俺の大切なモノ



俺の母さんが死んだのは、俺が中3の時だった。
母さんはいわゆる愛人で、俺はどこだかのでっかい会社の社長の息子なんだそうだ。
だからって言って、俺達が日陰の身で、母さんが貧乏暮しの末心労で死んだって訳じゃない。
むしろ俺の毎日は楽しくて、経済面では何1つ苦労する事は無かった。
母さんだって、遊びに行った海外旅行の帰りに飛行機が落ちて、そのまま帰ってこなかった。
俺に残されたのは、宅急便で送られてきた沢山の土産だけだった。

1人で生きていくにはちょっとだけ早かった俺は、オヤジに引き取られた。
どんな凄い豪邸に引き取られるのかと思ったが、オヤジが暮らしていたのはちょっとデカイだけの普通の家だった。
その家にはオヤジの他に、俺と同じ位の子供も住んでいた。
そいつもオヤジの愛人の子供だそうで、名前を晋助と言った。
何があったのかは知らないが、ソイツは捻くれ曲ってて、俺と顔を合わすと何かと突っかかってきた。
俺も手が早い方だから、毎日が殴り合いだった。
それでも、自由気ままな男3人の生活は意外と過ごしやすくて…俺はそれなりに気にいっていた。

そんなある日、オヤジがもう1人子供を連れてきた。
ソイツは黒髪でメガネの小さな女の子で…強面な俺達を見てもビビる事無く、にっこり笑って抱きついてきた。
その日から、俺達の中心は、そいつになった。
小さくて柔らかくて可愛い妹…俺達はひと目で八恵に恋に落ちた…

半分だけ血が繋がってるなんて、知ったこっちゃねぇ。
欲しくて欲しくて欲しくて…
やっとキスに応えてくれた…俺のモノになってくれた…
俺の…俺の八恵…
何が有っても、こいつだけは護る。俺の命に代えても…



「おい…十四郎…パチ恵がまだ…起きてこないんだが…」

俺が居間に入っていくと、キッチンで晋助(18)がクマ柄のエプロンを着けて朝食を作っている…
コイツ、意外と器用だからな…しかし、パチ恵が寝坊なんて珍しい…

「どっ…どうしたんだ?あっ、おっ…女の子の日か…?」

「…十四郎…それセクハラ…」

「おはよ〜さん。お?今日は晋助が朝食当番がか?パチ恵の手料理じゃないと調子が出んのぅ…パチ恵は寝坊か?よし、父さんが起こしてくるぜよ!」

坂本家家長、辰馬が汚い天パをボリボリと掻きながら、いそいそとパチ恵の部屋に向かう。
と、どたどたという音と共に、パチ恵が居間に駆け込んでくる。

「ふわぁーっ!遅刻しちゃうよ!寝坊しちゃった!!」

「パチ恵…どうした…?寝坊なんて、珍しいじゃねぇか…」

「晋助お兄ちゃんおはよう!あ、美味しそー!晋助お兄ちゃんのご飯大好き!」

パチ恵がにこにこ笑いながら、卵焼きを皿に乗せる晋助の腕にしがみつく。

「パチ恵…エロいカッコすんな…襲うぞ…」

「そうだぞパチ恵!何だその格好は、パジャマはちゃんと着やがれ!!」

パチ恵のパジャマは胸元が大きくはだけていて、むっ…胸が見えそうになってやがる…

「十四郎お兄ちゃんのえっち。」

「おっ…俺か!?」

「十四郎〜、妹に欲情するのはどうかと思うぜよ…?」

パチ恵とオヤジがジローリ、と俺を見る。
俺か!?俺のせいか!?

「嘘だよー、お兄ちゃん大好き!」

たたっ、と駆け寄ってきてぎゅーと抱き付いてくる。
朝から大胆だな。
俺が抱き返そうとすると、するっと抜ける。

「パチ恵〜、父さんはどうじゃ?」

「お父さんも大好き〜!」

たたたっ、とオヤジに駆け寄って、オヤジにもぎゅーっと抱き付く。

「晋助お兄ちゃんも大好き〜!」

今度は晋助に駆け寄ってぎゅーと抱き付く。
晋助は、にっこり笑ってパチ恵の頭をぽんぽんと撫でる。
アイツがあんな顔すんの、パチ恵の前だけだよな…兄バカめ…

「…判った…早く顔洗ってこい…遅刻すんぞ…」

「はーい。」

パチ恵がぱたぱたと洗面所に消えると、晋助が朝食を盛り付けて、オヤジがテーブルで新聞を広げる。
…パチ恵が来るまでは、皆で一緒に朝食なんて、有る訳無かった。
変わったんだな、俺達は…

パチ恵がキッチンに戻ってきて、皆で朝食を食べる。

「パチ恵、今日はどうしたんじゃ?パチ恵が寝坊なんて珍しいのう。」

「あっ…あのね?お手紙をずっと読んでたの…」

…なんで赤くなんだ…?

「手紙…?そんな長い手紙が来たのかよ…?」

「ううん、手紙は2枚なの。でもね、嬉しくってずっと何回も読み返したの!」

「…そんなに…嬉しい手紙…だったのかよ…?」

「うん!すっごく!!」

何だ!?この輝く笑顔は!?

「そんなに嬉しい手紙がか〜?お父さん気になるぜよ。どんな手紙じゃ?」

ナイス!オヤジ!!たまには役に立つじゃねぇか!

「えへへー!あのね?私ラブレター貰っちゃった!」

「「「許しませ〜ん!!!!!」」」

なっ…何可愛い顔で嬉しそうに言ってるんだ!?
パチ恵には俺が居るだろうが!!

「なっ…何でよ!私だって恋くらい…」

「八恵、そこに座るぜよ。」

珍しくオヤジが八恵と呼ぶ。
マジだな、こりゃぁ。

「…もう座ってるもん。」

「そんな…命知らずは…誰だ…?」

晋助が殺しそうな勢いでパチ恵を睨む。

「晋助お兄ちゃん顔怖い…やだ、邪魔するから言わない。」

「何もしねーから、な?言ってみ?」

そんな馬鹿は俺がシメる。俺のモンに手出してんじゃねぇよ。

「…十四郎お兄ちゃんも顔怖い…」

3人でパチ恵に迫るけど、パチ恵は俺達を睨む。

「ヤダ、絶対言わない。皆邪魔するもん!」

「そりゃぁするきに。大事な娘をさらって行こうとする悪者はお父さんが許さんぜよ。」

パチ恵の目がジワリと潤む。
あ…泣く…

「すっごく嬉しかったんだもん。絶対言わない!皆嫌い嫌い嫌いっ!」

俺達の胸に見えない矢がザクザク刺さる。
まっ…負けるか…

「八恵、オメェには俺が居るだろが。な?キスしてやるから。」

俺が両手を拡げてにこりと笑う。
いつもならとすん、と俺の腕の中に納まる筈のパチ恵がじろりと睨む。

「十四郎お兄ちゃん知らないの?兄妹は結婚出来ないんだよ?それに、別にお兄ちゃんとキスなんてしたくないもん。」

…パチ恵に拒否られた…駄目だ…立ち直れない…
なんだよ…俺達付き合ってたんじゃ…なかったのかよ…?

「…あんな…瞳孔野郎は嫌だよな…?こっち来い…もっと気持ち良い事…してやるぞ…?」

「いやっ!晋助お兄ちゃんおっぱい触るもん。嫌い、変態!!」

あ、晋助が崩れ落ちた…
しかし、そんな事やってやがったのか…後でボコる…

「お父さんなら大丈夫じゃろ?ほら、ぎゅーってするきにおいで?」

オヤジが両手を拡げてにへら、と笑う。
何でか…安心するんだよな…アイツのあの笑い顔…

「ヤダ、お父さん何か臭いもん。」

あ…オヤジが崩れ落ちた…

「もうこんな時間!遅れちゃうよ…お兄ちゃん達も早く仕度して出ないと遅刻するよ?」

パチ恵がパタパタと食器を片付けて、いってきまーす!と出ていく。
畜生…パチ恵をあんな娘に変えたのはどこのどいつだ…?許さん…
と、その前に晋助をボコろう。
崩れ落ちた晋助の前に俺が立つと、隣にオヤジが立った。

そのまま2人で晋助をボコった。