「じゃぁ、ゆっくり休んでくれよ。新八君、1人で寝れるかい?」
ニコリと優しく笑われると、何だか恥ずかしくなってくる。
凄く子供扱いされてないか?僕!!
「子供じゃないです!色々有難う御座いました!!」
ハハハ、という笑い声を消すように、パタン、と襖を閉めて部屋に1人になると、そこが急に寒くなったような気になる。
そうすると、恐い考えがどんどん押し寄せてくる。
今迄バタバタしていたから感じなかったけど、今の僕ってかなり大変な事になってるんだよな…
この先僕はどうなってしまうんだろう…ちゃんと元に戻れるんだろうか…?
戻れるとしたら、それは何時…?
1人になると、こんな気持ちになるって近藤さんは分かってたから、あんな事言ってくれたのかな…?
本当に凄い人だ。沖田さんが慕っているのがなんとなく分かった気がする。
入口にただ立っていても仕方ないんで、電気を付けて部屋を振り返ると、そこはがらんとしていて何も無い、殺風景と言うのも憚れるような部屋だった。
…空き部屋…じゃないよな…?総悟の部屋だ、って近藤さんが連れて来てくれたし…一応文机は有る。
押入れを開けると、ふかふかに干された布団も有る。
…元に戻ったら、まず沖田さんと友達になろう。
ここに遊びに来よう、花を持って。
その後はウノが良いかな?トランプでも花札でも良い。
お通ちゃんの秘蔵ポスターも良いな…
何でも良いから何か余計な物を持ってこよう。
沖田さんが1人でこんな部屋に居るなんて、そんなの僕は嫌だ。寂し過ぎるもの…
ふかふかの布団に潜るとすぐに眠気が襲ってきた。
早く元に戻って…僕は沖田さんの傍に………
◆
俺が長い風呂からあがると、辺りは静まり返り一人なのだと実感する。
喉はからからで、身体はだるい。
酒でも飲みたい所だが、冷蔵庫を覗いてもそんなモノは無かったんで、仕方なく水を飲む。
頭を乾かしながらボーッとテレビを観ても、内容は全然頭に入ってこねェ。
身体は火照ったまま、うずうずと疼いている…
スゲェ…スゲェよ新八くん…何処も彼処も敏感過ぎらァ…
ま、俺のテクも有るんだろうけど、それにしたってスゲェ。
わざわざ何処が一番感じるかなんて確かめなくても良かったんじゃね?何処も感じんだからな!
あー!早く元に戻って色んなトコ責めてやりてェ!
もう絶対ェ俺にメロメロにしてやりまさァ!
…さて、身体も落ち着いてきた事だしそろそろもうひとつの方もやりやすか…
いよいよ待ちかねた新八くんの部屋に潜入でィ!
はー、ドキドキしまさァ!俺の写真とか有ったらどうしやしょう!?
カラリと襖を開けると…え…?何コノ部屋…
恐る恐る電気を付けると一面の寺門さんのポスター…に…人形…?
なんなんでィ、このキチガイじみた部屋。こんな所でなんざ落ち着いて眠れるかィ。
まぁ、それは居間で寝るとして。
出来るだけ寺門さんと目が合わないようにしながら押し入れや机、本棚を漁っていきやすが…特に目ぼしいモンは見付からねェ…なんでィ…
少しがっかりしながらパラパラと本棚の本を流し読みしていくと、本の陰に何かが隠すようにして置いてあるのに気付く。
そこら辺の本を除けてソレを取り出して見ると…何かのボトル…?
ラベルを見た俺は、一瞬で目の前が真っ暗になった。
それは…潤滑油…で…
こんなモン持ってるなんて…そういう事じゃねェか…
新八くんは…もう誰かとそういう関係なのかィ…?だからあんなに…敏感なのかィ…?
自室にこんなモン置いてるくらい…頻繁に…?
相手は誰でィ!?
万事屋の旦那か?土方か?山崎…か?まさか近藤さんじゃねェよな…
誰にしたって俺じゃねェ。
…俺じゃ…
普段ならすぐにソイツ見付け出してどうにかしてやろうと思うのに、不思議とそんな気が起きねェ。
何もする気が起きねェで、潤滑油を元有った場所にきっちり戻す。
そのままずるずると身体を引き摺って、押入れから布団をいちまいだけ出して居間に引き摺って行く。
くるりと布団にくるまると、おひさまの匂い…新八くんの匂い…
俺ァ最悪な気分のまま、眠りについた。
◆
ぐっすり眠って頭がすっきりした僕は、取り敢えず局長の指示を仰ごうと局長室に向かうことにした。
その前に身支度を整えて食堂で朝食を頂く。
なんか、おばちゃんが1人風邪で休んだそうで厨房はてんてこ舞いで…
「手伝いましょうか?」
とか、つい癖で言ってしまったら、即座に三角巾と割烹着を着せられて厨房に引っ張り込まれてしまった…
でも、僕でも役に立つのならと頑張って手伝いをしていたら、いつの間にか隊士の方々に遠巻きに囲まれて…
愛想笑いで誤魔化していたら、僕の前に長蛇の列が出来ていた…
しまった!そう言えば沖田さんに言われてたっけ…結構狙われてるって…さっきフッと見た鏡の中の沖田さん、可愛かったもんな…
今更睨みきかせたって無駄だろうなぁ…と遠い目で、それでも手だけは動かして配膳していると、僕の前の長い列を四方に散らしながら隊長服の人達が近付いてくる。
あ…近藤さんに土方さんに…ハゲの人…
「おー、三角巾似合うな総悟!手伝ってくれてるのか?有難う。」
近藤さんがぐりぐりと頭を撫でてくれる。
…なんか落ち着くのはヤバいなこれ…
「おい眼鏡、あんまりおかしな事してんじゃねぇ、バレんだろうが…まぁ、何か有ったら俺らで護ってやるけどな…」
頬を染めた土方さんがチラチラと見てくる…土方さんは要注意人物だな。沖田さんを狙ってんのかも!
「有難う御座います。」
それでも一応愛想笑いでお礼を言うと、更に瞳孔を拡げた土方さんが僕の手を握ってくる…
うわーっ!沖田さんがヤバい!!
「お前、ここに居る間は髪黒くして眼鏡…」
「たのもーう!土方さんいらっしゃるかしら?」
僕が手を振り払った瞬間、そこに薙刀が飛んでくる。
なっ…姉上!?バレ…って、土方さん…?
「あ、お妙さん!総悟を連れて来て下さったんですか?」
満面の笑顔になった近藤さんが、そう言って姉上に駆け寄る…ってしまったァァァ!僕の関係者には内緒だって言うの忘れてたァァァ!!
「あら、このコ沖田さんだったの?新ちゃんでは無いとは思ってたけど…っていう事は、今野獣に襲われている沖田さんが新ちゃんなのね?」
うふふ、と笑った姉上が、ズンズンと恐ろしい音を立てて僕達に…イヤ、土方さんに近付いてくる。
「あっ…姉上、土方さんは別に…」
「新ちゃんは黙ってて。だってあのコが言ってたもの。土方さんに襲われたって。」
笑顔は綺麗だけど怒ってるよ姉上!ものっ凄く怒ってるよ姉上!
でも、仕方ないよ土方さん。ヤっちゃったんだもの。
僕がそっと、でも思いっきり距離をとると、うろたえた土方さんが僕に近付いてくる。
「ちっ…違うぞ!俺はお前が…」
「あの、僕沖田さんの貞操護りたいんで。寄らないで下さい。」
きっぱりとお断りすると、土方さんが真っ白に燃え尽きた。
それは放置して皆の方に行くと、なんだか沖田さんの様子がおかしい。
いつものようなふてぶてしさが無いし…酷く落ち込んだ感じで…覇気が無い。
「沖田さん、どうしたんですか…?姉上の卵焼き食べたんですか…?」
そっと頬に触れると、ビクリと震えた沖田さんが僕の手を払いのける…え…?
「あら新ちゃんソレはどういう事?…今朝家に戻ったら、このコおかしかったのよ。居間で布団にくるまって小さくなって寝ていたの…食欲も無いみたいだし…だから私心配になって、取り敢えず土方さんを成敗しようと思ってやってきたのよ。」
何が『取り敢えず』なのかは分からないけど、確かに心配だ。
…食欲に関しては分かるけど…ね…
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