花咲くこころ
僕の人生が変わったのは、桜の花咲く気持ちの良い春の日の事。
あの人達に逢わなかったら、僕はどんな1年を送っていたのだろう。
平凡で、たいくつで、でも心穏やかな日々?
それはそれで幸せだったのだろうけれど…でも僕はあの人達に逢えて良かった。
あの人に…逢えて良かった…
◆
姉さんの通う銀魂高校に僕も通えるようになった入学式の日、その日は僕の新しい門出を祝うかの如く、なんとも気持ちの良い青空が広がっていた。
その上ふわりふわりと舞う桜の花びらも僕を祝う花吹雪のようで、僕のテンションは最高に上がっていた。
こんな良い日には素敵な出会いがあったりして…運命の恋人とか!
そんな事を夢見ながら姉さんと一緒に家を出た僕は、少女マンガのようにパンをくわえて有り得ないスピードで走ってきた女の子とぶつかった。
普通ならそこで恋愛フラグなんか立っちゃうような可愛い女の子だったにも拘らず、僕とその女の子の間にはそんなモン立つ筈も無かった。
何故なら、あまりのスピードと当たりにぶっ飛ばされて、僕は綺麗な川の向こうに父さんと母さんを見てしまっていたから。
まるで交通事故に遭ったように痙攣する僕を見て悲鳴を上げた姉さん。
そこに偶然通りがかった姉さんのクラスメートが、僕をこの世に呼び戻してくれた。
…何故かマウストゥーマウスの人工呼吸で………僕のファーストキス………
いや、それはノーカンだ。
だって人工呼吸だもの。
だって男の人だもの。
とにかく助けてもらったんだからとお礼を言うと、無表情で僕を見ていたその先輩の後ろから、ゴリラに良く似た男の人が飛び出て来て姉さんに飛びかかる。
でも、その人はすぐに姉さんのパンチに沈められた。
僕が慌ててその人を助け起こすと、その隙に、僕にぶつかってきた女の子と助けてくれた先輩の睨み合いが始まって、マジ喧嘩が始まった。
えぇぇぇぇ!?一体2人に何が!?
僕がオロオロと2人を止めようとすると、機嫌が悪くなっていた姉さんの必殺の拳固が2人の頭に炸裂して喧嘩は止まった。
そうしてやっと学校に着いたと思ったのに、運命の悪戯はまだまだ僕を離してくれなかった。
流れで一緒に学校に行った女の子が僕と同じクラスで、なんでか懐かれた。
「ワタシ神楽っていうアル。よろしくナ、新八。」
「お手柔らかに…」
僕がハハハ…と乾いた笑いで答えていると、後ろから肩を叩かれる。
「新ちゃん!又一緒のクラスだね!」
後ろで笑ってたのは小学校からの友人で高屋君だった。
「あ、タカチン!良かったー心強…」
「タカチンコ?おいおいイジメかよ。ウチのクラスでそういうの止めてくんない?」
「ちげーよ!どんな耳してんだよアンタ!!」
すぐ後ろでおかしなボケをかまされたんで思いっきり突っ込んだら、ソレは担任の坂田先生で…僕はそれで目を付けられたらしく、その後事有る毎に雑用を頼まれるようになった。
まぁ、普段は頼りないけどなんだかんだで僕ら生徒の事を考えてくれている先生だから…少しだけ尊敬してるから良いんだけどさ…
その上、入学前から決めていた剣道部に入部届けを出しに行ったら、朝に嫌な方法で僕をこの世に引き戻してくれた先輩とゴリラに似た人が居た。
それも、その先輩は…
「沖田総悟でさァ。」
沖田総悟と言えば、この地区で剣道をやっていてその名前を聞いた事が無い人は居ない位有名な人で、僕の憧れの人だった。
試合の時しか見た事が無かったから…その時は面を着けているから顔は知らなかったけど、その剣技は美しくそして力強くて、僕もあんな剣を使えるようになりたいと想ってこの高校の剣道部にと決めていたんだ。
まさか朝のあの人がそうだったなんて…ちょっとがっかりだ。
「お、志村弟じゃねェか。体大丈夫かィ?」
僕に気付いた沖田先輩が声を掛けてくれる。
…あれ…?ちょっと良い人…?
「先輩って…あの、沖田さんだったんですね…」
「どの沖田さんか知らねェけど、尊敬しなせィ。」
「はい!僕沖田先輩みたいな剣士になりたいです!!」
「…おぅ…頑張んな…」
うっすらと頬を染めた沖田先輩は、そう言ってにっこりと笑って僕の頭を撫でてくれた。
その姿は嘘みたいに綺麗で…その瞬間僕の心臓に沖田先輩の綺麗な突きが決まってしまった。
剣士として憧れていた筈の沖田先輩を、違う目で見てしまうようになってしまった。
好きに…なってしまった…
「おー!新八君剣道部に入ってくれたのかい?これは頼もしい!でも、俺の指導は厳しいぞ?ちゃんとついてこいよ!未来の義弟よ!」
「誰が弟?」
「あー…近藤さんは志村に惚れてんでさァ…この学校の体育教師でウチの部の顧問でィ。」
「よろしくな、新八君!仲良くしような!!」
「…根は良い人なんですぜ…?」
運命の悪戯は、どこまでも僕を離してくれそうにない…
◆
そうして僕の大変な高校生活はどんどん加速して、騒がしい人達もどんどん人数を増やして今はもう冬。
ここまできたら不思議なもので、騒がしさにはすっかり慣れてちょっと楽しいかも、なんて思い始めてる。
そんな僕の1日は、早朝のお弁当作りから始まる。
普通なら母親が作ってくれるんだろうけど、あいにくウチに母親は居ない。
ならば姉さんが…と思うかもしれないが、美貌も知性も運動神経も兼ね備えた完璧な姉の唯一の弱点が料理で…自信を持って作ってくれる卵焼きは暗黒物質で…他の料理も何処をどうするのか分からないが、全て暗黒物質になるのだ。
だから僕が2人分のお弁当を作っていた。
そのお弁当を神楽ちゃんが気に入って3人分に増えた。
ていうか神楽ちゃんのお弁当は2人前だから実質4人分だけど…
更にそれを沖田先輩が見付けて4人分になった。
だから、僕の朝はとても早いのだ。
早起きした僕がお弁当を詰め終わった頃、姉さんが用意してくれたトーストとコーヒーと可哀想な卵の朝食も出来る。
それを2人で食べて家を出ると、門の所には神楽ちゃんと沖田先輩。
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