そして、せーの、の合図でお互い身体を引いて、思いっきり頭をぶつけてみる。


「…いたぁっ…」

「…痛ェ…」

目の前に居るのは相変わらず僕で…
この程度の刺激じゃ駄目なのか…?

「やっぱり走って来てぶつかるぐれェじゃなきゃ駄目なんですかねィ…」

「そうですね、痛いだけでしたね…」

涙目になってる僕に対して、沖田さんは平気な顔でおでこをさすってるだけなんて…僕の身体の筈なのに何でだ!?

「…泣くほど痛ェかよ…俺の身体ですぜ?鍛え方が違うんですがねィ。」

あきれ顔で言われても、こんな所まで鍛えてるのかよっ!?

「沖田さんおでこまで鍛えてるって言うんですかっ!?」

「イヤ、俺の顔で泣いてんじゃねェ…って…仕方無ェな…」


ちゅ…


僕のおでこに何か柔らかいモノが…ってコレは…きっ…きっす!?

「なっ…な…何すんだアンタ!?」

「イヤ、俺だし舐めときゃ治るって。」

「なっ…舐めっ…やめろや!!」

しょんぼりと僕を伺う顔に、又心臓が暴走を始める。
なんなんだよコレぇぇぇ!僕おかしいよ!!

「俺ァ、良かれと思って…」

「そっ…それは有難いんですが…あの…アレです…今のは舐めるって言うより…き…きっすみたいで…あの…」

「なんでィ、あんなのデコチューでさァ。なんなら本当のきっす、しやしょうか…?」

「へっ…?冗談…ですよね…?だって今僕沖田さんですよ…?」

「俺だけど俺の顔じゃねェし…マジで新八くん、そんな顔止めなせェ…俺の前以外では…」

僕の顔をしてるけど、その雰囲気は沖田さんで…男の人なのに、僕の顔なのに、どうしてか嫌だなんて言葉が浮かばなくって、僕はそっと目をつぶってしまった。
フッ、と笑った息づかいがくすぐったくて逃げてしまいそうになると、そっと両の腕で抱きしめられる。
…それも嫌では無いなんて…沖田さんが今僕の姿をしているから…?それとも…
そっと触れる柔らかい感触に頭の芯まで蕩ける様で…口の中に何か柔らかいモノが入ってきて、腰が抜けそうな気分になった。



「新ちゃーん!新八ドコだー!?」

「新八生きてるカー?」

「わんわんっ!!」

あと少しで腰が砕けてしまいそうになっていた時、聞き慣れた声が響き渡り、バタバタと足音が僕らに向かって来て僕は我に返る。
ドン、と沖田さんを突き飛ばすと、薄っすらと頬を染めて不敵な表情で笑う僕で…うわぁぁぁ!!!!!

「何でィ新八くんノリノリだったじゃねェか。」

「そっ…んな事は…!」

ゴシゴシと腕で唇を拭うと、沖田さんが又ニヤリと笑う。

「照れ隠しィー」

「そんなんじゃ…!」

僕が沖田さんに掴みかかった所でガラリと襖が開いて、僕達を見た銀さんと神楽ちゃんが僕を突き飛ばす。
…あ…今僕が沖田さんだから…

「新八大丈夫か!?」

「ドSテメー新八に何したネ!?」

2人の後ろに庇われて、沖田さんが唇に指を当てて『しィーっ』とかやってるけど、言えるかんな事!!

「何もしてませんよっ!!」

僕がそう叫ぶと、2人がポカンと口を開けて、沖田さんが頭を抱える。
あ…!
皆には秘密って言ったの僕じゃん!

「…って言ってやりなせぇ、眼鏡君。なんでおれがコイツに何かするんで…い!」

こっ…こんな感じかな…?沖田さんって…
沖田さんもフォローしてよっ!
僕が目で訴えると分かってくれたのか、沖田さんが2人の前に出る。

「そうですよ!ヨロ…ギンサン…も、チャ…カグラチャンも、僕の事そんな風に思ってたんですか?」

必要以上に目を見開いて、銀さんと神楽ちゃんに甘えてるアレは何だ…?
え…?沖田さんの僕のイメージってあんなんなの…?
ってか2人とも何デレデレしてるんだ!?気色悪がれよ!拒否しろよ!!!
きゃっきゃうふふと楽しそうな万事屋を遠い目で眺めていると、ふんふんと匂いを嗅ぎながら定春が僕に寄って来たので頭を撫でると、満足そうにくぅーん、と鳴いた。
定春にはちゃんと僕だって分かったのかな…?
口に指を当てて、しーっと言うと定春が顔を近づけてくる。

「銀さんや神楽ちゃんにはナイショだよ?」

「わふっ」

納得したのか僕に返事を返してくれた定春が、ぺロリと顔を舐めて3人の方に歩いて行ってしまう。
すると、それを確認した3人が、部屋を出て行こうとした。
え…?こんな状況なんだから僕と沖田さんは一緒に居た方が良いんじゃないの!?

「まっ…待ちやがれいっ!」

僕が声を掛けると、鬱陶しそうに銀さんが僕を見る。
神楽ちゃんは思いっきりガンとばしてくるよ…どんだけ仲悪いんだこの2人…

「何?沖田君。俺らウチに帰るんだけど?」

「あ…えっと…そう!医者が!医者がまだ来てないんでいっ!!」

「医者ぁー?オマエ何やったネドS!?」

2人の気配が怖いモノになる。
うわぁっ!何この人達怖い!!

「や!ぼ…おっ、おれとぶつかって頭打ったんでいっ…」

僕がぱたぱたと身振り手振りを加えながらなんとか良い繕うと、2人がじーっと僕を見る。

「…沖田君…今日なんかおかしくね?」

「そっ…そんな事ないです…さぁ!」

嫌な汗がダラダラと流れてくるよぅっ!
2人はジロジロと疑いの目で僕を見始めた…!?

「もう、ギンサンもカグラチャンも早く帰りましょ?僕、今日は疲れちゃいました…頭もたんこぶ程度なんですよっ?沖田さん大袈裟なんですうっ…」

じーっと上目遣いで2人を見る沖田さんは、ぺたりと床に座り込んできゃるんとしてる…
僕の姿なのに、なんか可愛い…おっそろしい人だな、沖田さん…
そんな沖田さんに、又3人の空気がふわふわしたモノになる…
助かったけど…なんか気持ち悪い。

「何?沖田君羨ましいの?でも仲間に入れてなんかやらねーよ?」

…銀さん、ドヤ顔で見られても羨ましくないです。クソも。
神楽ちゃんも懐いてるけど、その新八気色悪くない…?

「イヤ別に…いいです…」

「あっそ。んじゃ新八も大丈夫だって言ってるし俺ら帰ぇーるわ。」

そう言って3人が立ち去ろうとすると、くるりと振り返った沖田さんが僕に駆け寄ってくる。

「コイツらに着いてかねェと疑われるんで俺行ってきまさァ。姐さんにも何か言い訳してきやす。明日には戻ってきやすから、真選組の方は新八くん頼みやす。」

「あ…はい、分かりました。頑張ってみます!」

そうか、姉上にも説明しなくちゃ乗り込んでくる所だった…
沖田さん大人だなぁ…色んな事考えてくれてたんだ。

帰って行く万事屋を見送って、僕は僕のやらなければいけない事にとりかかった。