「あの…すみません…騙すつもりじゃなかったんですけど…貢ぎ物はお返しします!だから…」
「いいよいいよ、それは新八君にあげたものだしね。」
「おぅ、そんなの関係無ぇよ。」
「ワシはそんな細かい事は気にせんぜよ。」
「そーそー、男の子でも可愛いし。俺のお嫁さんになってヨ。」
「…気にすんな…」
勇気有る男達は、新八が男でも構わずに求婚する気満々です。
ガンガンと自分をアピールしてきました。
しかし、新八にはまだ、まさかの為の秘策が有りました。
そろりと男達を見回すと、彼らは皆色男で新八の心臓はドキリと騒ぎました。
しかし、新八は男です。
同じ男の彼らと懇ろになる気は更々有りません。
「皆さんがご覧になった通り、僕は男です。それは解っていらっしゃいますよね…?」
新八は、彼らが混乱しているのではないかと思いました。
なので、そこはちゃんと確認しておこうと思いました。
「もちろん知ってるよ?」
「だから何だ?」
「おんしが可愛いのに変わりは無いぜよ。」
「そんなの気にしないヨ。穴は有るよネ。」
「…気にすんな…可愛がってやる…」
それでも男達は全く引きません。
むしろグイグイ押してきます。
もう仕方が無いので、新八は最終手段に出る事にしました。
「そうですか…そんなに想って頂けるなんて光栄です、有難う御座います…」
そう言ってペコリと頭を下げる姿も愛らしく、男達は皆、ほう、と溜息を吐きました。
「でも…皆さん素晴らしい方ばかりで、僕なんかがどなたか1人を選ぶなんて、おこがましくて出来ません。なので、一番に僕の指定する宝物を持ってきて下さった方の所に嫁がせて頂きたいと思います。」
そうして新八が条件として出した宝物たちは、どれも幻と言われる物ばかりでした。
そこまでの無理難題を突き付ければ、皆自分を諦めてくれるだろうと思ったのです。
しかし、男達は皆意気揚々と引きあげていきました。
◆
数日して、一番乗りで帰って来たのは地味と誠実を売りにする男、山崎でした。
『仏の御石の鉢』を持ってきて欲しいと言われた山崎は、帝の密偵として働いている情報収集力をフルに生かしてすぐにその宝石のありかをつきとめました。
しかし、それは全くのガセネタだったようで、その鉢はだだの鉢でした。
「…この鉢、光りませんね…」
「あれ?おかしいな…あ!ほらほら新八君、磨いたら光った!」
「…それで…?」
ハゲヅラを被って自分の頭を磨くと言う山崎の渾身のギャグはダダ滑りし、坂田家の氷の視線に耐えきれずに彼は掛け去ってしまいました。
次に帰って来たのは大きなカンパニーの社長、坂本でした。
『蓬莱の玉の枝』を持って来て欲しいと言われた坂本は、その財力にものを言わせて数多の宝石を散りばめた枝を作ってしまいました。
しかし、それはすぐに偽物と分かってしまい、新八に悲しい顔をさせてしまいました。
「坂本さん…これ…作ったんですか…?ズルですよね…」
「それぐらい金持ちだって事ぜよ!」
「…ズルですよね…」
「………」
新八に責められた坂本は良心の呵責に耐えられず、そのまま立ち去ってしまいました。
その次に帰って来たのは強面ながらも真面目な男、土方でした。
『火鼠の裘』を持ってきて欲しいと言われた土方は、帝の兵隊長という立場を使って沢山の部下を使ってそれを探しました。
しかし、本物かどうか確かめると火を付けた父親に、どうやったのか無理矢理燃やされて偽物だと決めつけられてしまいました。
「テメェこの天パ!何しやがんだ!!」
「え〜?俺普通に火、付けただけだしぃ〜?偽物掴まされたんじゃね?」
「はぁ!?ちゃんと火ぃ付けて確かめたっての!!」
「父上を苛めないで下さい。」
「は!?俺は…」
「苛めないで下さい。」
ドヤ顔の父親にムカつきつつも、新八の拒否に耐えきれず、土方は諦めて帰っていきました。
その次に帰って来たのはこの近辺の荒くれ者の首領、神威でした。
『龍の首の玉』を持ってきて欲しいと言われた神威は、部下と共に海の向こうの島に居るという龍を狩りに船を出しました。
しかし、その船は嵐にあってしまい、神威は宝物を取ってくるのを早々に諦めました。
「ごめんネ新八、嵐で船が沈んじゃったから龍の玉取ってこれなかったヨ。代わりに阿伏兎のタマあげるからお嫁さんになってヨ。」
恐ろしいほどの笑顔で部下のおっさんを差し出してきた神威に、新八は悲鳴を上げました。
「いっ…いりませんっ!タマって…玉も命もいりませんからっ!!」
「えー?エンリョしなくていいのにー新八ケンキョだネ。」
「勿論貴方のお嫁さんにもなりませんからっ!宝物持ってきてませんからね!!」
少し涙目になりながらもキッパリと言いきった新八に、それまでニコニコと笑っていた神威の雰囲気が変わりました。
「俺が、お嫁さんにする、って言ってるんだから、新八は大人しくついてくれば良いんだヨ?キョヒするなら殺しちゃうヨ?」
ニヤリと笑うその姿は、それまでのモノとは全く違いました。
怖くなった新八がガタガタと震えだすと、神威は更に機嫌良く笑います。
「かーわい。新八の怯えたカオはカクベツだネ。」
ジリジリと寄って来る神威に、新八は腰が抜けてしまって逃げられません。
もうすぐその魔の手が新八に伸びると言うその時に、ギラリと光る刀が神威を襲いました。
「…オイ…俺の嫁に手ェ出してんじゃねェよ…」
それは、次に帰って来た隻眼の男、高杉でした。
『燕の子安貝』を持ってきて欲しいと言われた高杉は、部下に色々調べさせていました。
そして、ひとつの説に辿りついてしまったのです。
「新八はなァ…俺に惚れてんだよ…俺に頼んだ宝は女の◎◎◎の別名なんだよ…それを探せって事ァ…そう言う事だろ…?」
「えぇっ!そうなの新八?俺の為に性転換してくれるつもりでコイツに探させてたの?」
その男達がとんでもない結論に辿り着いてしまって、新八はあまりの事にガックリと項垂れました。
勿論新八にそんなつもりは微塵も有りません。
「イエ…僕はそんなつもりは少しも…」
「神威、オマエにそんな事ァ言っちゃいねェってよ…新八は俺に獲って欲しいんだよ…新八のバックバージンをなァ…!」
高杉がニヤリと笑って新八の腰を抱き寄せます。
しかし、新八は目にもとまらぬスピードで高杉の元を離れました。
「違ぇよ!どんだけ自分に都合良く考えられんだよその頭は!?」
新八はいつもの如く怒涛の突っ込みを2人に浴びせますが、そんなものは彼らの耳には届きません。
ジリジリと距離を詰めてくる2人に、新八の恐怖は増すばかりです。
「ギャァァァ!助けて父上ェェェ!姉上ェェェ!!」
新八の声が響くと同時に部屋の3方向から父と姉達が現れ、神威と高杉をフルボッコにして、簀巻きにして川に流しました。
「もう安心よ!新ちゃん。」
「はい!有難う御座います姉上!!」
「もう安心アル!これでずーっと4人で一緒ネ!」
「そうだね、神楽ちゃん。」
「新八は俺が嫁にするから安心しろよ。」
「全然安心できません、父上。」
新八の冷たい視線にさらされた上、娘2人にフルボッコにされて簀巻きにされた父は、神威と高杉と同じように川に流されました。
そのまま父を助ける事無く、子供達は3人仲良く手を繋いで家に戻りました。
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