2年後の花嫁
1週間のお休みの後、私がいつものように万事屋に出勤すると、ソコはめくるめく2年後の世界だった。
どうせ又銀さんと神楽ちゃんの悪ふざけだろうと、信じられなかった私は、スナックお登勢も恒道館道場も確認した。
だけどソコはやっぱり2年後で…え…?私だけ取り残されてる…?なんで…?
その上私は何故か、近藤さんが紹介してくれた就職先だと真選組に押し付けられた。
着せられた制服はサイズが合って無くてぶかぶかだし、その上暫くは真選組に泊まり込みで研修が有るという。
…私、どんだけ邪魔なの姉上…
あまりの出来事に、私が海まで一気に駆け抜けて泣いていると、ソコで又新たな衝撃に襲われて…
ううん、衝撃だけじゃ無く襲われたんだけど、ソレは忘れたい。うん。
それでもその状況があんまり馬鹿馬鹿しくて、私はなんとなくこの世界に慣れてしまった。
それなのに、まだまだ衝撃は私を襲って…
行く筈だった私が現れなかったんで探していたという真選組の方達が迎えに来てくれ…たのは良いんだけど、そのやってきた人達も2年後だと言って、恐ろしく変わっていた。
地味だった山崎さんが金髪の副長になっているし、鬼の副長だった土方さんが仏のパシリになって…爽やかに笑うのは止めてくんないかな…ちょっと不気味…
あまりの変貌ぶりに呆然としているうちに、私は真選組の屯所だというお城に連れて行かれて、そこで又更なる衝撃を受けた。
でも、その衝撃はそれまでとはちょっと違って…
多分、今迄の流れから行くと局長はアノ男だとは思っていたんだけど、そんな私の考えなんか全然甘かった。
そう、沖田さんは…
神聖真選組帝国の皇帝(カイザー)になっていたのだ…
あんまり馬鹿らしくて、私はその人をバカイザーと呼んで、実は私と同じく2年前のままだった土方さんと逃げようとしたり、皆変わっちゃっててもやっぱり万事屋に帰ろうと思ったりもしたのに、未だに私はこの神聖真選組帝国に留まっている。
それも、バカイザーのお付きとして…
だって、バカイザーは私の計画をことごとく潰していくんだもん!
逃げようとした時も、どこからともなく現れて土方さんをバズーカで真っ黒にしたし。
万事屋に帰りたいって言ったら、お前は坂田将軍の縁者だから人質にするのだ、とか言って外にも出してくれないし。
…その割にはかぶき町を攻撃する様子は見られないんだけど…銀さんも、私を取り戻しに来てくれる気配も無いし…
それ以来、バカイザーは一瞬たりとも私の傍を離れてくれない。
私をお付きとして、どこに行くにも連れていくようになった。
最悪なのは、トイレもお風呂も寝る時にまで片時も傍を離れてくれないし、離れさせてくれない事で…
恥ずかしいけれど、ソレはもう慣れるしかなかった。
幸いな事に何かされる事も無いし、彼は人質として以外は私には興味が無いらしい。
だから、私はバカイザーをクマのぬいぐるみと思い込む事にした。
そう思うとなんだか可愛らしく思えてきて…バカイザーが居ないと寂しく感じて…
なんだかんだ言ってもカッコいいし…その上、なんか私に甘えてきたりする所は可愛いし…
ちょっとだけ…好きかなぁ…とか思ったりも…でも…
「…あの…バカイザーさん…私、いつまでここに居なくちゃいけないんですか…?」
「ん?我の膝の上は嫌か?ならば腕の中に…」
「イヤ、そういうんじゃなくて…って、勿論膝の上とかも、ホント意味分かんないんですけどね?」
そう、バカイザーは座っている時は膝の上に、立っている時は肩か腰に手を回し、寝る時はきっちりと抱きこんで、本当に本気で私を傍に置いているのだ。
流石にちょっと好きかなぁ、とか思ってる程度じゃ耐えられる訳が無い。
勿論、必死で抵抗はしたのだけれど、そんな抵抗が受け入れられる訳も無く…かなり鬱陶しい。
そう思ってた筈なのに…
最近では私はソレが落ち着いてしまうようになってしまった…
今の私はどこにも居る場所が無くって…でも、バカイザーの隣だけは居ても良いんだって思うと嬉しくなってしまう。
それに、くっついていると暖かくて…なんだか良い匂いがして…すっかり安心してしまうのだ。
「全く、パチ恵は我儘だな。じゃぁどうしたいんだ?」
至近距離でニコリと微笑みかけられたら、心臓がドキドキと騒ぐ。
どうしたいって…それは…
「そろそろ家に帰りたいです…万事屋も…」
私が万事屋の名前を出すと、いきなりバカイザーの機嫌が悪くなる。
どうしたんだろ…?
「やはりオマエは坂田将軍の縁者なのだな…」
「エンジャ?まぁ従業員ですし…家族みたいなもんですけど…」
なんだか面と向かってそんな事言われると照れるな。
ごっこかもしれないけど、銀さんも神楽ちゃんも私にとっては家族なんだ、どんなに変わってたって…
急に会いたくなってきたよ。
「…そんな所にオマエを帰す訳無いだろう。我が…我がパチ恵を幸せにする。あんな男より我の方が数倍男前だろう?経済力も有るし、愛だって負けてはおらぬ!」
凄く恐い顔でそう言われるけど…なんだか話が変だよ…?
愛って…え…?部下として、とかかな…?銀さんと張り合ってるみたいだし…
「えっと…私は万事屋でちゃんと幸せですよ?確かにダメ上司ですけど、お父さんみたいなもんですから諦めてますし…」
「…おとうさん…?」
「はぁ、まぁ父親代わりというか…お兄さんって言わないと怒るんだろうけど、お父さんですよね。」
「…旦那じゃなくて…?」
旦那…って…もしかして旦那様の事っ!?
「おかしな事言うなバカイザー!銀さんが恋人とか旦那様になる訳無いじゃないですかっ!!」
「…そうか…」
凄く安心したように大きく溜息を吐いてるけど…
え…?なんで…?
「あの…バカイザーさん…?」
キリリと顔を引き締めて、ジッと見つめられると心臓が騒ぐ。
なっ…何言われるの…?
「パチ恵…じゃぁオマエは今誰かのモノでは無いのだな?我のモノにしても…良いか?」
そっと頬に手を当てられて、綺麗な顔が近付いてくる。
え…?まさか我のモノ、って…そういう意味…?
考える余裕なんて無いぐらい心臓の音が大きくなって、そおっと唇に当たった柔らかいモノが気持ち良くて、私はしっかりと目を閉じてしまった…
「抵抗はしないのだな。」
嬉しそうな綺麗な笑顔を向けられると顔が赤くなってしまう。
どうしよう、胸がキュンとする…
「そっ…そんな事したら牢屋に入れられそうだし…」
フイっと顔を背けると、クスリと笑い声が聞こえる。
「我がオマエにそんな事をした事があったか?」
「…無いですけど…」
優しい手が私の顔を元に戻すと、至近距離にひどく綺麗な笑顔…うわぁ…!
「パチ恵、我のモノになれ。それとも心に決めた男でも居るのか?」
…それは…居ないけど…
「そういう人が居たらどうなんですか…?そんなのバカイザーさんに関係無いじゃないですか…」
「大いに有る。そう言えばオマエは鈍いんだったな、遠回しに言っても判らん阿呆だった。」
「そっ…そんなのっ…!」
私が反論しようとすると、又唇に柔らかいモノが当たる。
今度はしっかりとキス…された…
どうしよう…なんでこんなに気持ち良くて…嬉しいんだろ…
「そんな顔するな、止まらなくなる。我はデキ婚する気は無いからな。」
「え…?」
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