あおはる日和



今日も3年Z組は賑やかで…

今となっては2年の頃が懐かしいです…
僕はちょっとパシらされてたりしたけど、あの人達の方が全然大変じゃなかった。
又あの生活に戻りたい訳でもないし、今の生活が嫌な訳でもないんだけど…でも…

「おー、新八ィ、おはようさん。」

「あ、沖田君おはよう。」

キレイな茶髪をサラリと揺らして、王子様顔の美少年が笑いかけてくる。
僕の今の生活は、この人に気に入られた事から始まった。

いつもの如く僕がパシらされて、購買で大量のパンとジュースを買っていると、列に並べずウロウロしている沖田君が居た。
その頃僕は沖田君の事は知らなくて…一見大人しそうな美少年、ってビジュアルに騙されて、きっと買えなくて困ってるんだな、って…一緒に買ってあげたんだ。そしたらすっかり懐かれた。
おかげで僕はパシらされる事も無くなって、今迄使ったパン代も、キッチリ帰って来た。
返してきた皆は、何故かボロボロで、ビクビクしていたっけ…
後で近藤君が教えてくれたけど、沖田君が僕をパシらせてた人達に『交渉』して、全額返してくれるようにしたんだって。
コノ人は、一見ふらふらしているように見えるけど、本当は強くて優しい人なんだ。

そんな良い人なんだけど…僕にとっては一番困った人でもあるんだ…

「新八ィ〜、そろそろ俺のモノになる覚悟は出来たかィ?」

沖田君が、僕の肩に手を掛けて顔を近付ける。

「だからっ!僕は男ですってばっ!!ほんっといい加減からかうの止めて下さいよっ!」

僕は沖田君の顔を押しのけて、むぅ、と怒る。

「俺ァ新八が男でも気にしねぇよ?」

「僕は気にするんですっ!!」

もうっ!いっつもこうやって僕の事からかうんだ!
僕が赤くなるのを見て楽しんでるんだよっ!!

「そうネ、オマエは新八には似合わないヨ!新八はワタシの彼氏になるネ!!」

後ろから、どん、と僕の背中に何かが乗って来る。あぁ…今日も始まる…

「…神楽ちゃん…重い…」

「オハヨーネ新八!ワタシのモノになる覚悟は出来たカ?」

「はぁ?チャイナなんざ、新八が相手にする訳ねぇだろが。」

沖田君が神楽ちゃんをめっちゃ上下に見る。
神楽ちゃんもすぐさま沖田君を上下に見る…ホント…仲良いよな、この2人…

「神楽ちゃん…そう言う事は、好きな人に言う事だよ…?なんでも沖田君に対抗しないの。」

「違うヨ!ワタシはホントに…」

「おやおや、僕の新八君が困っているだろう?離れてあげると良い。」

伊東君…にっこりと笑って眼鏡を上げながら、神楽ちゃんの首根っこを掴んで僕から剥がしてくれる。
有難いような、大人気無いものを見たような…複雑な気分だよ…

「土方君、後は任せたよ。」

「何で俺が!?」

伊東君が、ひょいっと神楽ちゃんを土方君に渡す。
土方君が瞳孔全開で伊東君に噛み付きながらも、律儀に神楽ちゃんを受け取る。

「おはよう、伊東君、土方君。」

「やぁおはよう。今日も可愛いね、僕の新八君は。」

伊東君…この人も僕の事良くからかうんだよな…

「…おう…はよ…」

土方君は怖い顔だけど…優しい人だ。

「僕も居るよー!おはよう新八君ー!」

「あ、おはよう山崎君。」

ぶんぶんと手を振りながら近付いてくる山崎君を、銀八先生の声が引き留める。

「お〜、全員席に着け〜。ジミーは俺の新八に近付くな〜。」

「旦那〜ヒドいっすよ〜!」

担任の銀八先生も、よく僕をからかうんだ…

「やぁ、新八君おはよう。」

隣の席の桂君が笑顔で挨拶してくれて、僕の頭を撫でる。
…桂君って…なんだかお爺ちゃんみたいだよね…

「おはよう、桂君…」

すぐに日直が号令を掛けて、HRが始まる。
クラスの皆は面白い人達だけど…皆で僕をからかうのは止めて欲しいよな…嫌われるよりは、良いけどさ…

HRが終わって僕が授業の準備をしていると、僕の前に九兵衛さんがやって来る。

「しっ…新八君おはよう!今日は、君の言うようにセーラー服を着て来たんだ。どっ…どうかな…?おかしくないかな…?」

「あ、九兵衛さん…ジャージはおかしいと思います…」

九兵衛さんは女の子だけど、小さい頃から男として育てられてて…昨日まで学ランを着ていた…
セーラー服を着た方が良いかと聞かれたんで、はい、って答えたんだけど…スカートの下にジャージはいてるよ…

「なっ…何っ!?スカートのままで居ろと!?足が出るじゃないか!!」

九兵衛さんが真っ赤になって、ビックリ顔で僕を見る。

「イエ…女子は皆スカートのままですから…」

「そっ…そうか…明日!明日はチャレンジしてみる!!」

「…ちゃれんじ…ですか…?頑張って下さい…」

「おっ…おぅ…有難う、新八君!」

ぎくしゃくと自分の席に戻っていく九兵衛さんを眺めていると、東城君が僕の手を握る。
…なんで泣いてんの…?コノ人…