スパイス
子供の頃は、高校生なんて凄い大人なお姉さんだって思ってた。
長い髪を綺麗な色にして、くるくるのふわふわにして、良い匂いがして、素敵なお兄さんと恋人になって…なんて…
それなのに、自分が高校生になった今、私の髪は黒くてまっすぐで全然お姉さんじゃ無くて素敵な男の人なんかドコにも居なくて…
男の子なんて分かんないっ!
頑張って髪をふわふわに巻いてみたその日、沖田君は『眼鏡がワカメになってますぜィ?』って折角のふわふわを伸ばしてくれた。
土方先輩はいつも開いてる瞳孔を更に開いて嫌そうな顔をした。
お年玉でやっと買った良い匂いの香水も、山崎君は笑顔で『パチ恵ちゃんには似合わないね。』って言った。
沖田君はもっとはっきり『臭ェ』って言った。
その上、銀八先生には煙草の煙をかけられた。
巻き髪も、香水も、自分では素敵なお姉さんになれたかな、って思ったのに、褒めてくれたのは神楽ちゃんだけで、慰めてくれるのも神楽ちゃんだけで…
べっ…別に男の子達に褒めてもらえるなんて思って無いしっ!
そんな優しい男の子がウチの学校に居るなんて思ってなんかいなかったけどね!
…頑張ったんだから、ちょっとぐらいは可愛いって言って欲しかったな…
でももう良いもん!男の子なんか知らないんだから…
大親友の神楽ちゃんが居れば、私は毎日楽しいもん!
私、神楽ちゃんの事大好きだもん!
神楽ちゃんが居れば、良いんだもん!
憧れの高校生だったけど…そんなの私には無理だったんだ。
よーく探したら、見付かるのかな?
私にも優しくて、素敵な男の子…
「いってきまーす!」
今日も朝からお弁当作りに忙しくって、ちょっと遅くなった登校は大急ぎで。
神楽ちゃんいっぱい食べるからなぁ…毎日大変だよ。
でも、美味しいって食べてくれるから作り甲斐有るんだ!
ちょっと重い鞄を下げて学校に向かっていると、少し行った所でふわりと良い匂いが漂ってくる。
これ…私が好きで買った香水に似てる…でも、もっと良い香り…
「よーうパチ恵おはようさん。」
「…おはようございます、沖田君…」
「なんでィ、こんなイケメンと朝から逢えたんだぜ?喜べ眼鏡。」
そう言って、私のおさげをグイグイと引っ張ってくる。
高校生なのに…ホントに意地悪だ!
沖田君があんまりおさげを引っ張ってくるんで、何度か縛らないで学校に行った事も有るんだけど…
そんな日には沖田君は凄い早業で三つ編みを作って、そして引っ張るんだ…
「…沖田君いじめっ子だもん…神楽ちゃんとすぐに喧嘩するし…」
又いじめられるかもって恐いけど、でも神楽ちゃんが嫌な事はちゃんと言ってやれ、って言うし…
それに、私が泣きそうになると止めてくれるし頭を撫でてくれた事も有る。
優しい所も…有るんだよね…?
「それは仕方ないんでさァ。俺ァ、お前さんの泣き顔見てェし…ドSだからな。」
「…やっぱりいじめっ子です…なんで朝から会っちゃうの…?沖田君のおウチ近いの…?」
「それァ俺の台詞でさァ。お前ェなんかと逢ったら眼鏡菌うつらァ。」
舌を出してふいっと横を向いてしまうけど、先に歩きだしたりしない。先に行ってくれればいいのに…
その上私の鞄を引っ手繰って、
「行くぞ。」
とか言ってくる。
眼鏡菌うつるんじゃなかったの…?
「おはよー!あれ?パチ恵ちゃん又沖田君にいじめられてる?」
「おはよう山崎君…そんな事無い…と思います…」
途中から一緒になる山崎君はいつもにこにこと優しい顔で笑ってるけど、たまにその笑顔のまま恐い事を言うんでちょっと苦手だ。
神楽ちゃんが言うには、腹黒なストーカーだから気を付けろって。
「そうなんだ?何か有ったらチャイナさんに言うんだよ?」
「えぇっ?山崎君が助けてくれるんじゃないんですか?」
「えー?俺は無理無理。」
「やぁーまざきぃー?何吹き込んでんでィ!?」
「ほらね?こういう人なんだよ沖田君ってぎゃー!」
沖田君が山崎君を追いかけて走って行く…あ…私の鞄…
「お、志村妹…」
「パチ恵ちゃんおはよう。」
「おはようございます、土方先輩近藤先輩。」
瞳孔が開いてて強面の先輩とゴリラに良く似た先輩はお姉ちゃんの同級生で。
近藤先輩がお姉ちゃんの事が好きで、凄く頑張ってアタックしてるんで、2人とも私の事も知ってくれている。
あ、近藤先輩みたいな優しい男の子も居るのになぁ…お姉ちゃんの事好きな人だもん…
「土方テメーパチ恵に話しかけてんじゃねェよ!瞳孔がうつらァ!」
「うつるか!?んなモン!!」
今度は土方先輩が戻ってきた沖田君を追いかけて走って行く…
やっぱり土方先輩は恐いや…
「おー、あいつら朝から元気だなー。それじゃぁ俺達も行こうか?パチ恵ちゃん。」
「はい!」
にこにこと微笑まれると、ちょっと幸せな気分になる。
良い人なんだけどなぁ…お姉ちゃん面食いだからなぁ…
「パチ恵ー!おはようネー!!」
元気な足音と一緒に、私に温かい何かが抱き付いてくる。
あ!神楽ちゃん!
「おはよう神楽ちゃん!」
神楽ちゃんは海外からの留学生で、透き通るような白い肌で綺麗な青い目をしたピンクっぽい髪の、とっても可愛い女の子。
私もぎゅうっと抱き付くと、神楽ちゃんがほっぺたにちゅうをくれるんで私もちゅうを返す。
柔らかくて気持ちいい!これは海外での挨拶なんだって。ドキドキしちゃう…
「ははは、二人は仲良しだな。」
「違うネ!ワタシ達はらぶらぶアルヨ。ネ、パチ恵?」
「そうです、らぶらぶなんです!」
「そうなの!?」
何でか面白い顔で焦りまくる近藤先輩。
どうしたんだろ?
『らぶらぶ』って凄い仲良し、って意味なのに。
神楽ちゃんの国の言葉ではそういう意味なんだって。
「先輩、私達先行っちゃいますよ?」
一応近藤先輩に声を掛けて、神楽ちゃんと手を繋いで学校に向かう。
今日もお父さんの文句とお兄さんの悪口がどんどん出てくるけど、神楽ちゃんがその2人を好きなんだなぁ、って丸わかりだよ?
本当に可愛いな、神楽ちゃんは。
こんな素敵な女の子が友達になってくれるなんて、私は凄い幸せ者だ。
「おー、今日も大変だなーパチ恵ー」
気の抜けた声が聞こえたんで、私はさっとスカートを押さえた。
さりげなく近藤先輩と神楽ちゃんが私の前に立ってくれて、銀八先生のスクーターがダラダラと通り過ぎていく。
あぁ良かった!今日は2人が居てくれたから助かった…
「有難うございます、2人とも…」
「んだよ神楽ぁー邪魔すんなー」
「銀ちゃんのバーカ!ガキー!!」
銀八先生はいつもスクーターで私を追い越す時にスカートを捲っていくんだもん…先生なのに酷いよね!
何回か皆の前で綺麗に捲られて…
その時の皆のイヤそうな顔、忘れられないよ…沖田君なんか怒って顔真っ赤だったし…
そんなに嫌がられると、逆に傷付くよね…
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