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なんとか遅刻しないように銀魂高校に着いた僕を、不機嫌な神楽ちゃんが迎えてくれた。
「パチ恵何やってたネ!遅いヨ!!」
「ちょ、神楽ちゃん!大変だったんだからね!!変態に絡まれて散々だったんだよ!?」
僕がさっき会った男の話をすると、神楽ちゃんの顔が曇る。
なんだろ…?
「…パッチーナの時に口説いてくるなんてソイツ危ないネ…気を付けるヨ。」
「うん。もう会う事も無いだろうけど、気を付けるよ。」
事前に言われていた通りに2人で職員室に行くと、担任だという強面でサングラスの松平先生が歓迎してくれた。
…実は良い人なのかな…?見た目は恐いけど…
その松平先生に連れられて教室に向かう。
神楽ちゃんと一緒のクラスになったのは、理事長さんの手まわしなのかな?
…銀さんとどんな関係なんだろ…助かるなぁ…
少し緊張しつつ、照れながらクラスの皆に紹介されるお決まりの時間を楽しんでいると、教室の真ん中あたりから聞き覚えのある声が聞こえた。
え…?この声は………
「おー、朝の痴女じゃねェか。やっぱオメェは俺の運命の女なんでィ。大人しくヤられやがれ。」
…そこには朝の変態ゴミクズ野郎が居た…そういえば、銀魂高校の制服を着てたっけ………
「お〜?なんだ総悟のコレかぁ〜?んじゃ志村は総悟の隣に座れ〜い。おじさん気がきいちゃうからな〜もう一人は〜…近藤の隣空いてんな〜、世話してやれ〜い。」
…その上、姉さんのストーカーゴリラまで居た…なんてクラスだ…このクラスにストーカー犯もいるんじゃね…?
松平先生が出ていってすぐに、隣にされた変態が僕に絡んでくる。
どうしよう…嫌だァァァ!神楽ちゃん助けて…
そっと神楽ちゃんの方を見ると、ヤツをジロリと見ていた。
『たっ…助けて!』
僕が目で訴えたのに、諦めたような目をした神楽ちゃんはストーカーゴリラと話をしだして目も合わせてくれなくなった…薄情者ォォォ!
「なーなーパチ恵ーやっぱ運命なんだって。大人しく俺のモンになれよーちゃんとヒニンしてやっからー」
「なっ…とっ…とんでもない事言うんじゃねェェェ!!」
教室の真ん中で何言い出すんだコイツ!?
皆見てるよ!!
そりゃそうだよね、こんな原始人みたいなナンパ!!
変にイケメンなのが更にドン引きしますよねー!?
もうイヤだァァァ!!!
ちょっと泣きそうになりながらも睨みつけると、ヤツが嫌そうな顔をする。
「なんでィ…そのカオ止めなせェ、ここで襲っちまうぜ…?」
そう言いつつ、色っぽい顔をした変態が、いつの間にか僕の肩を抱いて、無駄なイケメン面を近付けてきたァァァ!!
「総悟ォォォ!オメェ公衆の面前で何とんでもない事してやがるゥゥゥ!?」
ゴツン、と音がして変態が目の前から消えた。
その代わりに、瞳孔が開ききった黒髪のイケメンが不機嫌そうに僕を睨んで立っていた…この人が変態を止めてくれたんだ…助かったァァァ!
「あのっ!有難うございます!!」
慌てて僕が立ち上がって頭を下げると、瞳孔イケメンが不機嫌なまま立ち去っていった。
うん、この姿の時は普通男の人はこういう反応だよね!なんなんだろう、この男は…
「いってェ…何するんでィ!人の恋路を邪魔したんだから馬に蹴られて死ね土方!!格好悪いトコ見せちまったな、パチ恵…」
シュン、と僕の机に顎を乗せて上目遣いで見上げてくる姿は可愛い…あ、頭にタンコブ出来てる…
思わず手が伸びて、そっと頭を撫でてから我に帰る。
なっ…何やってんの僕ゥゥゥ!?
「ぼっ…僕はアンタの名前すら知らないんですよ!?好きにだってなる訳ないんですから諦めて下さい!!」
はっきりとそう言ってやると、何か考えた変態が僕の目線に合わせて体勢を変える。
「銀魂高校3年Z組沖田総悟18歳。170cm58kg誕生日は7月8日、風紀委員で剣道部のエース運動神経は良い方ですが、勉強はちょっと苦手でィ。家族は姉ちゃんが一人、美人で優しい自慢の姉でさァ。将来の夢はパチ恵と暖かい家庭を築く事。他に知りたい事はありやすか?」
「…は…?えっと…別に…」
突然何だ…?
この人、沖田…っていうのか…
「じゃぁもう問題は有りやせんね。」
そう言ってにっこりと笑いかけられたけど…意味が解らない!
「何がですか!?」
「俺のモンになるのに、でィ。今全部知っただろ?俺の事。パチ恵は絶対ェ俺の事好きになるし。」
「どんな自信!?なりませんから!!」
「いーや、なるね。俺無しじゃァいられなくなりやす。」
これ以上無いドヤ顔で沖田さんが言うと、クラス中がドッと湧きあがる。
何…?
「良かったな総悟好きなコが出来て!俺は心配してたんだよ…志村さん宜しくな!所で君お姉さんいない?」
ゴリラストーカーが沖田さんの肩をバンバンと叩いて喜んでる…
姉さんのくだりは聞かなかった事にしておこう。
「イヤ近藤さん、あのコ生贄だから!助けてあげないと…」
黒髪の地味な男の子が、そこまで言って沖田さんに殴られて逃げていった。
それを沖田さんが追って、2人は教室から出て行ってしまった…授業始まるんじゃ…?
あの人はなんだか僕と近いものを感じる…頑張れ…
「ドS王子のドレイがまたひとり…」
「可哀想…あのコ下僕ね…」
「どのくらいで調教すると思う?俺1日。」
「え?2〜3時間だろ?」
「俺5分。」
それを見送ったクラスの皆が口々に何だか怖い事言うけど…
コレ、恋バナの類じゃないよね…?
沖田さんってほんと何なんだ…?
僕が呆然と座っていると、神楽ちゃんがスルリと隣にやってきた。
「パチ恵、作戦変更アル。オマエの方が目立ってるからそのまま周りの目をひきつけるネ。その間にワタシが情報を集めるからナ。ゼーゼーアイツとしっぽりして目立つヨロシ。がんばれヨー。」
「えっ!?ちょっと無理…」
僕が反論する間もなく神楽ちゃんも教室を出ていってしまった…
潜入調査が出来ればどっちでも良いんだろうけど…嫌だなぁ…
イヤイヤイヤ、コレも仕事だ。
…僕に出来る範囲でなんとかしよう…
◆
授業が始まる頃には沖田さんも戻ってきて、授業中だろうが休憩時間だろうが構わずに僕に話しかけてきた。
僕が陽動しなくちゃいけないから仕方ないんだ…そう自分に言い聞かせて大人しく沖田さんの話を聞いていると、所々に下ネタは入るけど意外と普通だった。
…っていうか…悔しいけど楽しかった。
パッチーナにされてからは、おかしなフェロモンのせいで友達だった男子にまで言い寄られるようになって学校に行けなくなって、同年代と普通に話す事も無くなってたんだ…だからといってパッチーナになって皆と話をしようとしたら、今度はなんでか男子受け悪くて敬遠されたんだよね…
だから、久し振りに普通にバカな話したりふざけたりするのが懐かしくって…嬉しかった…
こうしてみると、沖田さんは気さくな良いヤツだよね。
変態とか変質者なんて思って悪かった………イヤイヤイヤ、朝僕にした事は十分変態だ。
休憩時間には沖田さんの友人達も僕に話しかけてくれて、その度に騒ぎが大きくなって僕の陽動としての役目は十分上手くいっていた。
姉さんのストーカーの近藤さんも、話してみると実は良い人だった。
瞳孔全開の土方さんも、恐いのかと思っていたら沖田さんに虐げられている可哀想な人だった。
地味仲間になれそうな山崎さんは、とっても優しい人だけどちょっと腹黒い。
誰かが僕と話す度に沖田さんが抱きついて来て、それを誰かが助けてくれて。
騒ぎが大きくなると僕が突っ込みをいれて。
本当に久し振りに学校に通っていた時みたいに大騒ぎできて…こんなに楽しかったのは久し振りだ。
僕ばっかりこんなに楽しくて神楽ちゃんに申し訳ないぐらいだよ…
あれから全然教室に戻ってきてないけど、情報は集まったのかな?
あっと言う間に昼休みになって、いつの間にか教室に戻ってきてた神楽ちゃんと目が合うと、ニヤリと笑って親指を立てた。
すごい!もう何か見付けたんだ!!
話を聞こうと席を立つと、ガッシリと腕を掴まれる。
何…?
「パチ恵ー、飯喰いに行きやしょーぜーウチの食堂結構旨いんですぜー」
「イエ、僕お弁当持って来てるんで。」
皆と一緒にお弁当も楽しいだろうけど…これ以上僕ばっかり楽しんでる訳にもいかないよね。
神楽ちゃんが一生懸命働いてくれてるっていうのに。
スッと鞄からお弁当を取り出し…取り…アレ…?
「お弁当…無い…」
「青いハンカチに包んであるヤツならさっきもう一人の転校生が持っていきやした。」
慌てて神楽ちゃんの方を見ると、ちゃっかり自分の席に座ってもっさもっさと僕のお弁当を食べていた。
「ちょっ…神楽ちゃんんん!?ソレ僕のお弁当!!」
「弁当ぐらいケチケチすんなヨ。ワタシは一杯働いたネ。」
悪びれずにそう言った神楽ちゃんにも朝お弁当渡したよね…?早弁した…?
…仕方ない、今日はお昼抜きか…
ガックリと椅子に座った僕の肩を、ポン、と誰かが叩く。
顔を上げるとそこには満面の笑みのドS王子…
「だから食堂に行きやしょうって言ったじゃねーか。一食ぐれェ奢ってやらァ。」
「おっ…沖田様ァァァ!!」
ご飯に釣られて手を繋がれて食堂まで一緒に行くと、沖田さんは本当に僕にご飯を奢ってくれた。
食堂のご飯は沖田さんの言った通り美味しくて、僕は夢中で食べてしまった。
と言っても途中からは早くに食べ終わった沖田さんがジッと見てたんで、盗られるんじゃないかとか邪魔されるんじゃないかとか気が気じゃなかったけどね。
「どうでィ、俺が言った通り旨かっただろィ?」
「はい!とっても!!…あの…本当にご馳走になって良いんですか…?僕今本当にお金無いですけど…」
僕がそろりと沖田さんを見上げながら探るように聞くと、何故か顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
…何だろ…その仕草が可愛く見えてしまった…男の人なのに…
「…なんでィ…普通に会話出来るんじゃねェか…俺ァマジで嫌われてんのかと思っちまったじゃねェかよ…彼女のピンチを助けんのは彼氏の務めだって近藤さんが言ってやしたからねィ…ちゅー一回で許してやらァ。」
「え…」
すぐに近付いてきた沖田さんに僕の口は塞がれて、一瞬でニヤリと笑った顔が離れていく。
「なァァァっ!?」
「ゴチでィ。」
嬉しそうに笑った沖田さんが、僕の分の食器まで持ってさっさとこの場を離れて行ったけど、僕は立ち上がる事すら出来なくてテーブルに突っ伏した。
何さりげなく優しいんだよ変態のクセに…
ウソだろ…?
何で僕、こんなにドキドキして…気持ち良かっただなんて想ってるんだ…?
男にキスされたんだぞ!?
キモチイイじゃなくて、キモチワルイって感じないとおかしいじゃんか………
あー!もう!!
このままじゃ僕がおかしくなる!
一刻も早く依頼を終えてさっさと潜入調査を終わらせなくっちゃ!!
ゲッソリしながら教室に帰るとそこにはもう神楽ちゃんは居なくって…えぇぇぇ…成果を報告してもらおうと思ってたのに…
その上、さっきの食堂での出来事はすっかりクラス中に広まっていたようで、僕は又皆に取り囲まれてしまった…
早く!早く終わらせなくちゃ僕おかしな扉を開けちゃうよ神楽ちゃん!!
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