ともだちよりも
私こと、銀魂高校1年Z組志村八恵の朝は忙しい。
それというのも母の居ない…というか、両親の居ない私は毎朝姉の分と自分の分、2つのお弁当を作らなければいけないから。
その上、普通の女子高生のハズの私のお弁当は、おかずをご飯の倍以上詰めなきゃいけない運動部の男子並みの大きさだから…詰めるのに時間がかかるんだ。だから最高スピードでお弁当を詰めて家を出る頃には遅刻ギリギリの時間になっちゃって、私はいつも駅までの道を走って通ってる。
今日もお弁当を詰めて早足で玄関に向かっていると、途中でドアが開く。
「はっちゃん今日も早いわね…気を付けて行ってらっしゃい。」
そう声を掛けてくれるのは、かぶき女子高等学校3年生の志村妙。
美人で頭が良くてスポーツも出来る、私の自慢のお姉ちゃん。
「うん!あ、でもお姉ちゃんも気を付けてね?最近ゴリラ似のストーカーが出る、っておりょうさんに聞いたよ?」
「あぁ、それは大丈夫よ。あの人は私が本当に嫌がる事はしないから。」
そう言ってうふふと笑うお姉ちゃんはいつもに増して綺麗だ…その人(?)の事、そう悪い気はして無いのかな…?
っと!遅刻遅刻!!
「じゃぁ行ってきます!」
笑顔で手を振ってくれるお姉ちゃんに手を振り返して一目散に駅まで走ると、丁度電車がやってきて上手く乗りこめた。
はぁー…コレに乗れたら少しゆっくり出来るよー!
まだ空いている車内の空席に、私はちゃっかりと座りこんだ。
本当は私もお姉ちゃんの行ってるかぶき女子に行ってれば、朝もゆっくり出来るんだけど…
完璧なお姉ちゃんと比べられる事に、地味な駄眼鏡って呼ばれ続けてきた私は苦しくなっちゃって…高校進学を期にちょっとだけ逃げたんだ。
誰もお姉ちゃんと私を知らないような遠い高校に…
でもっ!凄く後ろ向きな理由で選んだ高校だけどっ!!
今私は銀魂高校を選んで良かったって心から思ってる。
それは大好きなお友達が沢山出来たから。
自分で選んだ事だけど、でも知ってる人が誰もいない銀魂高校で、私は入学してからしばらくお友達が出来なくて、学校に馴染む事が出来ないでいたんだ。
教室でもどこでもいっつも1人で…寂しくて、裏庭に逃げ込んで泣いちゃってたりもしてた。
でも、ある日いつものように1人でこっそりお弁当を食べていたら、私のお弁当を覗き込んでくるすっごく可愛いグルグル眼鏡の女の子、神楽ちゃんが現れて…おかずを分けてあげたらその日から私達はマブダチになった(らしい)の。
そうしたら、その子のお友達の綺麗でおしとやかな女の子、そよちゃんも私とお話してくれるようになって、その後おかずを増やした私のお弁当に、又1人無口で綺麗な女の子、信女ちゃんが忍びよって来て…おかずを分けてあげたらその子ともお友達になれたの。
すぐにその子達のケンカ友達ともお友達になって、今私は毎日がすっごく楽しいんだ!
電車が学校の最寄り駅に着いて改札を出ると、いつものようにチリン、と自転車のベルが鳴る。
「パチ恵ェ!おはよーごぜーやす!!」
「沖田君、おはよう!」
私に向かって爽やかに手を振る綺麗な茶髪のイケメンは、同じクラスの沖田総悟君。
ドS王子の名を欲しいままにする、私のお友達の1人。
神楽ちゃんと信女ちゃんのケンカ友達だからって話すようになったんだけど、本当は沖田君がいちばん初めのお友達だったんだ…
お友達が出来なくて寂しくて悲しくて裏庭で泣いていた時に、そこでサボってお昼寝していた沖田君が私に話し掛けて笑わせてくれたんだ。
この学校で初めて私に話し掛けてくれて、その上笑わせてくれて…凄く凄く感動した事は、きっと一生忘れないと思うよ。
「なーにぼーっとしてんでィ。さっさと後ろ乗りなせェ。」
「うん!いつも有難う!!」
早速自転車の後ろに乗り込んで荷台に掴まると、自転車はスーッと発進する。
イケメンの沖田君が乗ってるのが不思議な古いママチャリだけど、後ろに乗せてもらえる私にとってはすっごく乗りやすくて楽なんだ、このサド丸21号は。
駅から学校までの道のりは、2人でたくさんおしゃべりできてとっても楽しくて!私はいつもあっと言う間に学校に着いてしまうんだ。
「なーなー、今日の昼飯何でィ?」
「えっとねー、ミニハンバーグと皮なしウインナーと卵サラダ!」
「おー!俺ミニハンバーグは好物でさァ。」
そう、私のお弁当のおかずが男子高校生並なのはこのせいなの。
神楽ちゃんや信女ちゃんや沖田君(実はこっそりそよちゃんも)がつまみ食いするから。
沢山入れてこないと私のおかずが無くなっちゃうんだもん…
「今日も銀八っあんが乱入してくるんじゃねェだろうな…」
「えー!?これ以上おかず無くなったら私食べられないよ!!」
「そこは任せなせェ。俺とチャイナとドーナツ女で護りきってやらァ。」
「頼りにしてます。」
担任の坂田先生までがたまに私のお弁当を狙ってくる事が有って、その度にお友達みんなで守ってくれるんだ!
皆優しいよね!!
「そーいや最近、近藤さんが新しい恋に目覚めやしてねィ…」
「わぁ!今度は上手くいくと良いね!」
「イヤ、それが又ヒデェ女なんでさァ。近藤さんが近付くと殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたりするんですぜ?あれァゴリラでさァ!ゴリラ女でさァ!!」
「…ゴリラって…女の子にそんな事言っちゃダメだよ!…でも、近藤さん凄く格好良くて良い人なのに…その女の子、見る目無いね!」
「だろィ?ああいう女は見た目だけで土方とかに惚れるんですぜ?マヨキチなのにな。」
「あはは!そうだね、土方さんイケメンだけど食べてるのは犬の餌だもんね。」
「そーなんでィ!パチ恵良っく判ってんじゃねェか。」
そう言ってニヤリと笑った沖田君が後ろを振り向くんで、私は慌てて前を向くようにお願いした!危ないよ!もう!!
あ、近藤さんと土方さんは沖田君の剣道部の先輩で、2人とも男らしくて格好良い人達だよ?
恋バナかぁ…私も素敵な恋をしてみたいよねー…
そう言えば…
「沖田君は?近藤さんの応援も良いけど、沖田君の好きなコとはどうなってるの?」
「んー…」
見た目は完璧イケメンの沖田君は、今片想いをしてるんだって。
サディスティック星の王子様だけど顔だけは良い人だから、彼女になりたい女の子は沢山居そうなのに…そのコは沖田君の事好きな訳じゃないんだって。
たまに私に相談とかしてくるんだけど、まだ恋なんかした事の無い私にそんなの解る訳ないよね。
「パチ恵ー、俺結構ソイツに優しくしたんですけどねィ…鈍すぎてぜんっぜん伝わってねェみたいなんでさァ…」
「そうなの?S王子が優しかったらすぐに解りそうなのにねぇ。」
「他になんかねェんですかィ?一発で俺に惚れる方法とか。」
沖田君無茶振りするなぁ、私がそんな百戦錬磨に見えるの?この人…
「…私がそういうの解ると思う?もう告白した方が早いんじゃない?」
「俺ァ打たれ弱いSなんでィ!振られたら絶対ェ立ち直れねェからな。俺を好きにさせて向こうから告らせようって作戦なんじゃねェか。」
「えぇぇ…沖田君見た目はイケメンだから、大体の女の子は告白されたら好きになっちゃうんじゃないの?」
「えぇぇ…」
むぅっと下唇を突き出してむくれる横顔はちょっと可愛いし。イケメンで可愛いなんて無敵なんじゃないの?
そんな人でも恋愛するのは大変なんだと思うと、私が恋愛成就するにはもっともっと大変なのかなぁ…なんて逃げ腰になっちゃうよね。
でも、もっと真面目に考えなくちゃ!
沖田君は大切な友達だもんね!幸せになって欲しいよ!!
「うーんと…何かプレゼントするとか…とりあえず友達になって沖田君の良い所を沢山知ってもらうとかは?」
「…もう友達にはなりやした…」
「そうなの?じゃぁきっとそのコ、もう好きになってるよ沖田君の事!」
うん、絶対!
友達になった沖田君はドSなんかじゃなくて優しいし面白いし、嫌いになんかならないよ!私が保証する!!
「…パチ恵は…?パチ恵なら俺が告ったら俺の事好きになってくれやすかィ…?」
なんだか凄く真剣な顔で沖田君が言ってるけど…
心を決めたのかな?
だったら私も思いっきり応援したい!
「うん!私沖田君の事大好きだよ!だって大切なお友達だもん!!」
「違ェよ!友達じゃなくて恋人として好きになれるかって聞いてるんでィ!!」
「…え…?…っと…?」
いま…何言われたの?私…
こいびと…とか沖田君言った…?
…え…?
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