攘夷浪士にまでも綺麗に突っ込みを入れると、後ろに控えた部下達にぽんぽんと肩を叩いて宥められる。
そんな彼女は真選組11番隊隊長志村八恵。通称パチ恵。
その頭のキレと度胸の良さ、何より剣の鋭さを見込まれて、遊撃部隊である11番隊の隊長を任されている。
その部隊は初め、恐ろしい程の剣の腕を持ちながらも性格に難有りな隊員を集めた問題だらけの隊だった。
隊長は少女で問題児の集まりで…すぐに無くなると誰もが思っていた。
しかし、11番隊は今では1番隊と並ぶほどのエリート部隊となったのだ。
いつも明るい太陽のような少女の笑顔が、自分達を必要とし慕ってくれる暖かい存在が、荒くれた男達の心を掴んで離さなかったから…

「だっ…駄目だ…前門のサディスティックプリンス、後門のコールドプリンセス…最凶コンビに挟まれた…」

「鬼の副長ですら、最凶コンビには手出しできないらしい…」

「ダメだ…俺達もう死ぬんだ…」

「せめて人間らしく死にたかった…」

2人の出現に恐れ慄きその場に膝をつく攘夷浪士達。
その姿を見て少年はニヤリと笑い、少女は顔を引きつらせて怒りを抑えていた。
それでも突進してくる数人を迎え撃つ沖田とパチ恵は、まるで2人で1人のように確実に着実に攘夷浪士達を打倒していく。

常に真面目なパチ恵と常に不真面目な沖田。
沖田がサボっている所をパチ恵に怒られているのが、真選組では『いつもの風景』なのだ。
だが、一旦任務となると流石幼馴染と言うべきか、この2人のコンビネーションは抜群で、どんな敵をも打ち倒せるのだった。

「すっげぇコンビネーション。」

「普段は水と油みたいなのにな。」

膝をついた攘夷浪士達を次々と捕縛する1番隊と11番隊の隊士達は、隊長達の動きをのんびりと眺めながら軽口を叩いていた。
いつもなら姫に従う騎士のような11番隊の猛者達も、沖田が居る任務の時には大切な我らが隊長を全てあの年若い隊長に任せる事にしている。
それに2隊での任務が多い為、隊士達はすっかり仲良くなっている。お互いの情報交換の為にも、今この時の軽口は後々の為になるのだ。

「だから!抵抗しないでくれたら殺さないって言ってますよねェェェ?」

「おいおいパチ恵、これ以上オッサン達を怖がらせんの止めなせェ。オメェの顔が怖ェからオッサン達腰抜かしてんじゃねェか。」

「煩い!そりゃ沖田隊長はイケメンだから怖がられませんよねぇーウラヤマスィー」

「…なんで『沖田隊長』なんでィ…そーちゃんって呼べィ。」

「職務中ですから。それにもう子供じゃないんだから、そんな呼び方どうかと思いますぅー」

「…呼べィ…」

口喧嘩しながらも着実に攘夷浪士達を黙らせていく2人の隊長に、部下達は感心しつつも呆れていた。
戦闘の最中でもチャレンジを忘れない1番隊隊長の頑張りと、ソレに全く気付かない11番隊隊長の鈍さに。

「…俺、なんか沖田隊長が可哀想になってきた…」

「志村隊長、アレ沖田隊長の恋心に気付く日は来んのか…?」

「襲われでもしない限り分かんないんじゃね?」

「隊長寝込み襲っちゃえば良いのに。」

「イヤイヤイヤ、ウチのパチ恵ちゃんはまだ子供だから。そんな事、いかな沖田隊長でも許しませんよ?」

「じゃぁお前なんとかしろよあの鈍感眼鏡っ娘!ウチの純情隊長打たれ弱いんだからな!!」

「無理。」

いつの間にか恋バナに花を咲かせながらも、次々と倒されていく者達を隊士達が結構なスピードで捕縛していると、遂には最後の1人が倒された。

「呼びませんー」

「呼べよ!」

「イヤですぅー沖田隊長ぉー」

「呼ばねェとココでちゅうするぞ!」

「なんでよ!?やめてよっ!」


「…止めんのは二人ともだ。」


遂には掴み合いまでしていた2人に、拳骨が落とされる。
やっと内部の様子を見に到着したと思ったら、運悪く2人のじゃれあいを見付けてしまった鬼の副長土方の仕業である。

「総悟だけならまだしもパチ恵まで何遊んでんだァァァ!ここ以外はまだ落ち着いて無いんだ仕事しろォォォ!!」

血管が切れそうな勢いで2人を怒鳴りつける土方を、その場に居た全隊士が同情の眼差しで見つめた。

「チッ…土方さんは煩ェんだよ。今大事な話を…」

「失礼しました副長!11番隊は私に続け!」

ブツブツと文句を言う沖田を放置してすぐに仕事モードに戻ったパチ恵は、部下を引き連れ走り出した。
その切り替えの早さも隊長を任された要因のひとつなのだ。

「…邪魔しねェで下さいよ土方さん…」

「そういうのは屯所に居る時にしろ。今は捕り物の最中だろうが!」

「…チッ…1番隊は俺に続けィ。」

大層不満顔ながらも、沖田と1番隊は11番隊とは別方向へと走って行った。


流石に桂小太郎を捕縛する事は叶わなかったが、その日の大捕り物は大成功に終わった。
当初殲滅戦と言われていたそれは攘夷浪士の大量捕縛に終わり、双方の死者は1人も出なかった。





「お、パチ恵!明日非番だろィ?デートしやしょうデート!」

あの捕り物からお互い無事に帰れた屯所への道で、俺はなんとかパチ恵を見付けて三つ編みを引っ張ってその歩みを止めた。

「明日沖田隊長は非番じゃないですよね?ダメです。それに明日は私、神楽ちゃんと約束してますから。」

「チャイナ!?何でアイツと仲良いんでィパチ恵…」

チャイナってのは、かぶき町で胡散臭い万事屋ってのをやってる銀髪の旦那の所の従業員だ。
戦闘民族として有名な夜兎族って天人の小娘で、俺にとっちゃ銀髪の旦那と共に目の上のタンコブ的存在だ。

「神楽ちゃん可愛いですよ?妹みたいで。それに、私の作ったご飯美味しいって食べてくれるんですもん。」

嬉しそうにそんな事言ってっけど俺だって!

「…俺だってパチ恵の飯最高に旨いって思ってまさァ…でもパチ恵非番の時ぐらいしか作ってくんねェじゃねェか…俺と非番全然被んねぇし…土方の陰謀なんじゃねェのか!?」

「それはそうだけど…」

俺が文句を言うとパチ恵が困った様に土方を見る。
マジで陰謀なのかよ!?

「お前らとチャイナ娘が揃ったら町が焼け野原になんだろうが!どんだけ請求書来てると思ってんだ!?」

「私が止めても沖田隊長神楽ちゃんとの喧嘩止めませんよね?年上なのに。」

「譲れねェんだよ!パチ恵だけは!!それに万事屋の旦那は危ないんでィ!!」

大体いつもチャイナが俺からパチ恵を奪うんじゃねェか!
その上万事屋には銀髪の旦那も居るんですぜ?
あの人ァ絶対パチ恵の事狙ってんでさァ!男の勘で判るんでィ!!
そんな危ねェ所にパチ恵を行かせるなんて、俺に出来る訳無ェだろ!!

「沖田隊長も過保護ですよね…大丈夫ですよ?神楽ちゃんは優しいコなんだから。銀さんだって、今は、良い人ですよ?マダオだけど。」

そう言って笑った顔は久し振りに見た可愛い顔だけど…
でも心配だって男心も、そろそろ解れよ鈍感パチ恵…