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パチ恵が剣道部のマネージャーになって1か月。
始めのうちはトロくてバタバタしていたアイツも、ちゃんと仕事が出来るようになったみてェだ。
ちょこちょこと走り回るアイツは俺の癒しだけど、顔を赤くしてチラチラと土方を見てんのは頂けねェ。
初めてマネージャーだって紹介された時もあからさまに顔赤くしやがって。
土方も土方でィ、何でパチ恵の事覚えてんでィ!又宜しくな、なんて笑いかけてんじゃねェよ!単純馬鹿なパチ恵が舞い上がんだろうが…
あーあ、ガキの頃からこの俺がこんな一途に想ってるってェのに、なんでアイツは気付かねェのかねェ。
アイツに格好良い所を見せてェからちゃんと練習してるし、サボんのも止めた。
それなのに、アイツは俺の方なんざ見ちゃくれねェ。
ずーっと土方を見てやがる。
あんな瞳孔の開いた凶悪ヅラのどこが良いんでィ、俺の方が100倍色男だろ。
どーでも良いヤツラは解ってるってェのに、俺の好きな女はどうして皆、奴が好きなんだろうねィ…
溜息を吐いてパチ恵を見ると、アイツも溜息を吐いて俯いちまう。
まーた何か考えてんな…どうせ姉ちゃんや妙姐みたいに出来ない…とか考えてんだろ。
「オメェには無理でィ。トロいからねィ。」
そう言って頭を撫でてやると、顔を真っ赤にして振り向いて、俺をその瞳に映す。
…苛めたりからかったりした時だけは、俺をちゃんと見てくれるんだけどねィ…
「こっ…心を読むなァァァ!」
「パチ恵は解り易いんでィ。それに…いっつも見てっからねィ…」
ちょいとだけ想いをぶつけてやると、又赤くなった。
かーわいいツラしてんじゃねェよ。顔緩んじまう。
「なっ…なんで!?」
「んー?パチ恵がスキ………
だらけなんで、次はどんな悪戯してやろうかと思いやして。」
にやーりと笑ってやると、いつの間にか集まってた女のギャラリー共が騒ぎやがる。
…チッ…
すぐに俺の傍に妙姐が、土方の傍に姉ちゃんが来て仲睦まじ気に顔を寄せる。
銀魂高で1・2を争う美女達による虫除け作戦とか言ってっけど、こんなんで効果あんのかねィ…?姉ちゃんは別として、妙姐は中身ゴリラだからな。
あ、だから逆に。
俺がミョーに納得して顔を寄せると、嫌な感じの笑顔の妙姐が口を開く。
「何よ、総頑張ってるじゃない。」
「は?何の事だか。」
「とぼける事無いじゃない。総が今でもはっちゃんを好きなのはバレバレなんだから。」
「…別に…」
「はっちゃんもバレバレよね…アレに気付かないのは、よっぽどニブイか…浮かれちゃって周りが見えてないヤツぐらいよね…」
…やっぱり俺ァ妙姐は苦手だ…
この人に隠し事なんざ誰もできねェだろ。
「総も大分大人になったみたいだから、ちょっとだけ認めてあげてるのよ?…あの子が苦しむ姿は私も見たくないから…頑張りなさい。」
「…言われなくても…頑張りまさァ!」
俺達がコソコソ話している内にギャラリーが居なくなったんで、練習を再開する。
…本当に効果あんのかよ…スゲェな、ミス銀魂効果…
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やっぱり土方先輩は凄い人気なんだなぁ…でも!ダントツ格好良いから仕方ないよね。
黒い髪も黒い瞳もキリッと引き締まった表情も、元々の顔立ちの良さを引き立ててるし!
いつもは厳しいのに、ふとした時に見せる優しさのギャップなんて、もうズルイよね!!
たまに見せる照れた笑顔とか、見護ってくれるような優しい表情とかも大好き!!!
…そんな表情が見れるのは、剣道部のマネージャーになったからなんだよね…誘ってくれたお姉ちゃんとそーちゃんには感謝しなきゃいけないかもしれない。
それにしても…
剣道部の皆で考えたっていう『ミス銀魂が彼女だったら皆大人しくなるんじゃね?作戦』は効果あるなぁ…さっきまで剣道場のドアに群がってた女の子達、全員がっくりと肩を落として帰っちゃったよ…
そう、ミツバお姉ちゃんとうちのお姉ちゃんは去年の学校祭で決まった各学年の『ミス銀魂』だそうで。
確かに2人ともすっごい美人だしスタイルも良いし勉強だってできるしスポーツも万能で、その上優しいしお友達だって沢山居る。
…お料理は…アレだけど…
そんな男子にも女子にも人気の2人が彼女だったら群がってくる女の子達も大人しく引き下がるんじゃないか、っていうのが皆さんの考えみたいで…
さっきみたいに剣道部の入り口に女の子達が集まってきたら彼氏彼女のフリをするのだそうです。
そーちゃんとお姉ちゃんはいつもみたいに悪巧みしてるようにしか見えないんだけど、土方先輩とミツバお姉ちゃんは…すっごくお似合いで…本当の彼氏彼女みたいで悲しい気持ちになってしまった…それは私が土方先輩を好きだから、なのかな…?そーちゃんを好きな女の子達には、あの2人の事もそう見えて、悲しい気持ちになっているのかな…?そう想うと酷い事をしてるんじゃないかって思ってしまう。
「パチ恵?どうした?疲れたか?」
ぽん、と頭を撫でられて顔を上げると目の前には土方先輩!?
「なっ…なんでも…」
「顔赤いぞ…?お前は昔っからゆっくりなんだから、あの二人に合わせないで自分のペースで良いんだぞ?」
心配そうにじっと覗き込まれたら心臓爆発するよォォォ!!
なんでそんなに優しいの!?
「だっ…大丈夫!ちゃんとがんばりゅ!!」
かっ…噛んだァァァ!
私のバカァァァ!!
プッ、と吹き出した土方先輩の笑顔素敵ィィィ!!!
「頑張れ。」
そう言ってもう1回頭を撫でて練習に戻っていった土方先輩をポーっと見送っていると、ムッと膨れたお姉ちゃんをミツバお姉ちゃんが宥めながら私の方にやってきた。
「何で皆あの人の事は騒がないのかしら!おかしいんじゃない!?」
「まぁまぁ、妙ちゃんが解っていれば良いじゃない。」
「だって…なんか悔しい…」
プリプリと怒るお姉ちゃんはすごく可愛いけど…あの人って誰だろ…?
好きな人居るんだ、お姉ちゃん…
「あら、妙ちゃんは好きな人が悲しむ姿が見たいの?沢山の女の子の好意を断るなんて辛い事よ?だからと言って全員の好意を受ける事なんか出来ないし、誰の好意も受けないのは寂し過ぎるわ。」
ミツバお姉ちゃんの言葉を聞いて、お姉ちゃんが顔を上げる。
「だから、妙ちゃんが解っていれば良いと思わない?」
にっこりと笑ったミツバお姉ちゃんは、今迄見たどんな時より綺麗で可愛かった。
やっぱり憧れちゃうなぁ…私もミツバお姉ちゃんみたいな素敵な女性になれるように努力しよう!
そうしたらきっと、土方先輩の隣にも似合うと思うんだ…
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久し振りに部活が早く終わった日。
そういやぁ今日は…
「おい、総悟。今日…志村姉妹を送んの、オマエ一人でも良いか?」
「別に…毎日一人で十分なんですけどねィ…」
『パチ恵には見付からないように抜けて下せェ。』その言葉が出なかった。
今迄上手く誤魔化してきたのは、アイツの悲しむ顔が見たく無かったから。
その反面、もう良いんじゃないかとも思っちまう。土方が駄目だって判ったら、俺を見てくれるかもしれねェって想っちまう。
ほわほわと甘ェ恋してるアイツが可愛くて、なんとかしてやりたいなんてガラにもねェ事思ったり。
無理矢理傷付けてでも俺のモノにしたくなっちまったり。
俺自身、一体どうしたいのかなんて、さっぱり判らねェ。
玄関で待ってる筈の志村姉妹の元に向かうと、そこにはご機嫌な近藤さんも居た。
…嫌な予感がする…
俺はその予感に従って全力で走った。
その勢いのまま、パチ恵の手を掴んで走り去る。
「え!?ちょ…そーちゃんどうしたの!?今日は部長さんも一緒に帰るって…」
「近藤さんは良いんでィ。妙姐狙いなんだ、気を利かせ…」
「おーい総悟どうした慌てて!今日はトシがミツバさんとデートだから代わりに俺が…」
「え…デート…?」
…嫌な予感的中でィ…
立ち止まっちまったパチ恵を力一杯引いたってェのに、呆然としたパチ恵は俺の力なんかじゃピクリとも動かねェ。
だから、俺は俺に出来るただ一つ。
冷たくなったパチ恵の手を、ただ強く握りしめた。
「えっと…土方先輩とミツバお姉ちゃん…」
「なんだ、パチ恵ちゃん知らなかったのか?」
「アイツら本物のラブラブバカップルだぜー?」
デリカシーの欠片もない剣道部員達が、ギャハハハと下品に笑いながら、ズバズバとパチ恵に斬りつける。
俺が出来る限りの殺気を込めてそいつらを睨みつけても、馬鹿共は気付かねェ…畜生…
「あ…なんだ、そうだったんですか!全然気付かなかった!すごい、美男美女で羨ましいー!お似合いですよね!!」
ヘラヘラと笑ってパチ恵がそんな事言いやがる!
コイツ、なに我慢してんな事言ってんでィ…俺の手、ギュウギュウ握ってるくせに…
「そう言う事でィ。妙姐と近藤さんもデートでさァ。邪魔しねェように俺らは帰りやすぜ。」
そう言って手を引くと、今度はあっさり俺についてくる。
「えっ!?本当ですか妙さん!?俺とデっ…デート…!?」
「なんで私がゴリラと!?」
俺がジッと目で訴えてニヤリと笑うと、妙姐は顔を真っ赤にして大人しくなった。
テメェだけがなんでも知ってると思うなよ?
それに、今日は、今は、こんな状態のパチ恵を俺以外の誰にも任せたくねェ。たとえそれが肉親でも。
「…ケーキの喰い放題で良いですかィ?今月小遣いピンチなんでィ。師匠のCD出たからな。」
「…競争だよ…?」
「おう、負けやせんぜィ。」
「私だって負けないから…」
そう言ったパチ恵は、泣きながらも、物凄ェ量のケーキを喰った。
俺は、産まれて初めて、寝る前に胃薬を飲んだ。
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