「おはようネ!新八、アネゴ!」
「おはよーごぜーやす…」
「おはよう神楽ちゃん、おはようございます沖田先輩。」
僕が挨拶すると、すぐに神楽ちゃんが手を差し出す。
…僕と言うよりお弁当を迎えに来てるんだよな、この娘…
2人にお弁当を渡すと、神楽ちゃんが姉さんの手を取ってさっさと歩きだす。
「毎日ご苦労さん。ほれ、俺達も行きやすぜ?」
「はっ…はい!」
沖田先輩がどういうつもりなのかは分からないけど、僕は毎朝のこの時間がとても楽しみだ。
部活でも逢えるけど、朝のこの時間は特別で…くだらない話をして一緒に歩くだけで楽しくて幸せで…
「あー、寒ィ…新八ィ、手ェ貸しなせェ。」
ズズッと鼻をすすった沖田先輩が、グイッと僕の手を握って沖田先輩の学ランのポケットに一緒に突っ込む。
なっ…!?
「暖けー、子供体温?」
「わっ…悪かったですね!先輩の手、冷た過ぎですよ。手袋したらどうですか?」
「んー?新八居るから要らねェ。」
そう言ってにこりと微笑みかけるのは止めてくんないかな!
そういう意味で好かれてるんじゃないかって思ってしまうから!!
どうせ買いに行くの面倒とかそんな理由なんだから…期待させないで欲しい…
僕が赤くなった顔を隠す為に下を向いたままズンズンと歩きだすと、後ろから『ぷぁー』と気の抜けるクラクションが鳴る。
「新八〜、後ろ乗ってけ〜」
「そんな危ねぇスクーター止めとけ。俺の車なら全員乗れるぞ?総悟以外。」
「生徒の特別扱いはいけませんよ、先生方。新八君、俺の自転車の後ろどうぞ?」
担任の銀八先生と、数学担当で剣道部コーチの土方先生と、売店の山崎さんが僕らに声を掛けてくる。
なんでか僕は気に入られたらしくって、この人達は結構良く話し掛けてくれる。
嬉しい事なんだけど、僕は沖田先輩と一緒に居たいし…それにちょっと怖いんだよな、この人達…
「あ、おはようございます。僕は歩いて行くんで…って先に行きますね。」
お断りしようと振り向くと、神楽ちゃんが銀八先生のスクーターを蹴り倒して、沖田先輩が土方先生の車にマヨネーズのイラストを描いてて、姉さんが山崎さんの自転車のハンドルをママチャリみたいに捻じ曲げてた…僕は関係ない僕は関係ない…
教室に着く頃には、神楽ちゃんと沖田先輩も僕に合流する。
…沖田先輩…?
「何やってんスか沖田先輩!アンタ教室こっちじゃ無いでしょうが!!」
「おー?アレ?何処でィ、ココ。」
「1年の教室ですよ!アンタは3年!!」
沖田先輩をぐるりと回して背中を押していると、雑誌を片手にタカチンが走って来た。
「新ちゃんおはよう!コレ見た?お通ちゃんの猫耳記事!!」
「うそっ!何ソレ!?」
慌ててタカチンの差し出す雑誌を見ると、ソコには白い猫耳カチューシャを付けたアイドルのお通ちゃんが、可愛らしく首を傾げて手を猫のポーズで上げていた。
うぉぉぉぉ!可愛いィィィィ!!
「何だコレェェェ!お通ちゃんは僕をどうするつもりなんだァァァ!?」
「だろ?だろ?新ちゃんは朝いつも忙しいだろうから俺コンビニで新ちゃんの分も買ってきたんだぜ?あげるよ!」
はい、と差し出される雑誌を受け取ると、タカチンがグッと親指を立てる。
「マジで!?」
「自分の分もちゃんと買ってるから大丈夫。」
ひらり、ともう1冊同じ雑誌を見せるタカチン。
おぉぉぉ!後光が差して見える…
「有難うタカチン!流石親友!!」
もう1回お通ちゃんを見ようとページを広げると、僕の両肩に何かが乗る。
「そんな可愛いアルか?ワタシの方が似合うネ。」
「オメェなんざどうでも良いや。新八がつけたらヤベェだろィ。」
「ドSたまには良い事言うアル。」
「新八ィ、猫耳付けなせェ。」
僕の肩に乗ったのは、神楽ちゃんと沖田先輩の顔だった…ってギャー!先輩の顔近いぃぃぃ!
跳ね上がる心臓と、赤くなる顔を誤魔化す為に、2人を振り落として距離を取る。
「アンタまだ居たんかいィィィ!!」
「新八が猫耳付けてくれたら帰りやす。」
「付けねーよ!」
「新八見たいヨー」
「付けません。」
「新ちゃん似合うよきっと!」
「…タカチンまで…」
そうこうしているうちにチャイムが鳴りだして…沖田先輩は普通に僕の隣の席に座った。
あぁぁぁ…隣の席の人困ってる…
「もう!これで良いですか!?」
仕方ないんで手で猫耳を作って頭に当てると、沖田先輩は満足したように笑って僕の頭を撫でた。
「かーわい。ウチの猫になりなせェ。」
「なりません!」
僕が怒ると、微笑んだまま爽やかに先輩が教室を出ていった。
うわ!王子様スマイル…カッコいい…
すぐにクラスの女子の悲鳴が響いて、教室に入ってきた銀八先生が何か誤解して嬉しそうだった。
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