを開けて制服を出す。
わ…可愛いメイド服!
…でもコレ…かなり短い気が…する…
試しに着てみたけど…やっぱりスカート短いよ…パンツ見えそうだよぅ…
その上ガーターベルトがなんだかえっちな感じで…
まさかお給料高いのって、そういう仕事があったりとか…?
こんなの…どうしたら…

コンコン、とノックされて執事さんがすぐに入ってくる。
えぇぇぇぇっ!?そんな、まだ着替えて…

「パチ恵ちゃん、早く着替えて…あぁ、着方判らなかったかい?後はこれを履いて…よし、出来あがり。」

ふわふわのパニエを履かされると、色々隠れるし…執事さん顔色一つ変えないし。
この衣装、そんなにえっちじゃないのかな…?私の考え過ぎ…?

「おお、可愛いよ。さ、仕事の説明が有るから行こうか。」

ぽんぽん、と又頭を撫でられてニカリと笑われると、制服を変な風に見てたのが恥ずかしいかも…
きっと凄く動きやすい服なんだ、これ!
どこかに向かいながら、長い廊下を並んで歩く。

「改めて宜しくな、俺は執事長の近藤勲だ。君の仕事は屋敷内の掃除と、総悟の世話になる。」

「えと…お坊っちゃま…ですか…?」

「そうそう。時間になったらお茶をお出ししてくれ。」

「はい…それだけで良いんですか…?」

掃除とお茶を淹れるだけで、あんなお給料…?
そんなの…おかしいよね…?

「それだけ、なんて言えるのは今だけだぞ?この屋敷の広さを見くびらないでくれよ?」

ははは、と笑われるけど…確かに広いお屋敷だから掃除だけでも大変なんだよな…
そう言ってたもんね、ここに来てすぐに。
うん!頑張ろう!!

「それに…総悟がな…」

近藤さんが苦笑いするけど…
王子様…だったよね…?
何か有る人なのかな…

「お、もうこんな時間だ!早速だけど、お茶をお出ししてくれ。給湯室はこっちだよ。」

近藤さんに促されて、日本茶を淹れる。
ちゃんとお茶碗を温めて、お湯は適温にして…うん、良い香り!
…やっぱり良いお茶は美味しいんだろうな…
お茶受けのお団子も用意して、お盆に載せて運んで行く。

「お屋敷は広いから迷わないようにな?何回かは俺が一緒に行くけど、早く覚えてくれな。」

「はいっ!…努力します…」

そういうの苦手だけど…頑張って覚えなくっちゃ!



一際大きい扉の前で近藤さんがノックをして、すぐに入っていく。
えぇぇぇぇ!?良いのかな…?
私も後ろから着いて行くと、王子様が机に向かって忙しそうに何か仕事をしている。

「総悟、一休みしたらどうだ?今日からはパチ恵さんがお茶を淹れてくれてるんだぞ?」

執事さんなのに…そんな言葉遣いで良いのかな…?
でも、王子様は普通にしてるし…私の知らない何かが有るんだよね、きっと。

「ん。」

私がお盆に載せたお茶とお団子を持って近付くと、コッチを見もしないでスッと書類を除ける。
そこにお茶とお団子を置くと、書類から目を離さないままズズッとお茶をすする。
…お茶の時間ぐらい、ゆっくりすれば良いのに…
そう思いながらじっと見ていると、ぱちくりと眼を瞬かせて、私の方に目を向ける。

「…コレは…オメェが淹れたんですかィ?」

「はい…不味かったですか!?すぐに淹れなおして…」

どっ…どうしよう!温かったのかな…それとも薄かった…?
とにかくちゃんと淹れなおして…

ちょっと泣きそうになりながらお茶碗を受け取ろうとすると、手を掴まれてにっこりと微笑まれる。
うわ…っ…こんな至近距離でこんな綺麗に微笑まれたら…顔赤くなっちゃうよ…っ…

「いや、旨い。オメェ、俺の専属になりなせェ。」

「はっ…はいっ!」

「良ーい返事でィ。メイド服も似合ってまさァ。」

にこにこと笑う顔がどんどん近付いてくる…気がする…
ひっ…ひゃぁぁぁぁぁ…!

「可愛いですぜィ?」

「ふわっ!あっ…有難う御座いますぅぅぅぅぅっ!!」

出来るだけ後ろにのけぞって距離を取るけど、腕を掴まれているから綺麗な顔がどんどん近付いてくる…
王子様みたいな人にこんなに近付かれたら、心臓爆発しちゃうよぅ!

「近藤さぁぁぁぁん!」

涙目で助けを求めると、苦笑いした近藤さんがグイッと私を引っ張ってくれる。

「総悟、志村さんは普通のお嬢さんなんだから、からかうな。」

たっ…助かった…のかな…?
ホッと胸をなでおろすと、王子様がむうっと膨れて近藤さんに言い返す。

「近藤さん酷ェよ、良いだろ?ちゅーぐれェ。それにコイツ…八恵は俺付きのメイドだろィ?専属になる、って今言ったしな。常に一緒に居て身の回りの世話から夜の相手までして貰うんだから…」

「へぇぇぇぇっ!?」

いっ…今…何か大変な事聞いたような…
やっぱりお給料高いのはそういう理由が…っ…!?

「コラ、総悟!そんな仕事はさせんぞ!?」

近藤さんが怖い顔になって私を後ろに隠してくれる。
あ…助かった…のかな…?
私がきょときょとと2人を見ると、王子様がブハッと笑う。

「顔、真っ赤ですぜィ?冗談に決まってまさァ。んな事したら姉上に殺されちまわァ。」

くすくすと笑った顔は、凄く可愛い…
そんなの見せられたら…いつまで経っても顔赤いまんまだよぅ…

「とりあえず、毎回旨い茶頼みまさァ、八恵。俺の事はご主人様…か…総悟様と呼びなせェ。」

「はっ…はい!総悟様!!」

ご主人様、は…なんとなく呼び辛いからそう言うと、満足気に頷いてにこりと微笑んでくれた。
そして、又書類に目を落とした時には真剣な顔に戻っていて…
さっきまでの変な冗談を言っていた人と同じとは思えない。
だから、邪魔をしないようにお茶碗とお皿を下げて、そっと一礼してその部屋を後にする。



給湯室に帰る道すがら、近藤さんが心配そうに私を伺ってくる。

「なんだかごめんな。でも総悟があんな冗談を言うなんて、きっと君の事を気に入ったんだと思う。」

「そっ…そうなんですか?」

「あぁ、あんな楽しそうな総悟は久し振りに見たよ。アイツも中々気が抜け無い立場に居るから心配でな…」

そう言う近藤さんの顔は、本当に心配そうで。
執事、というだけじゃなくて、何か関係有る人なんだろうな…
でも、今日すぐに詮索なんて…出来ないよね。

「総悟はあんなだから君には色々我儘を言うかと思うが…宜しく頼むな。」

私と話をして気が紛れるなら…お役に立てるって事だよね!

「はい!頑張ります!!」

私が応えると、近藤さんが安心したように笑って頭を撫でてくれた。