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午前中の授業が終わってお昼休み。
お弁当を持った神楽ちゃんとタカチンが僕に駆け寄ってくる。
「新八ぃー!早く屋上行くネ!タコ様がワタシを待ってるネ!!」
「新ちゃんおかず交換しようね!」
「はいはい、行こうか。」
僕もお弁当を持って3人で屋上に向かう。
扉を開けると眩しい青空と、綺麗なピンクの三つ編み…
「おそいヨー新八ー!」
「又来てるネ馬鹿兄貴ー!!」
タカチンにお弁当を持たせて神楽ちゃんが神威さんに飛びかかる。
お昼休みに必ずやってくる神楽ちゃんのお兄さんは、この辺で一番ガラが悪いって言われてる夜兎工業高校の生徒だ。
結構遠いっていうのに、お目付役だっていう阿伏兎さんと一緒にやってきて僕らと一緒にお弁当を食べていく。
きっと神楽ちゃんが大好きなんだろうなぁ。なんだかんだ言って神楽ちゃんも嬉しそうだし。
「神威さん、喧嘩するならお弁当もう作りませんよ?」
「何言ってんの新八?こんなの兄妹のちょっとしたコミュニケーションだヨ?」
僕が怒るとやすやすと神楽ちゃんの頭を押さえつけて神威さんが笑う。
そしてそのまま一瞬で僕の前に来て、僕に腕を伸ばしてくる…わーっ!お弁当取られる…
「オマエら夜兎工か…?ウチの生徒に手ェ出してんじゃねェよ…」
ふわりと白衣が僕の前を横切って、独特な葉タバコの匂いが過ぎる。
と思ったら、咄嗟に反応して神威さんの前に出た阿伏兎さんごと2人が弾き飛ばされた。
あ…うわ…機嫌悪そう…
「高杉先生…」
「オイ、志村テメェ何他高生引き込んでんだ…」
振り向いた顔はやっぱり不機嫌絶好調で…
うわわわわ!僕じゃ無い!僕じゃないよォォォ!!
「可愛い後輩に難癖つけねェで下せェ。」
怒られる、と思った僕を引っ張って隠してくれたのは沖田先輩だった。
助かった!…けど先輩大丈夫なのかな…?
「あぁ?沖田テメェ何邪魔して…」
「高杉〜、お前こんな所に居て良いの?河上先生探してたよ〜?」
「おぉ、高杉ではないか。お前も昼食か?どうだ、俺達と一緒に食わんか?」
「おー、高杉!なんじゃ?ワシらと一緒にランチしたいがか?」
「…チッ…煩ェよ…」
銀八先生と桂先生と坂本先生も屋上にやってきた。
あの4人、大学の同期だったって言ってたっけ…高杉先生は他の3人は苦手だって言ってたけど…ちょっと分かる気がする…
先生方がワイワイやってる間に、沖田先輩が僕の手を引いて日当たりの良い場所に陣取ってお弁当を開き始めるので、僕も隣に座ってお弁当を開く。
すると、姉さんと九兵衛さんも一緒に来ていたのか僕の隣に腰を下ろす。
すぐに神楽ちゃん達も、タカチンも、先生方も、いつのまにか山崎さんもやってきて皆でおかず交換なんかやっちゃったりとかして楽しいお弁当の時間が始まる。
「あー、んめェ。新八の弁当は最高だねィ。入ってんの俺の好物ばっかだし。」
「べっ…別にそんなの知らないですし!」
本当は沖田先輩が好きなおかずを優先的に入れてるんだけど…そんな事絶対言えないし!
絶対言わないし!
「ちょっと沖田君、新ちゃんにおかしな言いがかりつけないでくれる?殺すわよ?」
いつの間にか背後に忍び寄った姉さんが、にっこり微笑んだまま沖田先輩の耳を掴んで持ち上げる。
うわぁ…痛いんだアレ…
「痛ェよ妙!ゴリラ女!!」
「誰がゴリラじゃぁ!!」
沖田先輩がお弁当を持ってひょいひょいと逃げていくけど、僕はエヴァみたいになって追いかける姉さんを止める気になれない。
『妙』って呼んでるんだ…姉さんの事…
毎朝なんで沖田先輩が家に来てるのか不思議だったけど…もしかしたら姉さんを迎えに来てたのかもしれない…
僕に優しいのも、姉さんの弟だから…?
そう思ってしまうと、落ち込む気持ちが止められない。
僕が半分くらい残してしまったお弁当を、先生達が勿体無いと食べてくれた。
やっぱりそういう世代なのかなぁ…まぁ、美味しく食べてくれるんなら有難いんだけど…
◆
放課後、いつものように僕は銀八先生に呼び出された。
どうせ『部屋掃除手伝え〜』とかくだらない用事なんだろうけど行かない訳にはいかない。
だって行かないと後々煩いからね…仕方なく僕は国語科準備室に向かった。
するとソコには珍しく月詠先生が居て…ソファの上で銀八先生に組み敷かれていた。
なっ…なんと!
「しっ…失礼しましたァァァ!!」
「えっ!?ちょ…新八!?」
「ギャァァァ!」
僕が扉を閉めてすぐに、何か大きなモノが扉にぶつかる音がしたけどそんなのかまってられない!
あー、ビックリした、あの2人そうだったのか!
でも、学校内であんな事、バレたらヤバイんじゃないかな…
…コレを弱みにして、雑用押し付けられるの回避出来ないかな…?
僕が悪い顔で笑いながら部活に行くと、更衣室には沖田先輩がいた。
「あ…しゃーッス…」
「おう。」
普段は僕が早いからココで逢う事なんかなかったけど、今日は遅かったから…
いつもなら、ラッキーって喜ぶ所だけど…今日は素直に喜べない。
それに…沖田先輩の前で着替えると思うと凄く恥ずかしい…
俯いてこっそり着替えてると、着替え終わった沖田先輩が僕の方にやってくる。
「おー…何でそんな隅っこで着替えてんでィ。別に貧粗な体見せられたって笑わねェよ?」
くすりと笑う顔は優しい…ドS王子と呼ばれてる先輩だけど、僕にはそんな事全然しないの知ってる。
それもやっぱり姉さんの為…なのかな…
「…そんなんじゃ無いです…」
「んじゃ、俺に襲われるとでも思ってんのかィ?」
「そんな事…先輩が僕にする訳無いじゃないですか!僕は姉さんじゃないんですから!!」
「はぁ?俺が妙にそんな事する訳無ェだろ。」
…やっぱり『妙』って…
それは、姉さんが特別だって僕に言ってるのかよ…?
「姉さんは大切だからですか…?特別な存在だからですか!?」
「何言ってんでィ、新八ィ。お前さん何か変な誤解してんじゃねェのか?」
誤解…?
沖田先輩が姉さんに好意を持ってるって事…?
僕は…
僕は…っ…!
「じゃぁ姉さんの事『妙』なんて呼ばないで下さい!僕がどんな気持ちで聞いてるかなんてアンタ知らないだろ!」
「新八、何を…」
「僕は男だし、姉さんが美人なのは仕方ないよ!でも!僕はアンタが…沖田先輩が好きだから!先輩が姉さんの事名前で呼ぶのを聞いてたら2人は付き合ってるんじゃないかって…アンタが姉さんの事を好きなんじゃないかって想って辛くて…」
そこまで言って我に帰る。
…アレ…?
今僕先輩に告白…したんじゃ…
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