君の笑顔に恋してる
それは空が青く高く、美しく晴れたとある日。
碧く萌える木々と可憐な桜吹雪が舞い散る中、故郷を離れ旅立つ屈強な男達の一団があった。
皆、これからの未来に向け期待に胸を膨らませ、はしゃいで強面を笑顔へと綻ばせていた。
その中に、不釣り合いな小さな子供達が2人。
決して離れまいと必死に手を握り合いながら、男達の後を早足に着いていた。
それは一見人攫いの悪い男達と攫われた子供のように見えるものだったが、子供達もその一団の仲間なのだ。
その証拠に、2人の顔も男達と同じくまだ見ぬ未来に期待して笑顔で輝いていたのだから…
綺麗な髪色と顔をした男の子は、嬉しくて堪らないという顔を、それでも真剣なモノに変えて隣の子供をしっかりと見つめた。
「江戸がどんなあぶない所だって、パチ恵の事は俺がぜったいまもるからな!」
そんな男の子を団栗眼で見つめた黒髪で可愛らしい顔立ちの女の子は、負けじと顔を真剣なモノに変えて隣の子供をしっかりと見た。
「じゃぁ、そーちゃんの事はぱちえがぜったいまもる!」
そう言い合ってにっこりと笑い合った子供達は、今度は後ろを振り向いて思いっきり手を振った。
もちろん手はしっかりと握り合ったまま。
2人が振り向く先には、子供達と面差しの似た、しかし美しい少女が2人。心配そうにその集団に向かって大きく手を振っていた。
その2人は子供達の姉達で、沖田ミツバと志村妙。
もしも、万が一にでも。
彼らの夢が破れてしまった時には。
都会で疲れ切ってしまった時には。
いつでも帰って来る事が出来る場所を守る為、敢えて故郷に残る事を決めてただ笑って愛する者達を見送る優しくも強い女性達だった。
「あんなにはしゃいでるけど、そーちゃん大丈夫かしら…ちゃんとパチ恵ちゃんを守れるのかしら…?」
「大丈夫。イザとなったらはっちゃんが総を守るから。何より…あの人達がついているんだもの。」
心配そうに首を傾げるミツバに妙が笑顔で言いきると、ハッと目を開いたミツバも笑顔に戻る。
「そうね…あの人達なら子供達を守ってくれるわよね…」
にっこりと笑い合った美女2人は、皆の門出を祝うように晴れ渡る空を見上げ、彼らの旅路の無事を祈るのだった…
◆
あの日から5年。
江戸へと旅立った彼らは警察庁長官である松平片栗虎に拾われ、今や対テロ用特殊部隊・武装警察真選組として日夜江戸の平和を護っている…多分…
江戸でも大きな部類に入るホテル池田屋。
その大きさゆえに、其処は攘夷浪士の集会に度々使われている、との噂がたっていた。
そして今日、地道に情報を集めていた監察が、その池田屋で攘夷浪士の大掛りな集会があるとの情報を掴み、黒服の集団…真選組がその周りを囲みつつあった。
『全部隊、池田屋周辺に配置完了しました。監察の情報では、標的はあの桂一派のようです。』
「分かった。館内には先に11番隊を潜入させてある。正面からは1番隊を斬り込ませるから、2部隊が暴れている隙に乗じて出来るだけ捕縛しろ。」
『ゲッ…大丈夫なんですか?今回、殲滅戦じゃないですよね…?』
「ガキの暴走止めんのが大人の技量だろうが!」
『はーっ…了解。王子様とお姫様が暴走する前に出来るだけ捕縛します。』
深く溜息をついた無線の先で、咥え煙草の男・真選組鬼の副長土方十四郎も深く溜息をついた。
「…オラッ、総悟行くぞ。オメェがさっさと斬り込まねぇとお姫様が暴走すんぞ?」
土方が話しかけた先には、ふざけたアイマスクを付けて昼寝をする栗色の髪の男・真選組1番隊隊長沖田総悟が居た。
眠そうな目をしぶしぶ開けて土方を見る目は面倒そうにしてはいたが、どこか焦っていた。
「…何でよりによって11番隊なんか行かせたんでィ…」
「速やかに潜入して、尚且つ無事に帰って来られそうなのがアイツらだけだからな…お前が護るんだろ?」
「…面倒くせェ…サッサと行ってサッサと帰ってきまさァ。」
そう言いつつ走り去る沖田は誰が見ても急いでいるのが丸分かりで、土方はついつい口端を緩めてしまった。
その剣において天賦の才を見込まれて隊長などという大役を任されてはいるが、彼はまだ年若いのだ。
ポーカーフェイスを気どっていても、どうしても態度の端々に子供っぽさが出てしまう時がある。
それは、子供を託された大人達にとって、己を戒め奮い立たせる事が出来る数少ないチャンスで…
土方は改めて子供達を守り導く事を誓い、あの美しく高い空と舞い散る桜を想うのだった。
◆
「御用改めである!真選組でーい!」
池田屋の正面玄関からなだれ込む黒服の一団。
手に手に光る刀を構え、逃げ出そうとする男達を迎え撃つ。
「斬り込み隊だと!?あの髪は…ドS王子だ!ドS王子が来たぞー!!逃げろ殺される!!!」
沖田を見付けた攘夷浪士達は、すぐに踵を返しホテル内に逃げ込み始める。
しかし、その行く手を阻むように現れた黒服の集団は、斬り込み隊とは少し趣が違った。
先頭に立つのは丈の長い上着の前をしっかりと止め、隊長の証のスカーフを豊かな胸の前にふわりとたなびかせたロングブーツの少女だった。
黒髪を三つ編みに纏め、キラリと光る眼鏡がその素顔を隠しているのだが、それでも尚可愛らしい少女がその黒服でこの場に居るのは酷く違和感が有った。
だが…
「御用改めである!真選組です!」
彼女がそう言い放った瞬間に、その場の空気が凍りつく。
「女…?真選組の女と言えば………冷徹姫だァァァ!冷徹姫が出たァァァ!!殺されるゥゥゥ!!!」
「失礼な事言うなやァァァ!ヒトを地獄の番人みたいに!!大人しくしてたら捕まえるだけですからァァァ!!!」
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