「早速茶でも持ってきて下せェ、新八くん。あ、次この部屋に入る時は変化でメイドになっとけよ。」

「…メイド…ですか…?」

「おう、今日は男のままで許してやらァ。でも、明日からは女に変化してもらうから。」

…え…?一体何の理由で…?
僕がすっかり固まっていると、慌てた山崎さんが僕を引っ張って部屋を退出する。
そのままズルズル引っ張られて暫く行った所で山崎さんが大きく溜息を吐く。

「ホント御屋形様は何を考えてんだか…いきなり仕事内容変わっちゃったけどちゃんと働いてもらうよ?おかしな事したらその場で殺すからね?」

又笑顔のまま言われるけど、僕が御屋形様に何かするなんて有る訳無いのに!

「そんな事する訳無いじゃないですか!僕は御屋形様を尊敬しているんです!何か有ったらこの命を捧げる覚悟なんてとうに出来てるんですから!」

僕がつい声を荒げてしまうと、山崎さんが驚いたように目を開いて、すぐに嬉しそうに笑った。

「あぁ、うん、僕も仕事だからね。」

「…すみません…承知しています…」

取り乱してしまった事を反省しつつ山崎さんについていくと、台所に案内された。
御屋形様に飲んで頂くのだと、細心の注意を払って会心の一杯を淹れてお盆に乗せると山崎さんがお茶に何かの術をかける。

「うん、毒物反応は無し…と。それじゃ運んで…いや、その前に変化だね。何の理由が有るのか知らないけど、ご希望に添うように頑張って。はい、変化。」

山崎さんの掛け声に合わせて変化の術を発動させる。
メイドって…こんな感じだっけ…?
頭にレースのカチューシャみたいのを付けて、襟と手首にもレース…黒のロングワンピースとショートブーツ…は要らないか。ショートブーツを靴下に変えて立ち上がると、山崎さんが僕を見る。

「…多分こんな感じだと思うんですが…」

「俺も大丈夫だと思う。」

2人で嫌な物を見た感じで、少しだけ眉を潜めて御屋形様の部屋に戻る。

「お待たせしました、お茶で御座います。」

僕が御屋形様にお茶を運んで、山崎さんが近藤様と土方様にお茶を運ぶ。
今僕が出来る最高の所作で、出来るだけ丁寧にお茶をお出ししたのに御屋形様は更に不機嫌になってしまわれた…
僕、何か失礼が有ったんだろうか…

「違ェよ新八くん、スカートが長過ぎらァ。ほい、変化。」

ぱん、と御屋形様が手を打つ音を聞いてすぐに変化の技が発動する。
え!?僕何もして無い…!
一瞬で僕は、ひどく可愛らしい超ミニスカでニーハイのメイド服に着替えていた…え…?

「おー、旨ェ。可愛いメイドさんに淹れてもらう茶は格別だねィ。」

ひどく満足気に微笑んだ御屋形様が、ズズッとお茶をすする…え…?

「あっ…あのっ!コレは…!?」

「おー、俺のオリジナル『他装変化の術』でィ。他人に変化の術をかけるんでさァ。勿論、俺が解かねェ限りその術は解けねェから。明日からはその服参考に自分で変化するんですぜ?」

にっこりと微笑んでそんな事言われても…意図が分からない…
でも、凄い術を体感出来るなんて感動だ!!

「はい!凄い術ですね、御屋形様っ!」

「そうだろ?こんなスゲェ術なのに、近藤さんも土方さんも無駄な術だって言うんですぜ?な、山崎?」

御屋形様が名前を呼ぶ度に、近藤様がバニーガールに、土方様が放課後電磁波倶楽部に、山崎さんがホタテビキニに変化する。

「「総悟ォォォ!!!」」

…恐ろしい術だ…
本人だけじゃ無く、周りまでものっ凄いダメージを喰らうなんて…

「凄いです!僕もこんな術が使えたら…」

「志村君…正気…?」

ホタテ貝のみを纏った山崎さんが、可哀想なモノを見る目で僕を見る。
イヤ、可哀想なのは山崎さんだし…

「当たり前じゃないですか。こんな術初めて見ました!流石御屋形様!」

僕が興奮を隠しきれずにそう言うと、御屋形様は満足そうに頷いた。
でも、他の3人は遠くを見つめて大きな溜息を吐いていた。

「あー…総悟がなんでコイツを傍に置くのか、今理由が判った気がする…」

「そうですね…なんか、こんな子を疑ってるの馬鹿らしくなってきました…」

「良い友達になれそうだな、良かったな、総悟!」

近藤様がバシバシと御屋形様の背中を叩いて嬉しそうに笑うと、照れたように頬を染めた御屋形様がパチンと指を鳴らして僕らの術が解ける。
あ…変化しなくっちゃ!
僕がすぐに御屋形様指定のメイド服に変化すると、御屋形様はひどく満足そうな笑顔を浮かべられた。
うわぁ!カッコ良い!!

「飲み込みが早いヤツは好きだぜ、新八くん。」

「はぅわぃっ!宜しくお願いします!!」

そうしてその日から、僕は希望を胸に御屋形様の元で働くようになったのです!





そうして今、僕はあの時の感動が幻だったと実感している。

御屋形様は相変わらず素晴らしい人だ。
屋敷の外では。
でも一旦屋敷の中に入ると、とんでもなくダラけた人になるのだ。

書類仕事は殆ど土方様が終わらせてハンコを押すだけにも関わらず、貯めに貯めて近藤様にいさめられてやっと始めたり。
悪戯が大好きで、側近の皆さんにあの術でおかしな衣装を纏わせたり、変化の術できわどい衣装の美女になって皆さんを惑わせたり。
バズーカ召喚の術で土方様を攻撃して屋敷を壊したり。
好き嫌いが激しくて、食べられないモノをこっそり山崎さんに食べさせたりとまるで子供みたいだ。

その度に土方様に文句を言われるのは何故か僕で…
僕の憧れは、御屋形様の元に勤めだして1週間でブチ壊された。
そして、今僕は…

「「「「「もう!御屋形様!いい加減にして下さいっ!!又近藤様に怒られますよ?」」」」」

「「「「「僕知りませんからね?」」」」」

10人に増えている。
それも、色んな衣装の女の子になって…

「なんでィ新八くんそんな声揃えて言う事ねェじゃねェか。もっとそれぞれに個性を…」

「「「「「「「「「「やかましいわァァァ!!!」」」」」」」」」」

全員で取り囲んで文句を言うと、ぷうと膨れて下を向く。
…そんな姿が可愛く見える僕は、眼鏡変えた方が良いのかもしれない。
でも、そんな顔、側近の方にも見せて無くて…僕だけが見れる事が嬉しいなんて…頭までどうにかしているのかもしれない…

「そんな怒る事ねェじゃねェか…ちゃんと書類仕事も終わらせたんだぜ…?」

机の上を見ると、確かに書類にハンコが押してある…全部だ…

「あの…すみませんでした…お疲れさまでした…」

「じゃぁ、何人かで書類は土方さんに、あと茶と茶菓子持ってきてくれ。それからコレは近藤さんに届けてくれィ。姐さんにプレゼントやるの何が良い?って相談されてたんで丸付けときやした。新八くんも相談乗ってやって下せェ。あと、膝枕。」

「はい。」

僕1人を残して全員が仕事に向かう。
僕は御屋形様の隣に座り込むと、ドサリと頭が乗ってくる。
あ…ちょっと顔色悪い…疲れてるんだろうな…里の大事は全て御屋形様にかかっているのだもの…
そっと頭を撫でて髪を梳くと、すうすうと寝息が聞こえてくる。
もう1人に分身して、毛布を持ってきてもらって御屋形様に掛けると、もぞもぞと動いて幸せそうに笑った…!
その寝顔はとても可愛くて…胸が…ぎゅうっと締め付けられる…
何だろうこれは…疲れてるのかな…?

不覚にも僕は御屋形様を膝に乗せたまま一緒になって眠ってしまった。