いつものように先生が教室に入ってくると、皆が席に着く。
「今日は転校生を紹介するぞー」
そう言って先生が手招きをすると、見た事の無い男の子が教室に入ってきた。
キレイなうす茶色の髪に青い瞳…うわぁ…カッコいい子だ………でも………なんだかジッと見られてる気がするんだけど…私の気のせいだよね…?
「沖田総悟君。武州から来たんだぞ。」
先生が黒板にお名前を書いて皆に紹介するけど………
「ぱちえちゃん見られてない…?なんなのかしら、あの子…」
笑顔だけどなんだか怖い妙ちゃんもそう言うなら、やっぱり私の気のせいじゃないよね!
見られてるよね、私!
「みんな仲良くな?じゃぁ席は…坂田の後ろが良いな。」
「え…」
スタスタと歩いてくる沖田君が、今度は私の前に立ち止まってじーっと見てくるよぅ…なんなの!?
「貴方の席は後ろよ?」
にっこりと笑った妙ちゃんが沖田君をうながすと、大人しく席に着いてくれたけど…後ろから突き刺さる視線を感じる気がするよぅ…
なんで!?私沖田君とは今日はじめて会ったのに!!
落ち着かないまま授業が終わると、すぐに後ろから肩をたたかれた。
「…ちょっと話をしてくれやせんか…?」
私が振り向くと、凄く真剣な顔の沖田君。
なっ…なんだろう…?何か用事があって私の事見てたのかな?
私が忘れてるだけで、実は知ってる子だったとか…?
いろいろ考えてみたけど何も思い付かないまま歩いていたら、いつの間にか裏庭に来ていた。
…なんでこんな人のいない所に…?
「あの…なに…?」
どうしてもわからなかったから私から聞いてみると、向かい合った沖田君がキレイな図形が描かれた板を取り出して呪文を唱えはじめる…何…?
「急々如律令!」
沖田君の呪文が終わるとその板から光が上って、私をめがけて飛んでくる!?
でも…痛くないし、なんともないよ…何?これ…
「アンタ…『ショウヨウカード』持ってやすね。」
「どうして知ってるの!?」
「この『羅針盤』は『ショウヨウカード』を捜すために作られた物だからねィ…出しやがれ。」
凄く怖い表情になった沖田君が、私に向かって乱暴に手を差し出してくる。
「だめ!私カグラちゃんと約束したんだもん、カードを全部集めるって!!」
「…カグラちゃん…?ヤトの事かィ『封印の獣』の。ヤトが付いてんのになんでこんなガキにカード持たせとくんだ…?」
あきれたように言われるけど…何この子、失礼だよ!
「沖田君だって子供だよ!カグラちゃんはいま魔力が足りないから大きくなれないって…」
「はぁ?俺ァそこらのガキとは違うんでィ!…あー…ヤトのシンボルは『太陽』ってのは知ってるな?ソイツは『炎』と『地』を司る。どっちのカードも無ェのか?」
「…うん…」
シンボルとか聞いた事ないもん…
私より沖田君の方がくわしいなんて…どうして…?
「いつから捜してんだ?」
「…今年の4月からだよ。」
そう答えると、沖田君の目が細くなって私をバカにしたような顔になった。
「そんなに捜してんのにまだ揃ってねェのか…残りは俺が捜してやらァ。今持ってるカード、さっさと寄越しやがれ。」
そう言った沖田君が、私の手をつかんで引っ張ってくるけど!
「だめっ!」
私も手を引っ張り返すけど全然離れてくれないよ!沖田君力強すぎる…
「ぱちえちゃん!テメー…私のぱちえちゃんに何やってんだゴラァ!!」
…妙…ちゃん…?
声がした方を見ると、どこから持って来たのか薙刀を構えた妙ちゃんが私達に向かって爆走して来てるゥゥゥ!?
ソレはさすがにやり過ぎだよ妙ちゃんんん!
大変な事になる前に沖田君を逃がそうと私が向き直ると、沖田君がふわりと浮かんだ…って…えぇぇぇぇっ!?
「テメェ!うちの妹に何してやがる!?」
ちゃんと見るとそこには瞳孔全開のお兄ちゃんが居て、沖田君の襟をつかんで持ち上げていた。
「お兄ちゃん!」
「ぱちえちゃん大丈夫!?おかしな事されてない?」
座りこんでしまった私にかけよって支えてくれた妙ちゃんの手にはもう薙刀はつかまれていなかった。
…色んな意味で助かったァァァ…
それにしても…沖田君って何者なの!?私より全然『ショウヨウカード』の事知ってるし、すごく強い。
帰ったらすぐにカグラちゃんに聞いてみなくっちゃ…
「なんでィ土方さん、ロリコンかよ。」
「うるせぇ!テメェヒーローポジだからって調子こいてんじゃねぇぞ…?」
カチャリ、と音がしたと思ったら、今度は沖田君がどこからかバズーカを取り出してお兄ちゃんに向けて引き金を引いた。
キャァァァ!?何!?どういう事!?
爆煙が納まった後には拳法の構えをとった沖田君とファイティングポーズのお兄ちゃん。
なんでケンカになってるの!?
「トシー!ってあれ?ぱちえちゃんにお友達に…こんなにたくさん…激辛肉まん足りるかな?」
物凄く緊迫した雰囲気をあっさり壊してくれたのは、キラキラを背負った光葉さんで…キャー!1日に2回も会えた!!
「ぱちえちゃんも肉まん食べる?それともカレーまん(10)が良いかな?」
光葉さんのにっこり笑顔には、はにゃーんってなっちゃうよぅ!
それなのに、引きつった顔のお兄ちゃんが光葉さんの手をつかんで、私に差し出された肉まんをうばっちゃったよ!!
なんていじわるなんだ!
「…イヤ…それはまだぱちえには早いから。」
「そう?あ、君は男の子だから大丈夫だよね?」
優しく微笑んだ光葉さんが沖田君にカレーまんを差し出すと、真っ赤になってカレーまんを受け取って走り去って行ってしまった…なんだったんだろう…?
その後教室に戻ってきた沖田君は、唇を真っ赤にして10倍ぐらいにふくれさせていたけどすごく満足そうな表情をしていた。
…ホントに何があったの…?
「ほまへ、はのひひょのふれうふいもんにはひをふへなへぇ」
ってうまく聞き取れない事を言ってたけど…なんとなくだけど、光葉さんに食べ物をもらうのは止めようと思いました。
(10)って意味がわかったような気がするから…
「沖田君、いちごみるく食べてね?」
そっと沖田君の机におやつに持って来ていた甘い飴を置いて前を向く。
いまさらかもだけど…少しは口直しになるよね…?
◆
お家に帰ってすぐにカグラちゃんに沖田君の事聞こうと思ってたのに、今日の夕食当番のお兄ちゃんにひきとめられてしまった。
「おまえあれからアイツに何もされなかったか?」
「うん、だいじょうぶ。沖田君お口はれちゃってたし、妙ちゃんがずっと一緒にいてくれたから!」
私がそう言うと、お兄ちゃんはニヤリと笑って私の頭を撫でた…なんかごきげんだなぁ…
「そうかそうか…おまえは光葉の食べモンは喰うなよ?」
「うん。」
…やっぱり光葉さんの食べ物はダメなんだ…気をつけよう…
やっと部屋に戻れてすぐにカグラちゃんの前に走ると、にっこり笑って手を差し出された。
だから帰りに買ってきた酢こんぶの箱を手の上に置くと、器用に箱を開けてさっそく酢こんぶにかじりついた。
こんな酸っぱいものが好きなウサギさんて変わってるよね?
「カグラちゃん『沖田総悟』って子知ってる!?」
私が聞くと、首をかしげたカグラちゃんが少し考えた。
…やっぱり知らない子なのかな…?
「それは『沖田家』の者アルな。ワタシのご主人の松陽は元は武州に居たネ。ソコでまじないやら陰陽道やらをやってたのが沖田家ヨ。で、松陽のマミーの実家がその沖田家アル。」
「…じゃぁ沖田君って…」
「松陽の遠い遠い親戚アル。」
そうか、だからカードの事くわしい…って!沖田君の方が関係者だよォォォ!
「じゃぁ私、沖田君にカード渡してこの後のカード集めはお任せした方が良かったのかな!?ダメって言っちゃったよォォォ!」
「それは違うヨ。ぱちえはワタシを目覚めさせたネ。それにもうカードに名前書いちゃったアル。名前を書いたらこっちのモンヨー」
カグラちゃんがこれ以上無いドヤ顔でビシッと指を立てるけど…
「…そういうものなの…?」
「そんなモンアル。」
…そっか…私で良いんだ…
安心しちゃった。カードさん達やカグラちゃんと離れるなんてさみしいもん!
もっともっとがんばって、沖田君にも安心してもらわなきゃいけないよね!
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