人生の一大事とあっちゃぁ流石の俺でも緊張するもんで、俺達はきっちりと手を繋いで屯所へと向かった。
寄り道せずに真っ直ぐ局長室へと進んでいくと、なんだかいつもと雰囲気が違う。
なんでィ、こんな時に攘夷浪士が何かやらかしたってェのか…?

舌打ちの一つもしたい気分で襖の前に立つと、ソコからはどこか懐かしい気配がする。
これは…まさか…

「…近藤さん、俺でィ。ちょいと話が有るんですが、今良いですかィ?」

「お、総悟丁度良い。入れ入れ。」

言われてすぐに襖を開けるとそこにはやっぱり俺の思った通りの人物が…

「姉上!?何故江戸に!?」

「近藤さんから連絡を貰ったのよ?そーちゃんの一大事だって。」

そう、そこには武州に居る筈の姉上が、ニコニコと機嫌良さげに座っていた。

「ミツバ殿!それは総悟から言ってもらわなきゃ締まらないですよ。」

姉上を慌てて止める近藤さんもニコニコ笑ってて、落ち着いて周りを良く見たら苦虫を何匹も噛み潰したような顔をした土方さんと、この世の終わりみたいな顔をした山崎も居た。
何故かは判らねェけど、俺の計画はこの人達にバレていたようだ。ま、多分山崎が調べてたんだろうけど。

それなら話が早い。
折角ご足労頂いた姉上にもちゃんとご挨拶できるし、たまには役に立つじゃねェか山崎。

驚いて俺の後ろに隠れちまってたパチ恵の手を引いて姉上と近藤さんの前に正座する。
勿論、隣には畏まったパチ恵が座る。

「近藤さん、姉上、俺ァこの娘と結婚しやす。まだまだ若輩者で早過ぎると思われるかもしれやせんが、仕事柄年を取るまでこの娘の傍に居られる保証が無いって事ぐらい流石の俺にも判ってるんです。勿論そうやすやすと生きる事を諦めるつもりはありやせんが、それでも出来るうちにやりたい事はやっときてェんです。」

俺がそう言うと、顔を青くしたパチ恵が俺の袖を強く握りしめる。
あー…そういや甘いばっかで現実は見せて無かったですねィ…こんな俺は嫌になりますかねィ…?

「八恵、そういうこった。こんな俺ァ嫌になったかィ?」

俯いちまった顔を覗き込むと、唇を噛み締めて真剣な顔をしてた。
あー…なんか怒ってんな…

「そんな事、とっくに覚悟しています!片想いしてる時にすっごく考えたんですから!!でも、それでも沖田さんが好きなんで仕方ないんです。だからお付き合いしてるんですよ。それにそう簡単に居亡くなる人じゃないですよね?沖田さんは。」

そう言って勝気そうに笑われたら、又惚れ直しちまう。
こんな女残して俺だけ居なくなるなんて考えらんねェ。絶対ェ先になんて居なくなってやらねェ。
ぎゅうっと抱きしめて顔を近付けていくと、ゴホンゴホンと咳払いが聞こえる。
あ、ヤベ。挨拶の途中だった。

「俺は反対しねぇよ?総悟が覚悟決めた事だし。それにパチ恵ちゃんなら安心だ。総悟の事、宜しく頼むよ。」

近藤さんは始終ニコニコ笑って認めてくれた。
…姐さんにいつも求愛してるのはきっと俺と同じ気持ちなんだろうぜィ。

「俺は反対だ。もしもの事が有ったらソイツが…」
「そうですよ!俺も反対です!!一番隊は真選組で一番…」
「御二人とも話の腰を折らないで下さいますか?」

やっぱり口を挟んできた土方と山崎を姉上が制する。
流石姉上、微笑んでるだけだっていうのに二人とも小さくなって黙りこみやがった。
その少し恐い笑顔のまま俺達に向き直った姉上が見ていたのはパチ恵だけで…姉上…?

「貴女が…パチ恵さん?」

「はっ…はいっ!初めまして、志村八恵と申します!!」

「最近そーちゃんがくれる手紙は貴女の事ばかり書いてあって…お会いするのが凄く楽しみだったのよ。」

うふふ、と綺麗に笑った姉上が、すぐにきりりと表情を引き締めてパチ恵の手を握る。
何をする気でィ、姉上…

「パチ恵ちゃん、私はこの子が大切で少しばかり甘やかしてしまったせいかとても我儘で悪戯な性格に育ってしまったの…困ってるでしょ?」

「姉上!?」

「そんな事っ…無くも無いですけど…でも沖田さんは周りの事もちゃんと見て行動してますし、とっても優しいです!仕事も…サボったりしてるけど肝心な所では一生懸命だし、約束した事はどんな手を使っても守ってくれます!!」

パチ恵が必死でそう言ってくれてやすけど…それ…フォローなんですかィ…?
姉上の前では、俺、良い子なんですけどねィ…
クスクス笑う姉上からは恐い雰囲気は無くなりやしたが…ちょっと複雑でィ…

「パチ恵ちゃんはそーちゃんの事良く解ってくれているのね。良い事ばっかり言ったり全然庇ってもくれないような子なら反対しようと思っていたのだけど、これなら安心ね。ね?」

姉上が話を振ると、近藤さんは満足そうに頷いて、土方さんと山崎は悔しそうに下を向いた。
やっぱ姉上は無敵でィ。
姉上が居なかったら土方さんと山崎相手に一戦交えねェといけねェトコだったぜ。

「志村八恵さん、ふつつかな弟ですがどうかよろしくお願いします。」

「はい!私こそふつつか者ですが宜しくお願い致します。」

姉上とパチ恵が頭を下げ合ってるんで、俺も慌てて頭を下げた。

取り敢えず第一関門通過でィ。
だけど…この後乗り越えなきゃいけねェ壁が強大すぎて、俺は大きな溜息を吐いた。


「お妙さんや万事屋にはこれから挨拶に行くんだろ?手土産買ってきてあるんでさっさと行っちまおう。」

そう言って颯爽と立ち上がった近藤さんに引き続き…なんで全員が立ち上がるんでィ…まさか…

「近藤さん達も行くんですかィ…?」

「大切な妹さんを貰い受けに行くんだからな。それに俺は一日一お妙さんしないと。」

「あらそーちゃん、私も姉としてお姉様にご挨拶しないと。折角なんだし一緒の方が良いでしょう?」

「「邪魔してやる…」」(小声)

近藤さんは勿論、土方さんと山崎も来んじゃねェよ!話がよけい拗れんのが目に見えまさァ!!
姉上も…実は面倒だから今日で白黒はっきりさせて全部終わらせて明日から江戸観光とかするつもりなんでィ!俺には判りまさァ!!
だからと言って断るなんて事出来る訳無ェし…

「おっ…沖田さんファイト!」

パチ恵も同じ事思ってたのか横で力づけてくれるけど…今回ばかりは歩が悪ィや…
俺は絶望的な気分のまま大人数でまずは万事屋へと向かった。





そして菓子折を持って向かった万事屋で、今俺は命の危険に晒されている。
まさかこんな所で、それも身内の手によって人生を終わらせられるかもしれないなんて想像すらして無かった。
世の中の既婚者ってェのはスゲェ闘いを掻い潜った猛者だったんだねィ…

「銀さん神楽ちゃんやめて下さいィィィ!」

「イヤイヤイヤパチ恵をかどわかそうとする悪い男は退治しておかないと。」

「そうアル。パチ恵は万事屋のマミーネ。チンピラチワワに種付けさせる訳にはいかないネ。」

「神楽ちゃん女の子がそんな事言わないのォォォ!」

すっかり目が据わったおっさんとチャイナとデケェ犬が俺にじわじわと寄ってくるのに対してバキボキと指を鳴らしながら前進する姉上とにこにこ笑いながら殺気をダダ漏れさせる近藤さん、そして思った通りに万事屋側についた土方さんと山崎。
そんな中俺の命とか色々奪おうとしているのはパチ恵で…万事屋二人との喧嘩を受けて立とうとした俺をその二つの膨らみに抱え込み抑え込んだのだ。

そんなん離せる訳無ェだろ?
匂いとか感触とか堪能してェだろ?
…このまま窒息死するなら本望かもしれやせんが、でもパチ恵を置いて先になんて逝けやせんからね。