大捕り物が無事終わった浮かれ気味の屯所内を、風呂上がりの俺ァフラフラと歩いている。
折角の自由時間だ、少しでもパチ恵と一緒に居てェじゃねェか。
何処行っちまったのかねィ…風呂でも入ってんのか…?

暫くウロウロしてっと、食堂の方がざわついてる。
何だ?何かあったのか?

気になって俺が近付いてくと、前から嬉しそうに両手にアイスを持ったパチ恵が歩いてくる。
…風呂あがりなのか、Tシャツ短パン姿で………

って何やってんでィ!アイツ!!

今迄出した事無いぐれェのスピードで駆け寄って、小脇にパチ恵を抱えてそのままのスピードでその場を離れる。
そのまま走って俺の部屋に飛び込んでスパーンと襖を閉めると、小脇に抱えられたままのパチ恵が呑気に俺を見上げてアイスを差し出した…

「そーちゃんの分のアイスも持ってきたよ。お風呂上がりに食べるよね?」

そう言って得意気に俺の前に出したのは、キャラメル味…

「喰うけど…パチ恵!テメェなんて格好でうろついてんでィ!?真選組なんざ狼の群れなんですぜ?そんな無防備な格好でフラフラしてたら、頭っからパクッと喰われちまいやすぜ!!」

そう怒鳴って洗ってある俺の甚平を頭から被せると、キョトンとしたパチ恵はもぞもぞとソレに手を通す。よし。

「えー?私強いよ?それに、私を襲うなんて物好きはココには居ないよ。」

思いっきり真顔でそんな事言うんじゃねぇよ!此処に!目の前に居らァ!!

「…俺は襲う…」

「そーちゃん、気を使ってくれなくても良いよ…それよりアイス溶けちゃう!早く食べよう?キャラメル味少しちょうだいね?チョコ味あげるから。ね?」

「…おう…」

キャラメル味は少しだけ苦くて甘い。本当は俺、バニラ味が好きなんですぜ?
でも、子供の頃から絶対パチ恵はキャラメル味と何かで迷うから…パチ恵が両方喰えるように俺はいつもキャラメル味を選んでんだぜ…?

「チョコ味美味しいー!はい!そーちゃんも食べて?」

無理矢理俺の口の中に突っ込んでくるのはアレだけど、一応コレ『はい、あーん』ってやつだから我慢してやらァ。
それに…アイス喰ってる時はパチ恵も幸せそうに笑ってるんだよな…

「キャラメル味も喰えィ。」

お返しで俺がスプーンに乗せたアイスを口に突っ込んでやると、ぐぼぉ、とか変な声出してむせやがった。

「ぞーぢゃんんん!…ゲフゲフ…奥まで突っ込み過ぎでしょうがァァァ!死ぬかと思ったわァァァ!!」

涙目で俺を睨んでくる顔も好きですがねィ…やっぱパチ恵は笑ってる顔がいちばんなんでィ…

「えー?奥の方が気持ちいんじゃねェの?」

「むせるわ!えづくわ!!本当にドS王子な!!!」

折角セクハラしたってェのに気付きもしねェ。
それに、やっぱり俺には怒った顔ばっかじゃねェか…昔は花が綻ぶような可愛い顔で笑ってくれたってェのによう…


「パチ恵ー!総悟ー!飯食いに行くぞ飯…あれ?オマエらアイス食っちゃってんの!?食後に皆で食おうと思ってたのにぃー…」

俺達を飯に誘いに来た近藤さんが、もうアイスを喰ってんのを見付けて口を尖らして拗ねちまった。
局長なんだからアイスぐらいでブーブー言うねィ。

「だってお風呂上がりに食べると美味しいもん。はい、勲兄ちゃんもあーん!」

そう言って近藤さんにアイスを食べさせてるパチ恵は昔みたいな可愛い笑顔で…あれ…?

「お、美味ーい!」

「何やってんだ?早く飯喰いに行けよ?」

「あ、トシ兄もあーん!」

通りがかった土方にまでアイスやる事ねェよ!
…って…土方にも笑顔だし…

そういやァ11番隊に居る時も他の奴等と居る時も、大体パチ恵は笑ってる気がする…
俺と居る時だけ…困った顔だったり怒った顔だったり…

ムカついたんで土方にバズーカを撃ち込んでやると、パチ恵は又怒った。
何なんでィ!?

「パチ恵は何で俺には笑ってくれないんでィ!?」

「そーちゃんが怒られるような事ばっかりするからでしょうがァァァ!」

怒ってない時だってあんまり笑ってなんざくれねェくせに…
俺の事なんざ…パチ恵は…

「…パチ恵は…俺の事嫌いなんで…?」

「はぁ?訳分かんない事ばっかり言ってるそーちゃんはキライです!」

「…そーですかィ…そりゃ…知りやせんでした…」

嫌いって言われちまった…嫌い…パチ恵は俺の事嫌いだったのかよ…


フラフラと部屋を出て皆で食堂に行って味も分かんないまま飯を腹に詰めて部屋に戻ってつっかえ棒で部屋に閉じこもる。

「え!?ちょっとそーちゃんソコ私の部屋ァァァ!何で閉じこもったの!?中で何やってんのォォォ!?」

バンバンと襖を叩いてくるけどパチ恵の部屋の襖が他の部屋よりずっと頑丈なのを俺ァ知ってんでィ。
馬鹿な隊士がパチ恵を襲わないようにって近藤さんが考えてんだ。
それに両隣が俺と土方さんだからな。よほどの命知らずでも挑もうなんて考えもしねェだろ…

バンバンと煩ェ中、部屋の真ん中に体育座りしてぼんやりと考える。
俺がパチ恵に嫌われてたなんて知らなかった。
ガキの頃から好かれてっと思ってたのに。
そんな事知っちまったら、明日からどんな顔してアイツの前に立ちゃ良いんでィ…
イヤ、アイツの前にツラ見せて良いのかも判かんねェ…
俺ァどうしたら…


暫く考えてっと、いつの間にか外は大人しくなってた。
パチ恵は…どっか行っちまったのか…?
そっと気配を探ると、隣の部屋からパチ恵の気配がする。
あぁ、俺の部屋に居んのか…

こんな短い間だってのに、俺ァ嫌われてるってェのに、もうパチ恵の顔が見たくて声が聞きたくて堪んねェ。
怒った顔だろうと文句を言う声だろうと、近くにアイツが居なけりゃ俺ァ駄目なんだ…
俺が部屋から出たら又文句言いに来るんだろ?
そしたら癪だけど謝ってやらァ…そしたら又…話してはくれんだろ…?