君だけの俺達私達



かぶき町の存続を賭けて選ばれしイケメンでもてなしたマダム夜神の騒動は、大騒ぎの後飲み友が1人増えて、終了した。
僕はあんまり役に立った気はしないけど、それでも色々大変だった。

そんな、僕らに、マダムに、戻って来た高天原のホスト達で始まった3次会は、今最高に盛り上がっている。
女性達は、イケメンホスト達にもてなされて最高に楽しそうだ。
男性達は、美味しいお酒に舌づつみを打ってこちらも楽しそうだ。

楽しそうだけど…何で全員僕を囲んでんだよ!?
こんな広い店なのに、僕だけなんか狭いよ!!

それでも狂四郎さんが采配してくれたおかげで、なんとか皆近くのテーブルに散ってくれて僕も少しだけ余裕が出来た。
と、言ってもなんでか神楽ちゃんと沖田さんにぎゅうぎゅうに挟まれて狭いんだけどね…

「新八ィ、飲んでやすかィ?」

僕の隣に陣取って、さっきからグイグイと大人しくお酒を飲んでいた沖田さんが、突然僕に話を振って来る。
最近はけっこう喋ったりしてたから隣に来てくれた時は色々話が出来ると嬉しかったのに、全然喋って無かったから何か嬉しいな。

「イエ沖田さん、僕ら未成年ですよね?何当たり前みたいな顔でお酒呑んでるんですか。」

「なんでィ、俺の酒が呑めねェってのかよ…あぁ、新八くんは子供だからねィ…んじゃ仕方無ェ、特別に俺のミルク飲ませてやらァ。」

「何が仕方ないんだ!何飲ませるつもりだアンタは!?」

「お子ちゃまな新八くん、一緒に大人の階段上りやしょうぜ…」

綺麗な顔をピンクに染めた沖田さんが、僕の隣で立ち上がってベルトに手をかける…
ちょ…何するつもりだこの人!?
完璧に酔っ払ってんじゃねーか!!
綺麗な笑顔でグングン近づいてくるけど…グイグイと股間を僕の顔に近付けてくるのは本当にやめてくれ!!

「なっ!ちょ!来んな!!」

僕がなんとか身を捩って逃げていると、誰かがヒョイっと沖田さんの襟首を掴んで避けてくれた。
…土方さん!あぁぁ有難い助かった!後光が差して見えるよ!!

「土方さん有難うご…」

「総悟ォォォ!テメェ俺の新八に何やってんだ!!新八は俺のマヨを飲むんだよ!!」

そう叫んだ土方さんも、ベルトに手をかけつつ僕の顔面に股間を押し付けようとしてくるゥゥゥ!?
何だコイツら!?
馬鹿かコイツラ!!
思いっきり目が座ってるよ!酔っ払いかよコイツら!!
僕に何の恨みが有るんだよ!?

「テメェも同じじゃねーかァァァ!!」

大人の男の人に失礼かと思ったんだけど、もうそんな事言ってらんない。
僕は、おつまみに付けるように置いてあったパックのマヨネーズを掴んで、遠くに放り投げた。
と、思った通り土方さんはマヨネーズを追って走って行った。


駄目だココ、酔っ払いの巣窟だ。
普段なら助けてくれる筈の姉上や銀さんも全然助けに来てくれないし。
皆酔っ払っておかしな事になってきてるし。
危ないから、もう神楽ちゃんも連れて、子供の僕らは帰ろう。

一応姉上には帰る事を伝えてから帰ろうと辺りを見回すと、女性達が皆で銀さんを囲んではっちゃけていた…
わぁ…頑張れ銀さん…
ふと目が合った銀さんが僕に助けを求めてくるけど、そんなの僕程度になんとか出来る訳無いじゃん。無理無理。
薄く笑って目を逸らすと、銀さんの断末魔の悲鳴が聞こえてきた…僕知ーらない。

「神楽ちゃん、僕らはもう帰ろうよ。ココ危ないよ…」

僕が隣に座っている筈の神楽ちゃんに声を掛けると、山盛りのフルーツを口いっぱいに頬張ってブンブンと首を横に振る。
…リス…?

「新八何言ってるネ、ココからが大人の時間アルヨ。ドSにばっかり酌してズルイアル!私にもフルーツ食べさせるネ!!」

「イヤ、酌して無いし。」

「ワタシにもサービスするネ!ワタシはPACHIを指名するアル!!」

ビシッと僕を指差してフルーツを差し出すけど…
まぁ、食べさせたら気が済むかな…?

「ご指名有難う御座いまぁす、PACHIでぇーす。」

ホストっぽく言って、可愛い楊枝にフルーツを指して神楽ちゃんの前に差し出すと…あれ…?神楽ちゃん…?

「ひんはひうまいれさァ。」

「テメードS!ソレはワタシのフルーツアル!!」

僕が差し出したフルーツは、神楽ちゃんの頭を押しのけた沖田さんの口に納まっていた。
もぐもぐと嬉しそうに口を動かす姿は可愛いけど!
アンタ神楽ちゃんより全然大人なんだからな!?

「何してんですかアンタ!フルーツ食べたいんなら自分で頼んで下さいよ!年下の女の子から奪うなんて最低だよ!!」

「阿呆か新八ィ、オメェから喰わせてもらわなきゃ意味無ェだろィ。」

キリッ、とキメ顔で僕に言うけど何が言いたいんだ?この人…
イケメンだとでも言えば良いのか?

「その意味が分かりません、沖田さん。」

「OKITAじゃねーよ!SOUGOだろィ!」

「あー、はいはいSOUGOさん。」

僕が諦めてそう呼ぶと、満足そうに微笑んでフルーツ盛りから1つ楊枝で取って僕の前に差し出してくる。
僕に食べさせてくれるのかな…?酔っ払いのする事は訳が分かんないよ…

「俺がこんな事するのは新八にだけなんですぜ?オメェは…特別だから…」

神楽ちゃんを押しのけつつ、キラキラとなんか輝きながら、沖田さんが近付いてくる。
さっきのホストのくだりか?気に入ったのか?そのキャラ。
かんっぺきに酔っ払ってんな、この人…

「あーん…」

反抗すると面倒くさそうなんで、差し出されたフルーツを食べると沖田さんは又満足そうに微笑んだ。
…笑ってるとカッコいいんだけどなぁ…
そしてドスンとソファに座った沖田さんは、僕と目を合わせたままパシパシと自分の太股を叩いた。

…まさか…

「ホレ新八くん座りなせェ。お前さんだけの特別シートでさァ。」

…その上に座れと…?

「酔っ払いがいい加減にしろォォォ!」

「ふざけんなヨドS−!PACHIを先に指名したのはワタシアル!!ワタシがPACHIの特別シートに座るネ!!」

「ガキはクソして寝なァ!」

やっと解放された神楽ちゃんが沖田さんをぶっ飛ばして、2人の喧嘩が始まる…
僕知ーらなぁーい…

「楽しんでますか?新八君?」

僕が2人から目を逸らしてそのテーブルを離れると、狂四郎さんが近付いてくる。
あ…この人はまともだよ!

「あ、はい!でも良いんですか?僕ら結局なんにも出来てないのに…」

「イエイエ、お世話になりました。それよりどうです?向こうで僕と一緒に…」

「イヤーン!狂四郎様ぁー!私サ・ミ・シ・イ!」

何か言いかけていた狂四郎さんが、西郷さんに連れ去られる。
わぁ…頑張れ!