銀魂忍法帖



此処はとある山の奥の奥。
忍びの隠里として有名なこの里で、僕らは毎日修行に励みつつものんびり暮らしているのです。

まぁ、忍びって言ったって戦争でも無ければそんなに活躍する場も無く、御屋形様率いる真選組という一部のエリート達が忙しく任務に着いているだけなんですがね。僕みたいな下忍じゃぁ家出した猫の捜索とか迷子の犬の捜索とか畑の手伝いとか家事手伝いとかしか任務なんて無いんですけどね…
でも本当なら、僕の所属するチームは本気出せばもっと上級任務につける筈なのに…
上司の銀さんは伝説の忍だし?
同僚の神楽ちゃんはエリート一家『夜兎』の末娘だし?
でも、僕だけ術もへたっぴだし大技も持ってないし…だから2人は上級任務は受けないんだと思う。
…まぁ、ぐうたらな2人の事だから、面倒だってのが理由の大半なんだろうけどね…

そんな感じで簡単な任務しか受けないから当然お給料も少なくて。
畳み掛けるように僕の姉上はくの一なのにくの一らしい仕事(色事を使う潜入とかね)は出来ないから、当然任務も少なくて…
だから僕ら姉弟2人、忍にも関わらず、バイトをしてなんとか細々と生活を繋いでいるのです。


そんなある日、真選組の幹部という人が僕に身入りの良いバイトの話を持ってきてくれたらしい。
姉上の話では、姉上がバイトしているキャバクラのお客さんだというその人は、ドコが良かったのか姉上に御執心で、どこぞの場で御屋形様に僕達姉弟の話をした所、御屋形様が僕に仕事を紹介してくれるのだという。

凄い…流石御屋形様!
僕も遠くから拝見した事しかない方だけれども、とても見目麗しくたおやかな方なんだ。
その上聡明で、的確な判断が何度仲間の命を救ったか分からないのだそうだ。
更に術の使い手で大技も多数持っており、武器の扱いにまで長けている。一騎当千どころか当万当億な方なのだ。

そんな方が、僕ら姉弟にまで気を配って下さるなんて…なんてお優しい…!
考える事も無く、僕はその方に了承の返事をした。
きっとこの里の忍びは皆そうなんだろうけど、僕も勿論御屋形様に憧れている。
その方に紹介して頂ける仕事だなんて、もうカブトムシを探す仕事だって全力でやるよ!!



そして、今日は初出勤の日。
僕は緊張でガチガチになっている。
だって、指定された場所は御屋形様のお屋敷で…僕の仕事は御屋形様の身の周りのお世話だなんて言うのだもの!!
ロボットダンスみたいな動きでお屋敷まで行くと、門の所に居た案内の人に笑いを堪えられてしまった…いっそ笑ってくれれば良いのに…

「えーと、志村新八君?僕は君の案内を任された特別上忍の山崎と言います。君の仕事は御屋形様の部屋の掃除と書類整理の手伝いです。」

…そんな少しの仕事で良いのかな…?
考えていた事が顔に出ていたらしく、山崎さんがははは、と笑う。

「初めはね、まだ君の事信用出来て無いから…確証が取れたら仕事は増えるんだけど、おかしな行動が見つかったら殺すから。あ、常に僕が行動を共にするからよろしくね、志村君。」

…凄い優しそうな笑顔なのに、今おっそろしい事サラッと言ったんだけど…
まぁ…そうだよね…いくら里所属の下忍だからって、それぐらい注意するよね…

「はい!宜しくお願いします!!」

グイッと手を引かれて握手するけど…きっと今ので指紋採取したんだろうな。
流石真選組だ…

「じゃぁ早速御屋形様にご挨拶に行くから遅れないでついて来てね。」

そう山崎さんに促されて鴬張りの廊下を延々と歩く。
やっぱり広いなぁ!流石御屋形様!!

「あ、道順は覚えないようにね?必ず僕が一緒に行動するから。変に覚えて一人で歩くと罠にかかるから。」

「はい。」

一応忍なんだから、道順覚えてたんだけど…
大人しく山崎さんの後についていくと、それまで静かだった屋敷にやっと人の気配が感じられる。
…あ!御屋形様だ!!

「もー!いつもは気配なんて感じさせないくせに志村君が来てくれたからだよ?」

山崎さんが呆れたように僕を見て笑う。
僕が下忍だから分かりやすいようにしてくれたのかなぁ…?やっぱり優しい方なんだ…

気配がする部屋の前で立ち止まり、山崎さんが声を掛けると中から綺麗な声が聞こえる…御屋形様って声まで綺麗なんだ…
いよいよ御屋形様にお逢い出来るんだ!
山崎さんが音も無く襖を開けると、僕の目にリラックスしているのか胡坐をかいた御屋形様が飛び込んできた。

うわぁ…こんなに近くでお顔を拝見出来るなんて夢みたいだ!
いつものキリリとした御屋形様もカッコ良いけど、こんな風にラフな御屋形様もカッコ良い…
僕がうっとりと見惚れていると、山崎さんが僕を促すんで慌てて室内に踏み込む。
と、そこには側近の近藤様と土方様もいらっしゃった。
里の3大上忍が揃ってるなんて…感動だなぁ…

「本日よりお世話になります下忍志村新八と申します。誠心誠意御屋形様のお世話をさせて頂きます!宜しくお願い致します。」

正座のまま深々と頭を下げてご挨拶すると、僕の頭に何かが当たる…痛い…飴玉…?

「忍の端くれなら、これっくらい避けなせェ。」

「あ…」

恐れ多くも頭を上げると、すぐ目の前に微笑んだ御屋形様が…うわぁぁぁっ!!

「総悟、からかうのは止めろ。」

土方様が呆れたように御屋形様におっしゃる。

「すまんね新八君、今日は総悟の機嫌が良いみたいだ。所で妙さんは俺の事何か言って無かったかい?優しいとか格好良いとか…」

嬉しそうにそう言う近藤様…『妙さん』って…まさか…

「あの…まさか近藤様がこの話を…?」

「ああ、そうだよ。そっかー、妙さんは照れ屋さんだからな!」

…確か、姉上に御執心とか言って無かったか…?
え…?まさか近藤様!?
信じられない玉の輿じゃん!姉上GO!!

「あっ…あの!お優しい方でいらっしゃると!頬を赤らめておりましたァァァ!」

「そう?やっぱり照れ屋さんだなー!あれかな?今流行りのツンデレかな?」

「多分そうです!姉上物凄い素直じゃ無いんで!!」

「そっかー!新八くんからも宜しく言っておいてくれなー」

「喜んで!」

僕が居酒屋みたいな事を言っているうちに、御屋形様のご機嫌が悪くなったのかジロリと睨まれる。
あ…調子に乗り過ぎた…騒がしかったよね…