数日後、僕はやっと皆の分ののマフラーを編み終わった。

高杉先輩にマフラーを渡すと、ものっすごく喜んでくれて、今までで一番のとびっきりの笑顔をくれた。

あ――…和むなぁ…こ―ゆ―のを『天使の笑顔』って言うのかなぁ…

丁度一緒に居た坂本先輩がそのマフラーを見て、

「え―のぅ、え―のぅ、高杉だけズルイのぅ…あ―首が寒いぜよ…心が凍えるぜよ…」

とかあんまり言うんで、坂本先輩の分も編んだんだけど…高杉先輩がものすごく沢山毛糸をくれたから、同じヤツで…ペアになっちゃってどうかな―?と思ったけど、2人とも気にしてないみたいだから良いか。坂本先輩もすっごく喜んでくれたし。


そして、編みあがった黄色いマフラーはどうしたかと言うと…

未だに渡せないでいた。

だって…丁度タイミング悪く、僕のマフラーが編みあがった日に、総悟君はミツバさんに編んでもらったマフラーと手袋をしてきたから…
真っ白で、編み目も綺麗なそれは総悟君にすっごく似合ってて…僕の編んだマフラーなんて、渡せないよ………


部活が終わって帰り支度をする。
総悟君の首には、綺麗な白いマフラー…

余計な事しちゃたよなぁ…僕………

「…しんぱち…おきたのマフラー…」

高杉先輩が気付いて僕に近付いて来る。

「お姉さんに編んでもらったんだそうです…僕、なんか余計な事しちゃいました…」

僕があはは…と笑うと、先輩は悲しい顔をする。

「…しんぱち…いっしょうけんめいだったのに…ひよこ色のマフラー…似合うのに…」

「いっ…いえ!いいんスよ先輩っ!僕が勝手にやったんですからっ!!ちゃんと考えれば分かった事なのに…でも良かったですよっ!先に渡しちゃってたらメーワクになってるところでしたよ、僕のマフラーなんて…あんな綺麗なマフラー…僕じゃ編めませんもん………」

あれ…口に出したら何か悲しくなってきた…って、えっ!?ちょっ…勝手に涙が………

「…新八泣かせやがったな…」

高杉先輩が突然変わった。

前髪で片目が隠れ、見えている方の目が危なく光る…薄い唇が、グイ、と上がり、人を蔑み貶めるような笑みを作る…

えっ…?ちょっ…誰っ…!?この人………?怖い………

「沖田ァ!」

先輩が叫んだと思ったら、凄いスピードで総悟君に近付きマフラーで首を絞める。

「てめぇ今すぐコレ棄てろ。殺すぞ。」

えっ!?何!?ちょっ…

「誰かぁっ!!さっ…坂本先輩ぃ――――――っ!!」

「お―、久し振りに見たのぅ。”鬼”の高杉。」

ぺったぺったとのんびり坂本先輩がやってくる。

「やっ、ちょっ…先輩っ!高杉先輩止めて下さいよっ!総悟君死んじゃいますっ!!!」

「沖田は何したぜよ。あんな怒った高杉は久し振りに見たぜよ――――」

「いえっ!ぜよ―――、じゃないですからっ!総悟君は何もしてませんからっ!!止めて下さいよっ!!!」

坂本先輩が、ボリボリと頭を掻きながら2人に近付く。

「めんどくさいの―。高杉―、そろそろ止めぃ。沖田が死んじまうぜよ。それに、志村が泣きそうじゃよ―――?」

「あぁん?」

恐いままの高杉先輩が、こっちを見る。

マジで足が竦んで動けないよっ…こっ…殺されるかもっ…
でも…掴まれたままの総悟君の顔色が真っ白くなってきてるっ!?

僕は慌てて駆け寄って、高杉先輩の手をマフラーから外そうとする。
全然力が入んないよっ…僕はっ…大好きな人も助けられないっ………
力が入らないまま、それでも手を外そうとマフラーと手を引っ張ると、高杉先輩の力が緩んだ。

突然外された総悟君は、ひゅぅ、という音を鳴らした後、崩れ落ちるように座り込んで咳き込んだ。
…あぁ、大丈夫そうだ…イヤ、あんまり大丈夫そうじゃないけど…

先輩を見ると、いつものちょっとぼ―っとした優しい表情に戻っていた。

「…だって…しんぱち…がんばってたのに…ひよこ色…似合うのに………それに…しんぱち泣いた…」

高杉先輩が元に戻った―――――!良かった………