もっと沢山逢いにゆく



真選組一番隊隊長沖田総悟18歳。
甘いマスクに真選組随一と言われる剣技を併せ持つ美丈夫で、サディスティック星から来た王子とまで呼ばれるイケメン…

「なんでさァ!」

「何がだァァァ!?どんだけイケメン重ねてくるんだ悔しくないぞコンチクショォォォ!!!」


今日も今日とて俺ァ新八くんが絶対現れるであろう大江戸ストアのタイムセールで待ち伏せをして、俺の素晴らしさを大アピールしてやった。
こんな、王子とまで言われるイケメンに愛されてんだぜ?喜びはすれ、怒るとか普通有り得ねェだろ。
それなのに、新八くんは目ェ吊り上げて俺を思いっきり怒鳴りつけてきやがるときたもんだ。

なんなんでィ、まだ俺の素晴らしさが伝わって無いってェのか?
それとも、この俺の溢れる想いが伝わってねェってのか?

あ、有り得る。新八くんはニブいからねィ。
全く、手のかかる天然ちゃんでさァ!
ま、そんな所も可愛いんだけどねィ。


「何って、俺の事をもっと知ってもらおうって魂胆でィ。」

俺がニィッと笑いかけて優しくそう説明してやったってェのに、新八君の眉間の皺は深まる一方だ。

「知ってますよ、それぐらい。」

「お?そうでしたか、そりゃぁ失礼しやした。まさか新八くんが俺の事、そんなに知っててくれたなんて思ってもいやせんでした…恋ですかィ?」

冗談っぽくそう言ってやったら、新八くんの眉間の皺は更に深くなった。
なんでィなんでィ、そんな嫌そうな顔されたら流石の俺もヘコみやすぜ?俺ァS星の王子でM星の王子じゃねェんですぜ?

「恋って何ですか、恋って。どんな嫌がらせですか全く…」

肩を竦ませて両手を上げて首を横に振るなんざ、どこのメリケンでィ。
なんか、ちっせェ旦那見てる感じでムカつきまさァ。

「アンタに嫌がらせなんかしやせん。俺ァ本当に本気で新八君に惚れてんですぜ?」

ちょっと本気出して、キメ顔で距離を詰めて新八君に囁きかける。
俺がここまですんのは新八くん以外有り得ねェんですぜ?そろそろ判りなせェ。

「ちょ…沖田さん…」

「なぁ、俺ァ良い男だろィ?稼ぎだってしっかりしてやすし、浮気なんかしやせん。」

「何を言って…」

どんどん近付いていく俺をグイグイと押して抵抗してきやすけど、顔は真っ赤ですぜ?
もうひと押しで俺の気持ち、解ってくれやすよねィ…?

「好きなんでィ、新八くんの事。愛してるって言っても構わねェ。なぁ、俺とひとつになってくれィ。さいっこーに気持ちくしてやりやすから…」

そっと俯いちまった新八くんの顔を掬いあげると、真っ赤なまま涙目になった新八くんが俺を睨みつけて、思いっきりその手を叩き落とした。

「痛ェェェ!」

「いい加減にして下さい!そんなに僕をからかって楽しいですか!?」

…え…?

「からかってなんざ…」

「言い訳は良いです!…あぁ、そうでした。沖田さんはサディスティック星の王子様ですもんね。僕が本気で嫌がれば嫌がる程楽しいんでしょうね。」

すぐに俺から距離を取った新八くんが、汚物でも見るような目で俺を見る。

「…そんなに俺が嫌ですかィ…?」

「えぇ!もう本当に!!」

吐き捨てるようにそう言った新八くんが、くるりと後ろを向いて、行ってしまう。
俺を振り返る事も無く、ズンズンと行ってしまう。

ここで呼び止めて、そんなんじゃねェって言わなきゃいけねェのに。
俺ァもう立ってんのがやっとだ。

俺ァ、新八くんには酷ェ事なんざしてねェのに。

本気で好きなだけなのに。

あんな目で見られるぐれェ、本当に本気で俺の事、嫌だったなんて。

もう、目の前が真っ暗で、何も見えねェ。

耳鳴りがして、何も聞こえねェ。

全身が冷たくて、何も感じねェ。

足元から崩れ落ちそうになってるってェのに指先すら動かせなくて、ただ俯くしかなかった。


それでも、どんな時でも俺の肩書は変わらない。
真選組の切り込み隊長だ。
そして、こんなに無防備な俺は、きっともう二度と無ェ。
その隙を見逃してくれる程、敵は甘くねェ。


その時、何も映していない筈の俺の目は、それでもあさましく新八くんの姿を映してた。

突然動かなくなった俺をチラチラと警戒するように見ていた新八くんは、ついには立ち止まり、うろんげに見つめてきた。
そして、何かに気付いて大きく目を見開いて、全力で俺に向かって駆けてくる…何が…?

「何やってんだアンタっ…!!」

凄く近くで新八くんの声がして、ビシャリと俺に暖かい何かが張り付いてくる。

…これは…俺にとっちゃ一番身近な…鉄錆の臭い………
瞬間、俺に向かってくる殺気が痛いほど感じられ、何かを考える前に動いた身体は殺気の元を斬り伏せた。

複数の攘夷浪士が俺の周りに倒れる。
俺は、襲われたのか。
新八くんが声を掛けてくれたから、俺は助かった。
『俺』は………

カチリと刀を納めた俺の腕に、暖かいモノがずしりと落ちてくる。
それは、ずっとこの手に触れたかった………


「なんで…なんで俺なんざ庇ったんでィ!?俺が居なくなった方が新八くんには都合が良いだろィ!!!」

ザックリと裂けた背中から流れる血が、白い着物を赤く染めていく。
すぐにスカーフを外して巻きつけると、少しだけ流れる血の勢いがおさまる。

早く…早く病院に…
震える手で携帯を取り出して、救急車を手配する。
新八くんが死んじまったら…死んじまったら俺ァ…!

上着も脱いで新八くんの傷に押し当てると、なんとか血は止まった。
それでも、沁み込んだ血の濃い匂いが消えなくて、身体が勝手にガタガタと震える。

「あのねぇ、沖田さん…」

突然聞こえた新八くんの声にビクリと震えて、それでも新八くんを覗き込むと、傷の痛みをこらえながら、怒った様に笑った。

「なんでって聞かれたって…知りませんよ…そんな事…体が勝手に動いちゃったんだから…沖田さんはねぇ…もうすっかり僕の知り合いなんだから…僕とだって…腐れ縁…繋がっちゃってるんだから…殺されそうになってるの…放ってなんか…おけませんよ…」

腐れ縁の知り合い…ですかィ…
俺が欲しいのはそんなんじゃねェ。
そんなモンなら全部いらねェ。

「俺の事、嫌なんだろィ。なら、俺なんざ…」

「本当のバカなんですか…アンタ…居なくなって良い人なんて…少なくとも僕の周りには居ないんですよ…バカにしてんですかアンタ…!」

痛いだろうに手を伸ばして、新八くんが俺の頬をペチリと叩く。
その手は柔らかくもない剣ダコの出来た紛れもない男の手だったけど、俺にとっては最高に暖かくて、触れたくて仕方の無かった手だ。
だから逃がさないようにしっかりと掴んで頬に押し当てた。

「アンタがそんなんだから、俺ァ新八くんを諦めらんねェんだ…」

「沖田さ…」


「怪我人は彼ですか!?」


何かを言いかけた新八くんを、救急隊員が囲む。
すぐに傷の具合を診た隊員がひどく真剣な顔になり、新八くんを救急車に運び込む。

「オイ、俺も一緒に…」

「総悟!こりゃあ一体どうしたんだ?」

俺も一緒に救急車に乗り込もうとしたってェのに、誰かが通報したのか出動してきた近藤さんに呼び止められてそのまま後片付けをさせられた。
これも仕事だし、何より俺ァ当事者だ。現場から離れる訳にはいかねェ。それに…近藤さんに言われたら断るなんて出来やしねェ。土方さんなら押し付けて病院に直行しやすがね。