なんとか無事授業が終わって、やっと沖田さんから解放されると一息吐いていると、やっぱり又隣から腕が伸びてきて僕の腕は掴まれた。

「パチ恵、俺これから部活なんでさァ。格好良い所見せてやるからしっかり惚れなせェ!」

部活…?
そう言えば剣道部っていってたっけ…

「あの、僕この後用事が…」

「パチ恵ワタシに遠慮しなくて良いヨ。やっとできたカレシのお誘い断ることないアル。」

サクサク断ろうと思ってたのに、いつの間にか隣に来ていた神楽ちゃんが余計な事言ってるんですけどォォォ!
このコ僕をどうしたいの!?

「良い事言うじゃねェかチャイナ娘。差し入れはタオルとドリンクと愛で良いぜ?」

何良い事言ったみたいな顔してんだムカつく。
もう僕が陽動なんだからぶん殴って良いよね!?

「わかったアル。パチ恵にしっかり用意させるからキタイしてまってるネ!」

満面の笑みで親指を立てた神楽ちゃんが僕の手を掴んで走り出すけど本気でそんな事するつもりなのか!?いつの間に変態の手先に…

「あーいうメンドウなのはノったフリして逃げれば良いネ。依頼は今日中にカイケツするから、もうアイツに遭う事も無いヨ。」

「えっ!?神楽ちゃんもう犯人見付けたの!?」

「おー、アトは話するだけヨ。」

「グラさんんん!」

凄いな神楽ちゃん!1日で犯人見付けちゃうなんて…実は陽動より向いてるのかな?
これでもう明日からはココには来なくていいんだ…沖田さんに…逢わなくてすむんだ………


神楽ちゃんに手を引かれたまま、犯人が居ると言う空き教室に向かった。
話をするので呼びだしたのかな?

2人でその教室に入ると、何故か自動で鍵がかかった。
…え…?…オートロック…?
嫌な気配を感じつつ僕が教室の中に向き直ると、ソコには渋い着物を着た…何故か光ってる男の人が………

「ストーカーの田中さんアル。ココで地縛霊してるヨ。」

「あ、田中さんですか。初めまして、僕は………ってえぇぇぇっ!?おっ…オバケェェェっ!?」

僕が叫ぶと田中さんは少し照れて頭を掻いた。
うわぁ!透けてるよォォォ!!

『長い事この学校に居たんですけど、こんな年になって初めてあの娘さんの事が気になってしまいまして…あんなに素直で可愛くて真面目な娘さんは初めてなんです!』

うっ…真剣な気持ちは分かるけど…

『それでいてもたってもいられなくて、恋文を書いてしまったんです…』

「…はい…」

『初めは見ているだけで、気持ちを伝えるだけで良かったんです。でも、やっぱりあの娘さんは素敵で…話してみたくて…何度も前に立って話しかけてみたんです。でも…彼女には僕の姿は見えなかった…』

「…はい…」

『それでね、ふと思いついたんですよ…彼女も僕と同じになれば…話も出来るし触れ合う事も出来るんだって…』

それまで物静かで大人しそうな印象だった田中さんの雰囲気が急に変った。
コレはヤバいんじゃ………

「ダメアル!そんな事したら田中さん悪いヤツになっちゃうネ!!」

『でも…この想い…諦めきれないんだよ…お前らには解らないだろうな…特に眼鏡のお前…あんなに好かれているのに何故受け入れない…』

「ぼっ…僕は男だァァァ!!!」

叫んですぐに魔法をといて僕が男に戻ると、愕然とした田中さんの目付きが変わる。
…え…?まさか………

『なんて素敵なんだ!あんな女もういいよ!変わりに君が一緒に天国に逝ってくれ―――!!』

「やっぱりかァァァ!!」

「…新八オバケにまでモテるアルか…魔性の男ネ…」

このままじゃ僕が連れて逝かれる!!
そんな事されてたまるかァァァ!!!


「だめがねぱぁわぁーめぇーいくあぁーっぷ!」

ものっすごく恥ずかしい変身の呪文を唱えると、僕の体が勝手にくるくるまわって、いちいちポーズをとってコスチュームが張り付いてくる度に光る。
最終的には腰に大きな赤いリボンが付いたオレンジのふわふわミニのワンピースにピンクと白のボーダーニーハイに赤いブーツと、女の子が着ればきっと可愛いであろう戦闘服に変わる。

「困りごとはダメガネパワーで解決しちゃうゾvメガネっ娘戦士パッチーナ見参☆」

ラストにすっっっっっっごく恥ずかしい決め台詞と、ウインクして目の横にピースした上、腰に手を当てるという羞恥で死にそうなポーズをとらされて僕の体に自由が戻る。

『気持ち悪いポーズとってないでさっきの男の子を出しなさい不美人。』

…ハイハイ慣れてますよー…傷付いてなんかいませんからねー…
別に怒ってなんかいませんよ?
一刻も早く終わらせたいだけですからね。

心の中でそう言い訳しつつ、僕はすぐさま必殺技を繰り出す事にした。

先がモザイクになったヤバいステッキを取り出して、くるりと回して最強の呪文を唱える。

「まじかるにょにーにょぱっちーな!だめがねぱぅわぁーでせかいがへいわになぁーあれっ!」

ステッキを田中さんに向けると、一瞬間があって辺り一面が綺麗なお花畑になる。
すると、天から一筋の光が降り注いで田中さんの着物が白いローブに変わり、そのままスーッと天に昇っていった…

「田中さん…天国に行ったアルか…?」

「…うん…」

僕が応えると神楽ちゃんがとても嬉しそうに笑ったんで、僕も一緒に笑った。
これでもうあのコも恐がらなくてすむよね…

「さぁ、これでココとはおさらばネ。さっさと帰るアル。」

「うん…そうだね。」


さすがにこの服のままでは帰れないんで、魔法で銀魂高校の制服に着替えてから扉を開けると、ソコには呆然と佇む沖田さんの姿。
まさか…見られた…?

「あっ…あの沖田さん…今の…見た…?」

「コスプレですかィ…?パチ恵そんなシュミ会ったんですねィ…花畑や空に飛んでった奴は…CG…?」

ははは…と引き攣った笑顔を浮かべてるけど…全部見られてるよォォォ!
ヤバい!僕が魔女っ娘だってバレて…

「パッチーナ、お前又見付かったのー今度こそ魔法の国に帰るからなー」

どこからかハータが現れて、すぐに魔法の国への扉を開ける。
早っ!
じょっ…冗談じゃない!
大体僕は元々この世界で生まれ育ってるからね!
帰るとか言ってるけど、連れ去るの間違いだからね!!

「嫌です!前にも言いましたけど、僕はここの世界の人間ですから!!なんでアンタと一緒に行かなきゃいけないんですか!?帰るなら1人で帰って下さい!!」

「魔女っ娘とお付きは一蓮托生だからのー諦めるんじゃ。」

「オマエが勝手に魔女っ娘にしたんだろうがァァァ!僕は行きませんからね!!」

「でも魔法を見つかったら帰るって決まりだからのーそれに一回見逃したよね、ワシ。」

チクショウ全然引かないよハータ!
こんな時銀さんが居れば口八丁手八丁で丸めこんでくれるのに…
僕を行かせまいと神楽ちゃんがぎゅっと手を掴んでくれるんで、僕もその手を握り返す。
どうしよう…どうしたら………

僕らがハータと睨み合っていると、横から白い手が伸びてきてハータを摘み上げる。

「何でィこのネズミ。人間の言葉を喋るたァ高く売れるんじゃね?」

じっとりとハータを見てニヤリと笑ったのは…おきたさん…

「なんじゃお主!ワシは王子だぞー!」

「俺も王子でさァ、サディスティック星の。なぁ、今俺の嫁をどっかに連れてくって聞こえた気がしたんですかねィ…空耳ですよねィ…?」

笑顔のまま恐ろしい殺気を出した沖田さんに摘まれたまま、ハータが失禁した。
こっ…怖ぁ…

「なっ…なんじゃコイツは!?パッチーナの関係者か?オイ!ワシを離すように言え!すぐにだ!!」

「オイオイ、躾のなってねェネズミだなァ…アイツは俺の嫁だって言ってんだろィ言葉に気ィつけな…」

沖田さんが更に凄むとハータはビクリと震えて縮こまった。

「あっ…あー、嫁…嫁!?パッチーナお前この男…こっ…この方と結婚したのかー!?なっ…なーんだ、じゃぁ人間界に永住する事にしたんだなー?なら仕方ないのー魔法界に戻るのは無しじゃ無し!その代わりもう魔法は使えなくなるし変身も出来なくなるが…それでも良いか?」

…え…?
僕…魔女っ娘じゃなくなる…?
普通の男に戻れるのか…?

「もっ…もちろん!全然大丈夫ですから!!」

「そうか…寂しくなるのー」

「大丈夫です。」

僕がきっぱり言うと、沖田さんがハータを絞めた。
そうしたら焦ったハータが何事かを呟いて、僕の魔法は解けて普通の男に戻った。
戻る事が出来た。
もうハータも見えないし、魔界の扉も見えない。
試しに呪文を唱えても、僕の体には何も起きなかった。


「…パチ恵…?髪…短くなりやした…?」

呆然と僕を見る沖田さんが、震える指で僕を指す。
あー…僕が本当は男だったって言ったら…この人はどうするんだろう…?

「イエ、僕は本当は男で…志村新八と言います。色々あって魔女っ娘にされていたんですけど…沖田さんのおかげで元に戻る事が出来ました。有難うございました。」

一応お礼を言ってペコリと頭を下げると、早足で近付いてきた沖田さんが僕の胸を触る。

「…無ェ…」

「はい、男ですから。パチ恵は魔法で変身した姿だったんです…すみません…」

もう1回頭を下げると沖田さんがぺたりと座りこんでしまった…

「…俺…本気でパチ恵が好きなんでィ…初恋だったんでさァ………」

「…すみません…」

…沖田さんには悪いけど…早くに目が覚めて良かったんだよ…
だってどうしても僕は男なんだもん…
凄く胸が痛いけど…これは罪悪感だから…


「僕らはもう帰ります。さようなら、沖田さん…」


僕と神楽ちゃんが空き教室を出ても、沖田さんはソコから出てこなかった。