給湯室へ向かう途中で、執務室に向かう近藤さんに会った。

「お、パチ恵ちゃんお茶の時間だね?今日は先生来てるから二人分で頼むよ。」

「はい、かしこまりました。」

経営面でサポートをして下さっているという伊東さんは、週に1度沖田家にやって来る方だ。
土方さんによると、以前会社の乗っ取りを謀った危険人物なのだそうだけど、今は改心して総悟様の良き相談相手になっているのだそうだ。

伊東さんが来ているなら今日のお茶は紅茶かな。
お2人が好きな茶葉を用意して執務室のドアをノックすると、すぐに中から不満気な声がする。

「パチ恵、茶ァ遅ェよ。」

「すみません、遅くなりました…」

「やぁパチ恵さん、お邪魔しています。今日も良い香りだ。僕はパチ恵さんが淹れてくれるお茶が毎週楽しみなんですよ?」

そう言って下さるのはいつも私が伊東さんに緊張しているから…なんだろうな…
なんだかちょっと怖いんだもの…

「ありがとうございます。」

私がお礼を言うと、伊東さんがスッと私の横に来てとても綺麗に微笑む。
この方も綺麗な方なんだよなぁ…

「本当なら毎日この美味しいお茶をいただきたいのですけどね。どうですか?パチ恵さんウチに来ませんか?」

「コイツは俺んです。先生にだって譲れやせんよ。」

「それは彼女次第だろう?まぁ今は僕の真意を解ってくれていないようだから大人しくしているけどね、沖田君も油断していたら僕が貰っていくから気をつけていてくれ給え。」

「渡さねーし。」

お2人がニコニコと笑いながら物騒な事を言い合ってるけど…
私ってそんなに有能なメイドなのかな…?もしかして、伊東さん本気でヘッドハンティングしてくれてる…?
でも私は…きっとここでしかメイドは出来ない…

「あの、私はこちらのメイドですので…ヘッドハンティングしていただけるのは光栄ですけど他へは行けません。」

一応そう言うと、お2人がきょとん、と私を見るけど…あれ…?やっぱり冗談だったのかな…?

「あ…あのっ!それでは私戻りますのでっ!失礼します!!」

逃げるように執務室を退室すると、中から総悟様の馬鹿笑いする声が聞こえてきた。
…やっぱり気を使って下さってたんだ恥ずかしいぃぃぃ!
後でカップを回収に行った時に又からかわれちゃうよ………まぁ、いつもの事か………





執務室を退室して給湯室に戻る途中、庭師の長谷川さんが廊下をフラフラと歩いていた。
…なんだか様子がおかしいけどどうしたのかな…?

「長谷川さんお疲れ様です。どうかしましたか…?」

「あー…パチ恵ちゃん…何か冷たいモノ貰えないかなー?ずっと外で作業してたら頭クラクラしちゃって…」

焦点の合わない目でヘラリと笑ってくれるけど、それってなにかヤバいんじゃ…!?

「大変っ!すぐに何か用意しますから!!」

長谷川さんを連れて給湯室に戻って、すぐに麦茶を用意する。
ホントならスポーツドリンクとかが良いんだろうけどお屋敷には無いし…取り敢えず!

「ゆっくり飲んで下さいね?じゃないと良くないですから。」

少しづつ何回かに分けて長谷川さんに麦茶を渡すと元気になってきたから、今度はコップ一杯にお茶を淹れると長谷川さんはそれを一気に飲み干してやっと一息ついた。

「あー、生き返ったよ有難うパチ恵ちゃん!やっぱり君が総悟坊ちゃんのお嫁さんになってくれたらおじさんは安心なんだけどなぁ。」

ニコニコ笑いながらそんな事言われても…

「そんなの…総悟様は私をからかってるだけなんですから!私の事は好きなんかじゃないですから…皆さんがそういう事言ったら総悟様にご迷惑です…」

言っていて悲しくなって私が俯いてしまうと、慌てた長谷川さんが私の頭を撫でてくれる。

「そんな事無いよ!総悟坊ちゃんはパチ恵ちゃんの事本当に好きだとおじさんは思うよ!?」

「でも…総悟様は困った顔するんですよ…?」

「それは坊ちゃんの…」
「そ〜そ〜、総一郎君はドSだからパチ恵の困り顔が見たいんだよな〜、分かる分かる俺も好きだから、パチ恵の困り顔。」

そう言いながら、ニヤニヤ笑いの銀さんが給湯室に入ってくる。
やっぱり身内贔屓じゃない人から見たらそうなんだ!

「やっぱり私、からかわれてるだけなんですね…」

「イヤちょっと銀さんおかしな事言わないでくれる!?」

「え〜?俺本当の事しか言ってないし。大体パチ恵がこんなお屋敷の奥様なんてガラかよ。精々が俺の嫁ぐらいじゃね?な?」

銀さんはよくこういう冗談を言うんだけど、それは大体私が総悟様の事で落ち込んだ時なんだよな…きっと、慰めてくれてるんだよね…
いつもは死んだ魚の目をしたマダオなのに、優しい人だよね…

「な?じゃないですよ。銀さんみたいなマダオの所に嫁ぐのは嫌です。」

「え〜!?パチ恵ちゃん酷い〜」

そう言って泣き真似してるのも、この場を和ませようとしてくれてるんだろうな…

「そんな事より銀さん、掃除は終わったんですか?」

「イヤ、あの、ちょっと休憩と思ってよ〜…」

「じゃぁお茶飲んだらすぐに仕事に戻って下さいね?」

慰めてくれたお礼に、麦茶を淹れたグラスを銀さんに差し出して私はすぐに仕事に戻った。





色々しながらお屋敷のお掃除が全部終わる頃には、もう夕食の時間になる。
銀さんと神楽ちゃんは住み込みでは無いので、ここで夕食をとってかぶき町の家に帰ってしまう。
少し寂しいけど…お掃除だけをお願いしているのだから仕方ないよね。

「それじゃ私はお2人のお食事の用意をしますのでこれで。銀さんも神楽ちゃんも今日もお疲れさまでした、又明日もよろしくお願いします。」

「お〜…」

「任せるネ!じゃーな、パチ恵!」

万事屋の2人に挨拶をして、私は給仕に向かう。
やっぱり夕食もお2人は優雅だ。

その後に自分の食事を済ませて、又執務室でお仕事をしている総悟様にお茶をお持ちする。
何かを話す訳ではないけれど、真剣な表情の総悟様はとても格好良くて…そっと見つめてしまうのは大目に見て欲しい。
そうこうしている間に近藤さんがやってきて、私と交代してくれるんで私は自室に帰って休む事が出来る。

お風呂に入ってすぐに瞼が落ちてくるんで、そのままベッドに潜り込む。
あぁ、明日もお仕事頑張ろう…
気持ち良く眠りにつこうとしたその瞬間、誰かがするりと私のベッドに入り込んでくる………

「…総悟様…」

「なんでィ、まだ寝てねェのかよ。」

瞑りそうになっていた目はすっかり醒めてしまって、ジロリと睨むと綺麗な顔が至近距離で嬉しそうに笑う。

「だからっ!なんで毎日私のベッドに潜り込んでくるんですかっ!?」

「夜這いしてるって言ってんじゃねェか。」

「パワハラ反対っ!!」

そう叫んで起き上がると、すっかりパジャマ姿の総悟様…こんな早い時間にココに来るなんて珍しい。
…体調が悪くて早くにお休みになるのかな…?
そう思ってジッとお顔を見てみるけど…顔色は悪くない…よね…?

「なんでィ、じっと見つめてくるなんざ、やっと惚れやした?」

「違います!こんな早い時間にここに来るなんて、具合でも悪いのかと…思って…でも、悪いのは頭ですね。」

私が顔を逸らすと、素早く近付いてきた総悟様が顔を近付けてくる。
なっ…!?

「可愛くねェの。ツンデレか?それにしちゃデレが少ねェよ。長谷川さんから聞いたぜ?お前さんまだ俺の本気疑ってんだって?」

「本気…?」