シスター・コンプレックス
「そーちゃん、ぱちえねぇ、そーちゃんやさがるちゃんやとしにいちゃんやごりにいちゃんとずっといっしょにいたいなぁ」
「えー、ぱちえはきょーだいじゃないからずっとなんかいられないよ。およめさんならいっしょにいれるけど」
「じゃぁぱちえ、そーちゃんのおよめさんになる!」
「おれ、きょにゅーのめがねっこがいい。それにぱちえおとこのこだし。おんなのこにはおっぱいあるんだぞ!」
「おっきくなったらはえてくるっておねえちゃんいってたもん!おねえちゃんもおっぱいないけどおんなのこだもん!」
「はえねーよぱちえのばーか!それにたえねえちゃんはごりらだからおっぱいないんだぜ!」
「ごりらじゃないもん!ごりらはごりにいちゃんだもん!」
「あ!ごりらどうしたえねーちゃんといさおにーちゃんがけっこんしたらおれたちずっといっしょにいれるよ!きょーだいだもん!!」
「ほんとに?ずっといっしょ?」
「おう!きょうだいだからな!」
「じゃぁぱちえおねえちゃんとごりにいちゃんがけっこんするようにおねがいする!」
「おれもたえねーちゃんといさおにーちゃんにおねがいする!」
「そしたらずっといっしょだね!」
「ずっとずーっといっしょだよ!」
◆
――………ちゃん!
そー………!
そーちゃ…朝……よ……!
「そーちゃん起きろっ!!」
ドスンと俺の上に何かが乗ってきて、耳元に、もうすっかり聞き慣れた大声が降り注ぐ。
モゾモゾと動いて布団を頭からかぶると今度はそれをひっぺがされて、柔らかいモノが直接俺の上に乗ってくる…
「朝だってば!!早く起きないと学校遅刻しちゃうよ!」
ユサユサと揺すられる度に柔らかい尻が擦れて気持ちい………ってんな訳有るか!妹の尻だろ!!
「重ェよデブ…ダサメガネが俺の華麗なボディに乗ってんじゃねェよ…」
「デブじゃないもん!普通に起こしても起きないそーちゃんが悪いんだよ!そんな事言うなら朝ご飯そーちゃんの分も食べてほんとに太っちゃうからね!!あーあ、今日はそーちゃんの好きな退ちゃんの和食なのになぁー!」
妹を乗せたまま腹筋の力で俺が起き上がると、慌てて飛び降りたソイツは舌を出して走って行っちまう。
ったく…いつまでも子供のまんまだと思ってんじゃねェよ馬鹿パチ恵!今となっちゃ俺ァ『幼馴染のそーちゃん』じゃなくて『兄貴』なんだからべたべた触ってんじゃねぇよ…って、兄貴なら別に良いのか…?
パチ恵との攻防のおかげですっかり目が覚めちまった俺は、仕方ないんでのたのたと部屋を出て登校準備を始める。
そして俺がキッチンに着いた頃には家族は既に勢揃いしてて、食卓を囲んで笑い合ってた。
「あ、そーちゃんちゃんと起きてきた。」
にこにこ笑いつつパチ恵が飯をよそってくれて、退兄が味噌汁を寄越す。
新聞を広げつつ朝の挨拶をしてくる勲兄と、既におかずをマヨの海に沈めてる十四兄。そしてその二人を腕っ節で窘める妙姉。
まるで絵に描いたような幸せ家族。
そんな風になったのはウチの長兄とパチ恵の姉さんが結婚したから。
お互い早くに両親を亡くした俺達は、隣同士って事もあってなんとなく支え合って生きてきた。
それぞれ援助してくれる大人は居たけれど、それでもその大人はずっと側に居てくれる訳じゃないから。
だから自然と俺達は子供同士助けあって生きてきた。
そのうち、妙姉に一目惚れしてた勲兄の粘り強いアタックと、俺とパチ恵のお願いが効いたのか二人は結婚して俺達は本当の家族になった。
ちっこくて泣き虫だった幼馴染のパチ恵は妹になって、ちっさかった俺は兄貴としてずっと可愛い妹を護ってやろうと心に決めた。
パチ恵の願い通り、ずっとずっと一緒に居られるように。
それなのに………
今俺は兄馬鹿を通り越した気持ちをパチ恵に持っちまってる。
他のどんな女より可愛いウチのパチ恵、って思うのは兄貴として当然だと思ってやすが、ちょっとした仕草に心臓が跳ねるのはなんか違ェ。
笑ってんのを見ると幸せな気分になると同時に、啼く時はどんな表情でどんな声出すのか想像しちまったり。
ちょっとからかったら涙目になって上目遣いで見上げてきたり、ぷっくりとほっぺた膨らませて睨んできたりするのに身体の一部が反応しちまったり。
薄着でふらふらとそこら辺歩いてんの見かけたら、色んな所がチラッと見える位置に移動しちまったり。
ずっと一緒に居て護ってやる、だけじゃなくて…一部を俺が傷付けてェ的な………
多分これは恋情。
何時の頃からか、俺ァパチ恵の事を妹だなんて思えちゃいない。
この腕に抱え込んで、自分だけのモノにしたくて仕方ねェ。
でもそんな事想ったってそりゃァもう今更で。
ガキの頃ならいざ知らず、今のパチ恵の願いは兄妹として皆とずっと一緒に居る事だから。
その願いをぶっ壊してまでなんとかしたいとは思わねェし、アイツの願いは絶対ェ叶えてやりたい。
だから、おかしくなっちまった俺のこの想いは絶対ェ表には出さない。
墓まで持ってく。そう、思ってる。
だから…
「パチ恵、お前ェ本当に俺の飯まで喰いやがったのかよ。まーた余計な所にだけ肉が付くぜ?」
俺は毎日パチ恵を苛める。
この恋情が出ちまわないように。
「付かないもん!そーちゃんのいじわる!!神楽ちゃんに言いつけてやるんだからっ!!」
「おー、受けてたってやらァ。まぁ、チャイナ娘が俺に勝てる訳無ェけどな。」
ふふん、と笑ってやるとパチ恵は又ぷっくりと膨れる。
そんな顔したって可愛いだけだってェの…見てみやがれ他のヤツラも皆だらしなく顔緩めてらァ。
そんなんだから影でこっそり『シスコン三兄弟』なんておかしな呼ばれ方してんだぜ、ウチは。
「…そーちゃん嬉しそう…神楽ちゃんと会えるの嬉しい?そーちゃんの好きなタイプだもんね、眼鏡っ子…」
むっつりと膨れておかしな事言いだすんで、がっちりとアイアンクローを極めてしっかり目を見て話してやる。
「あんなつるぺた好みな訳無ェだろーが。あんまりおかしな事言うと眼鏡割るぞ。」
俺がにっこりと笑ってやるとパチ恵が泣きだして地味男とマヨラーが慌てて俺を取り押さえてパチ恵を避難させやがった。
「ゴラァ総悟ォォォ!パチ恵を苛めてんじゃねぇよ。」
マヨラーが俺に拳骨を落とすと地味男に隠れたパチ恵がベーッと舌を出す。
チッ…そんな姿も可愛いんだよ…
「お前達あんまり遊んでると遅刻するぞ!朝食は絶対一緒に飯食うって決まりなんだから残すなんてさせないからな!」
勲兄がそう諌めると、全員が自分の席に座って手を合わせる。
こうして揃って食事をするのは俺達が家族になってからの決まり事で、今迄誰も破った事は無いし、勿論これからも破る事は無ェ。
それまで家族らしい事なんてほとんどしてなかった俺達だから、初めて家族で囲んだ食卓は嬉しくて仕方なかった。
いつか俺達も成長してそれぞれの道をいくんだろうけど、一緒に住んでいる間はその幸せを感じていてェと思ってるから。
だから朝食だけは絶対ェ皆で一緒に喰う。
そう決めた。
言いだしっぺは勲兄だけど、皆同じ気持ちだったから異存なんざ無かった。
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