友達だったら良かったのに



僕、志村新八には今、大きな悩みがある。
それは、子供の頃から地味だと言われ続けている事よりももっと繊細な事で、眼鏡が本体だと言われている事よりもずっと不本意なものなんだ。
だってそれは、恋の悩みなんだから。
それも、凄く綺麗なヒト2人から同時に求愛されているっていう、ある意味贅沢なモノなんだ。


そりゃぁ僕だって男ですから?
ある日突然モテモテになって取り合いされるようになったらどうしよう!なんて妄想した事は有りますよ?
モテない僕だって健康な思春期の男子なんだから、そりゃぁそれぐらいあるでしょう?
男なら皆それぐらいあるよね!?

…でも…

それは可愛い女の子や綺麗な女の子限定でしょ!?
いくら綺麗だからって、男は無いよね!男は!!


…そう…僕は今、何をどう間違えたのか、美男2人に好かれて言い寄られているんだ…もちろん恋愛的な意味で…





「おはよーごぜーやす新八くん!今日も可愛いねィ、俺ァ変わらずメロメロですぜ。」

今日も朝から僕の肩に手を回してくる美男その1・沖田総悟君は同じ学校で、その上同じクラスだ。
栗色のサラサラの髪がキラキラ輝いてる、見た目は可愛い系のイケメンで中身はサディスティック星の王子様だ。

「おはよー沖田君。もういい加減諦めてくれないかな…僕は男なんですってば!」

「俺ァそんな事ぜんっぜん気にしやせんけど?」

「僕は気にしますっ!僕が好きなのは女の子なんですってば!!」

「でも俺ァ新八くんが好きだし。」

「あぁぁぁぁぁー!!もぉぉぉー!!!」

いつもは無表情なくせに、こんな事言う時だけ可愛い顔したりキメ顔すんのはズルイだろォォォ!
中身がどんなだろうと、おかしな事言ってようと、綺麗な顔でやられるとなんかちょっとドキッとするだろうがァァァ!!

おかしな気分になるのを振り切って、僕が乱暴に椅子を引いて自分の席に座ると、沖田君も大人しく自分の席に座る。
…後ろの席だけど…あぁもう!ずっと背中つついてくるよ!!
でも相手にするとつけあがるからな!無視だ無視!!
…なんで僕はこの人にこんなに懐かれたんだろう…?
特に何かした覚え無いんだけどなぁ…

あんまりボケるから軽く突っ込みをいれたり、友達の神楽ちゃんと殴り合いの喧嘩ばっかりしてるから間に入って止めたり、お昼にはいっつもパンしか食べてないからたまーにおかずをあげたりぐらいだよ?こんな事普通だよね?

初めのうちはさぁ、沖田君に話し掛けられるの、嬉しかったんだ。
今迄居なかったタイプの友達が出来たと思って。
でも…そのうち何か違うなって………

「うひゃぁっ!?」

背中にスルリと何かが走って、下半身からぞわりとおかしな気持ちが上がってくる!!ヤバイヤバイヤバイ!!!

「いーい声。新八くんの後姿堪んねェ…毎日バックで犯してる気分でさァ。」

「おかしな妄想に僕を登場させんな変態ィィィ!!」

勢い良く後ろを振り返って睨みつけると、沖田君はその顔をニヤニヤといやらしい笑顔に変えて僕を見てた。
なっ…なんか身の危険を感じる…!

「変態なんて酷ェよ新八くん。俺ァ自分の気持ちを正直に伝えてるだけでさァ。」

「どんな気持ちだァァァ!僕は男だァァァ!!」

ぞわぞわする気持ちに逆らうように僕が声を荒げると、きゅうに真面目な顔になった沖田君が顔を近付けてくる!!

「そんなん知ってらァ。それでも俺ァ新八くんが良い。だって…好きだから…」

急に色っぽい表情すんな馬鹿ァァァ!
そんな表情でジッと見つめられたら心臓がおかしくなる!!
綺麗ってのは凄いなオイ!性別の壁乗り越えてくるのかよ畜生!!

「そんなの…」

「俺ァ本気ですぜ。ちゅーだってせっくすだって、新八くんとなら気絶するまで出来まさァ!」

ドヤ顔でとんでもない事言い放ったァァァ!!
ココ教室ゥゥゥ!皆聞いてるゥゥゥ!!

「僕は無理です!!!」

僕が叫んだ瞬間、僕と沖田君の頭に本気の拳骨が落ちる。痛ァァァ!

「おまえら毎朝毎朝いい加減にしろよ〜?発情すんならどっか他でヤれ。」

それは僕らの担任の銀八先生で…HR始まってたのか…
あるイミ助かったけど、僕は悪くないと思うんだ…





沖田君に後ろから邪魔されつつも、なんとか午前中の授業が終わってお昼休み。
ホッと一息ついて、お弁当を取り出して立ち上がろうとすると、僕の肩にズシリと重みが乗っかってくる…のと一緒に耳には生温かい風が…

「うひゃぁァァァ!!!」

「新八ー愛妻弁当食べに来たヨー!」

「テメェ!帰れエセチャイナ!!」

ずっしりと重いソレを沖田君が威嚇してどかしてくれたんで速攻振り返ると、やっぱりソレは…いや、その人は美男その2・神威さんで…
ピンク色の長い髪を三つ編みにまとめたその人は、可愛い系のイケメンのクセにここいらで一番ガラの悪い夜兎工業高校の頭で、友達の神楽ちゃんのお兄さんで。
他校生だっていうのに、毎日お昼には銀魂高校までやって来て一緒にお弁当を食べていくのだ。

この人にも僕、何もして無いと思うんだけどなぁ…
そりゃぁ、神楽ちゃんとは友達だからお兄さんである神威さんと顔を合わせた事はあったけどさ…その時…神楽ちゃんに晩ご飯作ってあげた時、ついでだから一緒に神威さんにも作ったけど…随分と僕の料理を気に入ってくれてたみたいだったけど…そんなのも普通だよね?

「アンタの分のお弁当なんかねーよ!」

「そうでィ、コレは俺の愛妻弁当でさァ。」

「アンタのでもないよ!!」

「「えー?」」

2人して声を揃えて頬を膨らませても可愛くなんかないんだからな!
チクショー!イケメンは得だよな!!

「コレは僕のお弁当です!大体アンタらモテるんだからお弁当作ってくれる女子の10人や20人いるでしょう?」

僕が怒鳴るとスッと沖田君が前に出てきて僕の手を握る。
ちょっ!!
慌てて振りほどこうとしても力強いよこの人!!

「俺ァ新八くんの手作りが良い。旨ェもん。」

キリッと引き締めた沖田君の顔がどんどん近付いてくるゥゥゥ!?
なっ…!ドッ…ドキドキなんかして無いからな!!!

僕が顔を背けようとすると、横から凄い良い笑顔の神威さんが現れて沖田君を押しのける。
助かった…のか…?

「俺、新八のゴハン好きなんだよネ。モチロン新八の事も好きだけど。」

そのまま近付いてきて、僕のほっぺたにチュッと音を立ててキスしていく…
って何しやがんだァァァ!ドキドキなんかして無いからな!!

「ギャァァァ!!」

僕が心臓のドキドキを紛らわせるように滅茶苦茶に手を振り回すと、神威さんがふわりと避ける。
当たるなんて思ってないけどなんか悔しい。
いや、でもこれで少し距離がとれたぞ!
僕も飛びのいて神威さんから更に距離を取ると、その隙間に沖田君が入って神威さんに顔を近付ける…いわゆるメンチをきりあう状態になった。

「何訳解んない事言ってんでィエセチャイナ、オメェ耳悪いんだろ。新八くんの悲鳴聞こえてないんで?嫌われてるってそろそろ自覚しろィ。」

「え?あぁ、ドーテー君じゃワカんないか。新八のアレは、嬉しいヒメイだヨ。真っ赤になって可愛いよネー」

神威さんがなんかとんでもない事言ってんだけど!
でも、ここで僕が突っ込みなんかいれたら巻き込まれるからね。
我慢だ…我慢だ僕。

「ハッ。妄想するしかねェとは可哀想ですねィ…新八くんのイイ時の声はそんな色気の無ェモンじゃありやせんぜ?もっと腰にクるエロい…おっとこれ以上は言えねェや。勿論そんな声、俺にしか聞かせてくれやせんけどね。」

オメェにも聞かせた事無いわそんな声ェェェ!ってかそんな声出した事無いわ!!いい加減にしろよこのドS王子!!!
更にとんでもない事になってるけどここで突っ込んだら負けだ僕…我慢だ…が…ま…ん…

「ムリしなくて良いヨ、ドーテー君。妄想してんのは君だよネ。」

「どうせアンタにとっては摘み食いだろィ?ヤリチン野郎。さっさと新八くんは諦めて手ェ引いて下せェ。」

表面上はニコニコ笑い合って和やかな2人の目から何か出てる気がするよ!
睨み合ってる方がまだ怖くない!!
僕がそーっと2人の側を離れようと動き出すと、2本の手が僕の両手を掴む。

「痛っ…本気で痛いィィィ!両腕千切れるゥゥゥ!!」

涙目で僕が2人を見上げても、まだニコニコ笑い合ってるゥゥゥ!!怖いィィィ!!!

「新八君が痛がってんじゃねェか、離せよ馬鹿力。」

「新八がイヤがってるじゃない。君が離せば?」

そう言ってさり気なく隣に来た神威さんがスルリと僕の腰に手を回す…ジェントルー…って!!
僕は慌てて逃げるけど、手を掴まれてるから距離が取れない!

僕がジタバタしてる間に、笑ったままの沖田君の額に血管が浮いた。
その顔のまま、僕の腰に回された神威さんの手を叩き落とすと、今度は神威さんの額にも血管が浮かぶ。
遂にはニコニコ笑い合ったまま、2人が殴り合いのケンカを始める。
まぁ殴り合いって言っても、2人ともお互いを完璧に避けてるんで蹴りもパンチも一切当たらないっていう凄いモノなんだけど。

それが始まってしまったら、僕は地味に磨きをかけて、そーっとその場を離れる事にしている。
イヤ、だって僕がそんなの止められる訳無いもの。
それでも1回だけ止めようとした事はあったんだけどね?
ものっすごく不本意だけど僕が原因だし。放っておくのもどうだろうって思ったんだ。
だから、そうとう意を決して危険を覚悟で2人の間に入って止めたんだ。
…その時は、もう本当に死んだと思ったね。
ココは素人が入っちゃいけない場所なんだって思い知ったね。
だって本当の本当にギリギリで止まった両側のパンチがおこした風圧だけで、僕の両頬は綺麗に切れて…その上2人の殺気で僕はすっかり腰を抜かしてしまったんだもの…情けないとは思うけど、チビらなかったのを褒めて欲しいぐらいにソレは凄かったんだから…
更に動けなくなった僕を、ニヤリと笑った2人がもっともらしい理由を付けて保健室に連れ込みやがって…危うく貞操の危機を迎えそうになったんだから…

だから、僕はもう知らない。
2人の本気のケンカが始まったらラッキーなんだ。
その隙に逃げる事が出来るんだから。
それに、なんか楽しそうなんだもん…沖田君と神威さん…


「神楽ちゃん、山崎君、食堂に行こうか。」

「おう、バカ兄貴は放っとくと良いネ。」

「そうだね。今のうちにゆっくりお弁当食べよう。」

初めのうちは僕を助けてくれていた神楽ちゃんと山崎君も、今じゃすっかり慣れてしまって少し離れた所で2人のケンカが始まるまで生温かく見守ってくれている。
どうせいつもこうなるんだから、関わり合うだけ無駄だもんね。


僕らがお弁当を持って食堂に移動しようと歩きだす頃、馬鹿2人のケンカを見付けた風紀委員の近藤君と土方君がケンカを止めに入ってぶっ飛ばされた。
…あの2人でも止められないのか…凄いな変態コンビ…

「ワタシでも止められなかったヨ、アイツラじゃ無理アル。」

「ダンナ呼んであるからそのうち止まるよ。」

「あぁ、銀八先生ってこんな時ぐらいしか働かないしね。」

結構酷い事を言いつつ僕らは仲良く食堂に移動して、つかの間の平和にゆっくりとおいしくお弁当をいただいたのでした。