スッと頭が冴えて、敵を認識する。
あぁ、ワタシの首が、切れている。
だが、まだ離れては、いない。
刀の刃に沿って、すぅっと振り向く。まあるく首に、赤い線が走る。
それと同時に腕も伸ばす。
刀の柄に手が届いた所で、ぐっと握る。
突然の事に一瞬動きが止まった男の手から、刀を奪う。
はっ…他愛の無い…
「貴方達はワタシの大切な者を傷付けた。傷付けてしまった。」
すぅっと見渡すと、男達の顔が歪む。
「きっ…貴様…何者だ………!?」
「ワタシですか?ワタシはただの一市民ですよ。」
にこり、と笑うと、男が、ひぃ、と叫ぶ。
失礼な人だ。
ちょっと刀を向けただけじゃ、ないですか。
にこりにこりと笑いながら、刀を振り下ろす。
「たっ…たすけてくれ!」
ばきり、ごきりと、骨のひしゃげる音がする。
「いやだ!しにたくない!」
腕に、ぐじゃりと潰れる感覚が伝わる。
「いたい…いたい…」
男達の醜い悲鳴がこだまして、皆、大人しくなった。
なんとたわいのない事か…もう少し楽しませて欲しいものだったのに…
ワタシの大切な…大切な者を奪ったというのに、この程度で済むと思っているのか?
だがまぁ、死人に鞭打つ趣味は無い。
人の命のなんと儚い事か………
今この場で動くモノは、ワタシだけだ。
ワタシの大切な者はもう…居ない。
落してしまった眼鏡を拾い、ずるりずるりと刀を引きずって、眠るように倒れている沖田さんの元まで歩み寄る。
せめて、逝く前にもう一度…あの優しい顔が見たいのだ。
あの優しい手を握りたいのだ。
傍らに跪き、そっと抱き上げる。
あぁ…綺麗な顔だ…苦しむ事は、無かったんだな…
待っていて…ワタシもすぐに…
首に刀を当てて、力を込める…
「あり…?ココは天国かィ?新八似の天使がお迎えに来てらァ…」
軽口をたたいていても、刀の柄を握る手は酷く力強い。
まさか…ずっと気付いていたのか…?
「…沖田さんっ!?沖田さん生きてるっ?生きてるのっ!?」
ガシャリと刀を捨てて、膝の上の沖田さんを抱き上げると、イテテ…と悲鳴をあげる。
沖田さん…生きてる…生きてるよっ……
傷に触らないように気を付けながらそっと抱き締めると、ぎゅうと抱き返してくれる…良かった…
「アイツらどうした…?新八…」
沖田さんが悲しそうな顔で僕に眼鏡をかけてくれる…
沖田さんからも、見えるよね…あの人達の死体……
「だって…沖田さんが殺されたと思ってっ……僕…僕……っ…」
「…オメェには…殺らせたくなかったんだがねェ……」
するりと頬を撫でられて、手首を掴まれる。
…僕は…捕まっちゃうのかなぁ…?
「沖田さんになら…」
僕が覚悟を決めて、沖田さんの手を取ると、彼らの方から呻き声が聞こえる…
「あ…」
「おぉ、生きてんじゃねェか。新八ィ、コイツらお縄にすんの、手伝ってくれィ。」
「…はい…」
僕が3人を手錠と縄で一纏めにしている間に、沖田さんが携帯で真選組に連絡を取って、引き取りに来るように手配をする。
それにしても…さっきの僕は何だったんだろう…?
殺してしまったと思ったのに、殺さない余裕まで有ったのか…?
普段の僕では、考えられないけど…あの時は、妙に頭が冴えて…冷静になれた…冷酷になれた…
あの時の僕は…人をいたぶるのが、楽しくて仕方なかった…
そして、それを為し得る力とスピードと技が有った…
僕は…僕が怖い…
沖田さんが絡むと、僕は僕でいられなくなる……
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