土方さんと話をしつつもコーヒーを淹れていた私は、今日も最上の香りをたてる一杯を用意する事が出来た。
早く総悟様の元にお運びしなくっちゃ!
「あのっ!これも仕事の内なんで私全然気にしてませんから!!」
「…そうなのか…?」
「はいっ!それじゃ私行きますので。」
まだ何か言いたげな土方さんを給湯室に残して、私は淹れたてのコーヒーを持って総悟様の居る執務室へと急ぐ。
パワハラとかおふざけとか色々してくるけど、仕事に関しては厳しい方だから…15分と言ったら15分でお持ちしないと凄く怖くなるんだ…
「総悟様、コーヒーをお持ちしました。」
「おー、時間内だねィ感心感心。でもなァ…台詞が違うだろィ…?」
うわぁ!目が怖い!目が怖いィィィ!!
この格好はなんとか慣れたけど、やっぱり変な台詞は恥ずかしくて言いたくないよ…!
でも…
これも仕事だ!こんの変態パワハラ上司!!
「…そーちゃん、コーヒーはいったよ?ぱちえも一緒にの・ん・で?」
「へい、良く出来ました。」
ニヤリと笑って私の頭を撫でて、コーヒーに口をつける。
満足そうなその顔は相変わらず綺麗だけど、すごく腹が立つっ!
私が恥ずかしがってるのがそんなに楽しいか、このドSっ!!
「おー、楽しいぜ?エロい格好で恥ずかしがるパチ恵を朝から拝めんのは。」
「こっ…心読まないで下さいっ!」
「オメェが判り易いんだろーが。そんな所も可愛いぜィ?」
クスクス笑いながら、いつの間にか隣に来て頬にキスするのは止めて欲しい!そんな仕草も絵になっててドキドキが止まらないからっ!!
「パワハラ止めて下さいぃぃ!もう…私をからかって、そんなに楽しいですか…?」
「おー、楽しいねィ。一々顔真っ赤にして反応してくれんのが可愛くて癒される。惚れてるからねィ。」
「…癒されるって…」
そんな真面目な表情で言わないでほしい…信じてしまいそうだよ…
「さて、そろそろ真面目になりやすか…仕事の時間でィ。もう下がって良いぞ。」
「…はい…失礼します。」
仕事モードに入った総悟様は少し怖い人になってしまう。
常に気を張って…凄く疲れているから…私の反応が癒しになるなんて言われたら、許せてしまうんだ…
◆
自室に戻って仕事着に着替えて身だしなみを整える。
さて、私もお仕事頑張ろう!
食堂に行くと、シェフの山崎さんがにこやかに挨拶してくれた。
皆にジミーと呼ばれるような大人しい人だけど、料理の腕は確かで好き嫌いの多い総悟様の好みも全て把握した上でいつも美味しいお料理を提供している凄い方なんだ。
「おはよーパチ恵ちゃん!お二人の食事、用意出来てるからお願いするね。」
「おはようございます山崎さん。今日も美味しそうですね!」
「ありがとう。パチ恵ちゃんの分も作ってあるから後で食べてね?」
「はい!山崎さんのご飯、とっても美味しいから毎日楽しみです!」
つい嬉しくてだらしなくえへへと笑ってしまった…仕事中なのに駄目だなぁ、私…
「パチ恵ちゃんっ!今日もかわっ…かわっ…かわいいね………!」
何故か突然挙動不審になった山崎さんが叫んでるけど…かわ…?
「かわ…ですか…?あ!今日のメニュー、チキンなんですか?皮をパリパリに焼いたアレ、私大好きです!」
私が力説すると、山崎さんは力なく笑った。
あれ…違ったのかな…?
「あ…そうなんだ…ごめんね、今日はチキンじゃないんだ…」
「あ、そうなんですか…」
はっ…恥ずかしいぃぃぃ!食い意地はってるって思われたかな?
そっと山崎さんを窺うと、なんか微妙な表情してるゥゥゥ!
どうにかして誤魔化したい…
「パチ恵ちゃん、そろそろ朝食の給仕を頼むよ。」
「はい!」
しまった近藤さんに呼ばれてしまった!山崎さんとお話していたらミツバ様と総悟様のお食事の時間になってしまった!
お2人のお食事を遅らせる訳にはいかないよ!!
何も無かった事にして、近藤さんに呼ばれるまま山崎さんには笑顔で会釈してさっさと給仕に向かう。
毎日毎食の事だけど、お2人の食事は本当に優雅だなぁ…物腰が違うって言うか、とっても綺麗だ。
やっぱり私とは違うんだって思っちゃうよ…
そうそう、山崎さんの言ってた『皮』はデザートの細工の事みたいでした。
オレンジの皮がくるくるーっと器に飾られていて、すっごく綺麗でした。
お2人の食事の後に頂いた私の朝食には、無いって言ってた筈のチキンのソテーがしっかり用意されていて…やっぱり山崎さんって優しいなぁ、と思いました。
◆
朝食を終えてからが、このお屋敷での私の一番の仕事が始まる時間で。
メイド控室に向かうと、今日も元気な声が私を迎えてくれた。
「パチ恵ー!おはようネ!!」
「はよ〜パチ恵ぇ〜」
とっても可愛い女の子と白髪天パのお父さん。
かぶき町で万事屋を営んでるというこの2人は、新たに雇われた沖田家の新人メイドだ。
流石に私1人では屋敷の掃除がままならなくて困っていたら、総悟様が依頼して下さったんだけど…
始めのうちは、女の子は掃除してる筈なのに色々壊しそうになったり、お父さんの方がサボったりで中々大変だったけど今はこの2人が居るのが凄く心強い。
「おはようございます銀さん神楽ちゃん、今日もお掃除頑張りましょうね!」
「お〜」
「ワタシに任せるネ!」
「よろしくお願いします。」
3人揃ったんで、それぞれ掃除用具を持って決まった持ち場に向かう。
私1人の時は1日でお屋敷全てをお掃除する事は出来なかったんだけど、この2人のおかげで毎日隅々までお掃除が出来るようになって凄く気持ちいい!
それに、総悟様の専属とお約束してしまったのに、1人でお掃除をしている間はお茶をお淹れする事もお傍に居る事も出来なくて…お食事の時間の総悟様のご機嫌が悪くてなんだか怖かった…お約束したのに守れなかったから…だよね…?
でも、万事屋の2人が来てくれるようになってから、ちゃんとお茶をお淹れする事が出来るようになった。
それは私には嬉しい事で…お仕事中の総悟様は本当に格好良いから、そのお姿を見る事が出来るのが嬉しいんだ…
「神楽ちゃん、私総悟様にお茶をお淹れしてから持ち場に向かうから…」
「ドSには水でも飲ませとけば良いアル。」
「そ〜そ〜、やれば出来る子だよ総一郎君は。茶ぐらい自分で淹れられるって。」
銀さんと神楽ちゃんが悪い顔でそんな事言うけど…
「もう!総悟様は私達の雇い主なんですよ?なんでそんなに仲悪いんですか?」
「ワタシの雇い主はミツバ姐アル。大体アイツが初めにワタシにいちゃもんつけてきたヨ!」
…そういえばそうかも…近藤さんに2人の教育を任された私が、しばらく総悟様の専属を解いて下さい、ってお願いに行った時に一緒に居た神楽ちゃんに総悟様が意地悪くダメ出しをしたのが最初だったっけ…
「それでも!総悟様はミツバ様の弟さんなんですから、仲が悪いとミツバ様が悲しみます。それにああ見えて総悟様はお優しい方なんですよ?」
私が注意すると、神楽ちゃんが呆れたように私を見る。
「優しいのはパチ恵にだけネ。そろそろ気付いてやるヨロシ、ちょっとだけドSが可哀想になってきたアル。」
「そんな事ないですよ!近藤さんやミツバ様にだって優しいし、あと…あと………とっ…とにかくお茶の時間ですから行ってきますっ!」
なんとなく気まずくなって給湯室へ向かうと、ニヤニヤと嫌な笑顔で手を振る銀さんと神楽ちゃんが持ち場へと向かって行った。
…私の気持ち…バレてるのかな…?
3
→